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囚われのチベットの少女
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2002年5月
- 書店発売日
- 2002年5月5日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2022年4月1日
紹介
一人の少女がリーダーとなり、尼僧たちの歌を収めたカセットは、官憲の手をのがれ、監獄から出てヒマラヤを越え、世界に広まった。
10年以上を監獄の中で戦い続け、チベット抵抗運動の象徴となった尼僧ガワンサンドル、「不屈の女」の半生。
目次
はじめに
1 一枚の写真(2001年)
2 歴史の中の一家族(1950年~1979年)
3 人生の二つの軸(1983年~1987年)
4 ガリの女たち(1987年)
5 舞台への登場(1990年)
6 拷問と尋問(1990年)
7 グツァの孤独(1990年)
8 チョチョの涙(1990年)
9 崩壊した家族(1991年)
10 最後の選択(1991年)
11 ふたたびグツァへ(1992年)
12 ダプチの監獄(1992年)
13 歌う尼僧たち(1993年)
14 厳しい弾圧(1994年)
15 父との再会(1994年)
16 小さな幸せ(1995年)
17 延ばされた刑期(1996年)
18 「少女」から「チベットの女」へ(1997年)
19 チョチョへの手紙(1997年)
20 夜のトイレ(1997年)
21 広場の反乱(1998年)
22 私は出獄できない(1999年)
23 ダライラマが語る(2001年)
24 不屈の女(2001年)
解説 今枝由郎
略年表
訳者あとがき
前書きなど
○訳者・今枝由郎氏のメッセージ
私は大学に入って間もなくチベット研究を志した。三十五年程も前のことである。学生時代は、日本育英会と大学からの二つの奨学金で生活でき、アルバイトをする必要もなかった。恵まれた学生生活であったと言える。大学四年生の時に、今度はフランス政府の奨学金で一学年の予定でパリに留学した。奨学金は一学年で切れたが、幸いにすぐに大学の助手職に就くことができ、滞在を二年延長した。助手職とはいっても、先生の合意もあって、その実はほとんど学生生活の延長であり、奨学金が給料という形で支払われたようなものである。
その後一時日本に帰ったものの、またすぐにフランスに戻った。今度は国立科学研究センター(CNRS)の研究員としてである。そして現在に至っている。このCNRSというのは、まず世界でも類を見ない恵まれた研究機関で、私は何の拘束もなく全く自由に研究に没頭できた。建前上は研究職という仕事に従事しているのだが、一度として”仕事”と思ったことはなく、奨学金をもらっていた学生時代と同じ気持ちで二十五年あまり研究に従事して来た。
振り返ってみると、これほど恵まれた境遇で研究生活を送れた研究者は数少ないのではないかと思う。ありがたいことである。ところが、というか、だから、不況とか、戦争といった悲惨なことが起こっている世の中で、そうしたこととは全く関係なく、世の中の動きとはかけ離れた感があるチベット-しかも古代-を対象に研究をしていることにたいして、どこか“パラサイト(寄生)”的な後ろめたさが拭いきれなかった。あらゆる研究は、それなりにそれ自体で価値があるであろうが、やはりその時々の社会的な存在意義が問われることも事実である。
昨年九月にパリの大型書店FNACで La prisonnie de Lhassa (ラサの女囚)という本を見つけた。手にとってパラパラと頁をめくって、何か感じるところがあって買い求めた。家に帰って一気に読み終えた。今までにもこうして一気に読んだ本は幾つかある。しかし今回はただ内容に魅せられたというだけではなく、自分がチベットに長年かかわりながら、この中国に抵抗して監獄に入れられているチベット人尼僧のことを全く知らなかった青天の霹靂のような強烈な驚きがあった。本書は彼女の最初にして、現時点では唯一の伝記である。それを偶然にも手にした私は、長年パリにいて、チベット関係の仕事をしている唯一の日本人である。そう思うと、この本を、中国に占領されたチベットの現状を、この尼僧を、彼女の闘争を日本に紹介する使命のようなものを感じた。そして、とりつかれたように翻訳にとりかかった。下訳は三週間足らずの超スピードで終えることが出来た。
そしてこの訳が出版の日を見ることになったことは、訳者として感慨無量である。ただ単なる研究のための研究ではなく、現時点での社会的な意味のある仕事に従事することができたという、ほっとした充足感である。チベットは決して我々から遠く離れた秘境ではない。現時点でアジアに現存する一つの国家であり、国民である。そしてチベットは過去半世紀にわたり中国の許しがたい占領下にある。この悲劇的現実を日本は知らなさ過ぎる。この現状の是正にこの訳書が少しでも貢献するところがあれば、訳者としてこの上ない幸せである。
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。