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「てにはドイツ語」という問題
近代日本の医学とことば
- 初版年月日
- 2021年5月
- 書店発売日
- 2021年5月20日
- 登録日
- 2021年4月22日
- 最終更新日
- 2021年4月22日
紹介
日本医学と「言語的事大主義」。
いまは忘れられた、ドイツ語を日本語の語順でならべて助詞などでつなげた「てにはドイツ語」とは、ドイツ語で医学教育がおこなわれるという、きわめて特殊で限定的な場で発生し、流通した言語変種といえる。「てにはドイツ語」による教科書も出されている。この言語変種をめぐって、日本医学界ではいかなる議論がなされたのか。「医学のナショナライズ」「ナショナリズムの医学」「日本医学」「大東亜医学」、敗戦後の「アメリカ医学」=アメリカ英語への転換、それは、近代日本語のあり方のみならず、学知のあり方までをもうかびあがらせるものである。
目次
序 章 近代日本と「てにはドイツ語」 1
1 「てにはドイツ語」とはなにか 2
2 専門的・特権的な「てにはドイツ語」 5
3 医学とドイツ語――「上品ナ隠語」とその問題 11
4 現在の医療従事者がつかうドイツ語起源の隠語 13
5 近代日本語と「てには」――和辻哲郎の議論から 17
6 本書の内容 19
注 24
第一章 「てにはドイツ語」の発生 27
1 はじめに 28
2 ドイツ医学の導入 32
2―1 東校の講義―通訳 32
2―2 ドイツ語による教育へ 35
2―3 日本人による教育へ 39
ドイツ語での教育の意図 39/お雇い外国人の功績 43/学問の「ナショナライズ」とお雇い外国人からの脱却 44
3 お雇い外国人からの脱却のあとに 48
3―1 入沢達吉の回想―大沢謙二・高橋順太郎の場合 48
3―2 田代義徳の回想 50
3―3 志賀潔の回想―田口和美の場合 53
4 日本語で医学教育はできたのか 55
4―1 正則と変則、本科と別課 55
4―2 帝国大学のそとで 59
大阪医学校 59/仙台医学専門学校 62/済生学舎 63
5 おわりに 66
注 68
第二章 問題化する「てにはドイツ語」とエスペラント――一九一〇年代後半における医学界の言語問題 79
1 はじめに 80
2 大沢岳太郎・村田正太論争の概略 82
2―1 発端―田代義徳「米国ニ於ケル医学会ノ状況」 82
2―2 大沢岳太郎「医学と語学」―「日本の医学語」 83
2―3 医学界批判の雑誌『刀圭新報』について 87
『刀圭新報』とは 87/『刀圭新報』と言語問題 89
2―4 村田正太「医学用語問題」―批判 92
「国辱」としての「てにはドイツ語」 92/「属国的根性」と病床日誌問題 95/医学の「支那扶植」問題 100/穂積陳重への言及―nationalとinternationalのあいだ 103
2―5 大沢岳太郎「医界用語問題」―反批判 105
2―6 村田正太「前号所載『医界用語問題を読んで』大沢教授の明答を求む」―再批判 107
3 『刀圭新報』の立場―医学界批判としての暉峻義等の援護 110
4 村田正太におけるエスペラントの「発見」 122
4―1 「医学用語問題」をふりかえって 122
4―2 村田正太とエスペラント 126
4―3 医学界とエスペラント 128
4―4 『医人』とエスペラント 132
5 おわりに 136
注 139
第三章 浸透する「てにはドイツ語」 151
1 はじめに 152
2 印刷されない「てにはドイツ語」 155
2―1 日本のローマ字社と「てにはドイツ語」―池田孝男『我国の医学語を如何すべきか』 155
2―2 国語協会について 160
2―3 「てにはドイツ語」の実例①―加茂正一『外来語について』 161
2―4 「てにはドイツ語」の実例②―東京慈恵会医科大学の場合 165
3 印刷される「てにはドイツ語」―熱い需要のもとで 168
3―1 茂木蔵之助『新撰外科総論』『茂木外科総論』をめぐって 168
一九二〇年初版 169/一九二六年改訂『茂木外科総論』 170/一九二八年『茂木外科総論』第三版 172
3―2 小川蕃『簡明外科概論』と本名文任『新外科学』の「日独混合文」 174
3―3 『茂木外科総論』の「転向」 177
一九三九年『茂木外科総論』第一六版 177/ハンセン病の記述 181
4 おわりに 183
注 184
第四章 再問題化する「てにはドイツ語」――一九三〇年代から一九四〇年まで 187
1 はじめに 188
2 下瀬謙太郎「医学用語に関する世上の声」などから 190
2―1 「てにはドイツ語」の再問題化 190
2―2 木下益雄「医学上の言葉の改良を望む」 192
2―3 宮川米次・佐竹清・西成甫・福田邦三・神部信雄――「国辱」か「万能」か 195
3 国語愛護同盟医学部と『日本医事新報』 201
3―1 国語愛護同盟医学部例会と「てにはドイツ語」 201
3―2 『日本医事新報』について 209
3―3 『日本医事新報』と「てにはドイツ語」 211
「奴隷的医学教授用語テニハ独逸を排す」――一九三五年一一月 211/「国辱的テニハ独逸を排せよ」―一九三八年七月 214/愛国者パスツール 216
4 一九四〇年の「てにはドイツ語」問題 219
4―1 「「テニヲハ」独逸語の一掃を期せ」――一九四〇年二月 219
4―2 「「テニヲハ」独逸語の再検討」――一九四〇年四月 221
4―3 国語協会と「てにはドイツ語」――「てにはドイツ語の問題」一九四〇年七月 226
専門学校以上の講義用語に関する委員会 226/南弘 228/下瀬謙太郎、および佳木斯医科大学・台北帝国大学 228/志賀潔 232/木下正中 233
4―4 「医育刷新問題」座談会と「てにはドイツ語」問題 235
4―5 日本語による医学について―緒方富雄 240
5 おわりに 246
注 248
第五章 医学用語統一への道と医師試験用語問題 257
1 はじめに 258
2 医学用語の統一へ 259
2―1 医学界と国語愛護同盟での議論 259
2―2 日本医学会総会の決議とその後のうごき 268
2―3 敗戦による断絶 276
3 日中医学用語統一論 278
3―1 同文の問題 278
3―2 同文よりもエスペラント 280
3―3 エスペラントよりも日本語――中華民国医学会での使用言語問題 281
3―4 「日支医学用語を共通にすることの可否」 284
4 医師試験用語問題 288
4―1 医術開業試験から医師試験へ 288
4―2 医師試験規則――試験免除校の補完として 290
4―3 医師試験の変容――受験者数の激減と外国人受験者の存在 294
4―4 医師試験合格外国人の横顔―試験用語問題にふれつつ 296
4―5 問題化する医師試験用語 299
4―6 一九四五年の医師試験――歯科医師から医師へ 304
5 おわりに 308
注 309
第六章 「大東亜共栄圏」のなかの「てにはドイツ語」 319
1 はじめに 320
2 「国語国字統一問題とテニヲハ独逸語問題」――一九四一年三月 321
3 第一一回日本医学会総会と「てにはドイツ語」問題――一九四二年 325
3―1 「日本医学会総会迫る 外国語廃止問題解決されんか」 325
3―2 「「テニオハ独逸語」に就て」―批判 330
3―3 「頑迷なテニオハ独逸語論者」 333
4 第一一回日本医学会総会の総括 334
4―1 「日本医学会総会聴講記」 334
4―2 「書く場合にも外国語を廃止せよ」 336
4―3 日本医学会総会副会頭・宮川米次の総括 336
5 大東亜医学へ 338
5―1 宮川米次「大東亜医学に就て」・「大東亜建設と日本医学の使命」 338
5―2 東亜医学会 342
第一回東亜医学会 342/第二回東亜医学会 348/第三回東亜医学会 354
5―3 「大東亜共栄圏」と医学用語 357
「共栄圏の医学用語」――一九四三年二月 357/「テニオハ独逸語」を封ぜよ――一九四四年三月 359/「いわゆる「てにをは」ドイツ語の廃止に関する建議」――一九四四年九月 360
6 おわりに 365
注 366
終 章 「てにはドイツ語」の終焉――ドイツ語から英語へ 373
1 はじめに 374
2 敗戦をまたぐ『日本医事新報』 377
2―1 敗戦直前の『日本医事新報』 377
2―2 敗戦直後の『日本医事新報』――アメリカ医学と実用米国語 379
一九四五年九月一五日号の論調 379/一九四五年一〇月一日号以降の論調 386
2―3 「アメリカ式黄金万能主義」が「羨まし」くなるまで 388
サムス「訓辞」などの掲載と『アメリカ教育使節団報告書』 388/「米国留学の準備」 390
2―4 第一二回日本医学会総会 392
3 敗戦後の『茂木外科総論』――「日独混合文」から「日英混合文」へ 398
3―1 『茂木外科概論』その後――「てにはドイツ語」からの離脱 398
3―2 『簡明外科総論』――「日英混合文」へ 401
4 「言語的事大主義」という批判 406
5 おわりに 411
注 416
あとがき 423
人名索引 I
事項索引 VIII
上記内容は本書刊行時のものです。