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台湾北部タイヤル族から見た近現代史
日本植民地時代から国民党政権時代の「白色テロ」へ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年3月
- 書店発売日
- 2017年4月3日
- 登録日
- 2017年3月2日
- 最終更新日
- 2017年4月20日
書評掲載情報
2017-07-09 |
読売新聞
朝刊 評者: 奈良岡聰智(京都大学教授・政治史学者) |
2017-05-20 | 日本経済新聞 朝刊 |
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紹介
近代化を頑強に拒絶し,かつての首狩りの風習,霧社事件などによって勇猛な民族として知られる台湾原住民タイヤル族。
中でも指導的立場にあり,歴史の荒波に翻弄されながらも自らの尊厳を守る闘いを行ってきた北部タイヤル族に焦点を当てる。台湾史研究の空白部分を埋める労作。
目次
プロローグ 抵抗・苦難・尊厳
第一章 台湾タイヤル族の伝統生活と戦闘組織について
はじめに
一 タイヤル族の神話伝説・居住空間・伝統生活
二 タイヤル族の組織機構とガガ(Gaga)
三 タイヤル族の戦闘
四 蕃刀と入れ墨
五 治療・呪術・信仰・禁忌
おわりに
第二章 台湾北部における日本討伐隊とタイヤル族──対日抵抗と「帰順」
はじめに
一 問題への導入 台湾北部角板山タイヤル族へのインタビュー
二 「土匪」の対日抵抗
三 日本当局の原住民政策とタイヤル族の対日抵抗
四 日本討伐隊とタイヤル族の戦闘実態
五 岸不朽の従軍記
六 タイヤル族の「帰順」・投降
おわりに
第三章 日本・台湾総督府の理蕃政策と角板山タイヤル族
はじめに
一 台湾原住民「高砂族」について
二 理蕃政策の実態と特質
三 日本植民地統治と原住民の「自治制度」
四 原住民教育とその特質
五 観光・映画と「啓蒙」
おわりに
第四章 高砂義勇隊の実態と南洋戦場──台湾原住民から見るアジア・太平洋戦争、そして国共内戦
はじめに
一 高砂義勇隊の成立と背景 志願兵制度、徴兵制と関連させて
二 銃後の台湾原住民
三 南洋戦場での激戦と高砂義勇隊
四 南洋戦場の実相と日本敗戦 病魔と飢餓・「人肉食」
五 日本敗戦後の元高砂義勇隊員
六 国共内戦に国民政府軍の一員として参戦
おわりに
第五章 一九五〇年代国民党政権下での台湾「白色テロ」と原住民──角板山タイヤル族ロシン・ワタンの戦中・戦後
はじめに
一 日本植民地時代のロシン・ワタン
二 日本敗戦と中華民国「光復」初期のロシン・ワタン
三 一九五〇年代台湾「白色テロ」の背景と特色
四 台湾における共産党の動態と原住民
五 「白色テロ」下の角板山と阿里山
六 高一生と林昭明
七 ロシン・ワタンらの入獄・処刑後の家族 林茂成を中心に
おわりに
エピローグ
あとがき
索 引
前書きなど
本書は外省人、本省人の立場からではなく、原住民の視点から見た台湾史であり、歴史学である。その際、私の関心は、平埔族のように「近代化」を受け入れた民族ではなく、それを頑強に拒絶し、対清・対日抵抗を続け、最も「野蛮」と称され、台湾原住民の中で影響力の強かったタイヤル族にある。そして、タイヤル族内でも、特に指導的立場にあった台湾北部の桃園県角板山タイヤル族に焦点を合わせる。
日本植民地時代に台湾原住民は七種族と称されていた。中華民国以降、ずっと九種族と称されていたが、最近は言語や風俗などの相違、もしくは政治的趨勢もからまり実に一六種族と称されている。その結果、タイヤル族からタロコ族、セデック族が分離した。ただし、本書が対象とする日本植民地時代、そして中華民国以降、特に一九五〇年代までは七種族、次いで九種族時期であり、したがって、タロコ族、セデック族を包括した総称としてタイヤル族とする。
従来、台湾原住民研究は主に民族学、人類学、社会学の視点から家族構成や生活様式婚姻、宗教、言語などがとりあげられてきた。他方、歴史学では原住民研究は少ない。対日抵抗である一九三〇年の霧社事件研究が進んでいるが、それ以前の原住民史研究も不十分であるが、むしろそれ以降の歴史研究は激減する。このように、研究が蓄積されつつある中部タイヤル族(現在のセデック族を含む)に対して、台湾史研究でも空白ともいえる北部タイヤル族の解明が急務である。さもなければ台湾タイヤル族のみならず、原住民の体系的かつ全面的解明は不可能だろう。その上、下関条約(馬関条約)による台湾割譲、「台湾民主国」建国、台湾全土の「土匪」の対日抵抗は捨象できないが、「土匪」の研究に比して原住民の対日抵抗は霧社事件などを除けば、未解明部分があまりに多い。日本領有前期における北部タイヤル族の抵抗を除外しては、台湾の対日抵抗史全体を構築できないのではないか。
また、分断されてきた歴史学と民族学、人類学などを結びつけることにチャレンジし、新たな学問的地平を切り開くことを目指す。なぜなら民族学、人類学と歴史学それぞれが各分野で蛸壺的に探究され、研究の幅を狭めていると感じられ、かつそのビビッドな実態を解明できないからである。
上記内容は本書刊行時のものです。