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はたらく土の虫
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2023年11月30日
- 登録日
- 2023年8月24日
- 最終更新日
- 2023年12月1日
紹介
土の上で忙しそうに動き回る虫はいったいなにをしているのか。
土の中にいるたくさんの虫は、動きにくい環境の中で何を食べ、どうやって生きているのか。
そして、生態系の中でどんな役割を担っているのか。
気鋭の研究者が、今わかっていることを解説します。
挿絵は、虫の絵で有名なくぼやまさとるさん。
ほのぼのとしながら適確に内容をとらえています。
写真は、虫たちを美しく撮れる写真家の吉田譲さん、根本崇正さん。
それらの絵や写真が、驚くような生態をもつ虫たちの世界に誘います。
目次
まえがき
第1章 生態系のはなし
1生態系の中の物質の流れ
虫たちのいる生態系
窒素やリンは土と植物の間で循環する
炭素は生物の呼吸によっていったん大気に還っていく
生物のはたらき
2植物と動物のはたらき
植物のはたらき
植物がもつ、虫たちが食べにくい硬さや渋み
動物のはたらき
食物連鎖に流れるエネルギーの量
死んだ餌から始まる腐食連鎖
3分解者が住む土の中の世界
虫たちは薄く、狭いところに集中して住んでいる
住みかの環境は細かく分かれる
強力な分解者、微生物も住んでいる
土壌動物の種類と数
4「分解」における虫たちのはたらき
体のサイズによるグループ分け
腐食連鎖を通して有機物を分解し、土をつくる
落ち葉を直接食べる大きな虫は強力な分解者
住み場所を改変する生態系エンジニア
微生物食者は微生物のはたらきに影響する
第2章 土に暮らす虫たちの紹介
1ミクロファウナ―体の幅が〇・一ミリメートル以下の極小の虫
①原生生物――植物でも動物でもない単細胞の生き物
②クマムシ――想像を超えた環境で生きられるすごい生き物
③センチュウ――多様な戦略であらゆる場所に生息する
2メソファウナ―体の幅が二ミリメートル以下の虫
①ヒメミミズ――体の節が分かれて増殖することも
②トビムシ――お尻にあるバネで飛び跳ねて逃げる
③ダニ――土壌中で最も優占する節足動物
④カニムシ――ハサミを駆使する強力なハンター
⑤カマアシムシ――眼も触角もない、鎌状の脚をもつ虫
⑥コムシ――数珠のような長い触角をもつ
⑦コムカデ、エダヒゲムシ――白く透き通った、足の少ない多足類
3マクロファウナ―体の幅が二ミリメートル以上の虫
①クモ――土の中のトッププレデター
②ムカデ――待ち伏せと毒で獲物を捕らえる
③ヤスデ――大量の落ち葉を食べて自分の糞も食べる
④ワラジムシ ――水界と陸域の中間的性質をもつ土壌で繁栄
⑤ミミズ ――土壌を耕しながら大量に食べる「大地の腸」
⑥シロアリ ――土壌動物随一の分解能力をもつ
⑦アリ ――多くが肉食、土の中では狂暴な生き物
⑧さまざまな昆虫の幼虫――一生ののうちの一時期だけ土で過ごし、物質を循環させる
⑨地表性甲虫――土に似た地味な色のものがほとんど
⑩ナメクジ、カタツムリ ――食べるものは時と場合によって変わる
第3章「分解」だけではない土壌動物のはたらき
1根に依存する土壌動物のはたらき
根からにじみ出る粘液や根と共生する菌を食べる虫
根から出る液を引き金に根の周りで分解が進む
根の周りで微生物を食べる虫が植物の成長を助ける
菌根菌と植物の共生関係
菌根菌を食べる虫も植物の成長に影響を及ぼす
2捕食というはたらき
捕食者が餌生物同士の関係性を変える
トビムシが菌根菌・腐生菌・病原菌の競争に影響する
原生生物やセンチュウも根の周りの細菌の種構成を変える
3運搬によるはたらき
運んだり運ばれたり
菌は胞子をつくって増える
多くの虫が胞子の散布に関わる
いろいろな運搬と便乗
偶然が重なって結果を導く
第4章 土壌動物の生きざま
1土壌ならではの制約
動きにくく真っ暗な土の中で生きる
匂いを利用する虫
土の中は移動しにくい
土の虫の食べ物の好き嫌い
好みはあっても土の中で選んでいる余裕はない?
土壌動物は雑食者がほとんど
2多くの種が共存できる不思議
ある空間である種が独り勝ちしないのはなぜか
餌が異なれば共存できる
ミクロスケールでの住み分けが餌の違いにつながる
トビムシとササラダニがもつ異なる生存戦略
攪乱や捕食が多様性を生み出す
3さまざまな土壌動物の集まり
場所ごとに異なる群集が形成される
地上の植物と作用し合う地下の虫
地上と地下の群集の入れ替わりは連動する
地形がさまざまな群集をつくり出す
土の虫の移動スケールに謎が残る
第5章 生態系の調和
1多様性の意義
多様な虫がいることに意義はあるのか
多様であればはたらきが大きいわけではない
少しずつ異なる性質が生態系を持続させる
2バランスが壊れてしまうその前に
土の群集の絶妙なバランス
最後に
あとがき
索引
前書きなど
「はたらく土の虫」というタイトルで自分が書籍を出すことに、なんだか大きな矛盾を抱えているような、言葉で表しがたい複雑な感情を持っている。というのも、土の虫(土壌動物)の研究を続けてきた自分こそ、土壌動物のはたらきに最も期待をしていない部類の一人なのではと思うからだ。
土壌中の生き物は、概して「分解者」という肩書をもつ。そのことを既に知ったうえで本書を手にとってくれている読者の方も多いだろう。本編で詳述するが、「分解」とは、朽ちて死んだものを生物にとって再利用可能な形にもどすという、生態系の維持に必須のプロセスである。この分解プロセスを担う者という肩書のため、土壌動物は、生態系の中のはたらき者で、役に立っているはずという大前提をもたされがちである。
しかし、いざ土壌動物の研究を始めてみると、ミミズやシロアリなど特に影響力の強い土壌動物は別として、多くに関しては、野外では分解作用の検出でさえ難しいという状況に頻繁に直面する。検出ができないわけではなく、一貫した結果がみられず、その原因も特定できない。だから、分解にどれくらい寄与しているとも寄与していないとも断言できない、そういう曖昧なデータが蓄積していくという目に合うのだ。私が専門としているトビムシ(体長〇・五~二ミリメートルくらいと小さいが、どこにでもたくさんいる土壌中の節足動物)は特にひどく、あえてこちらを翻弄しているのかと思わんばかりの、絶妙に解釈不能な結果ばかり見せてくる。世界中に五〇人くらいはトビムシを専門に扱う生態学者がいるが、みなトビムシに対する期待が顕著に低いという特徴をもっているように思う。
土壌動物のはたらきについての一般書をという、本書の執筆依頼をいただいたとき、国内では同業者も少なく今後の人気もなさそうなこの分野の、一般的な知名度を少しでも上げられるならと思い引き受けた。しかし、すぐに、どうやって自己矛盾を引き起こさずに書き切るかという課題に直面した。
できることなら土壌動物の人気を引き上げたい時に、こうした裏事情にフォーカスして実は大してはたらいていないかもしれませんという暴露本にするのは避けた方がよいだろう。いっそのこと、土壌動物のポジティブな側面を前面に押し出してきれいごとを並べたフィクションにしてしまえばいいのだろうか。しかし、この機会は、土壌動物=分解者という単純化された教科書的なお話から、もう少し踏み込んで、複雑な土の中の世界の実態を一般に広めるチャンスでもある。
そうして悶々と悩みながら、とりあえず事実を淡々と記述していくうちに、私自身、「はたらき」という言葉に、使えるかどうかや、役に立つかどうかといった人間都合のバイアスを含みすぎていたことに気がついた。
版元から一言
土に生きる虫たちがいったいそこで何をしているのかが知りたくて、多忙な研究者の著者に、無理に執筆をお願いしました。
土の虫、特に土の中に生きる虫の生態は、まだわからないことも多く、正しく説明するには専門用語を使う必要もあるため、少し難しいと思われる部分もあるかもしれません。
けれども、噛み応えある文章に分け入った先には、虫たちの知られざる生態が現れてきます。
本書のセールスポイントはあと3つ。
絵本としても楽しめること。虫の画家として有名なくぼやまさとるさんの絵は、絵としてすばらしいだけでなく、適確に内容を表しています。
2つ目は写真が美しいこと。『土の中の美しい生き物たち』の写真家、吉田譲さんと根本崇正さんの写真は、土の虫の見方を「気持ち悪い」から「きれい」に、確実に変えます。
3つ目は装丁があたたかいこと。個性あふれるデザイナー、野田和浩さんの装丁で、カバーをつけてもよし、はずしてもよしの「ずっと持っていたい」本になりました。
3年がかりでできた本書が多くの方に届くことを願っています。
上記内容は本書刊行時のものです。