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不寛容の時代 ボクらは『貧困強制社会』を生きている
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年8月23日
- 書店発売日
- 2021年8月23日
- 登録日
- 2021年7月31日
- 最終更新日
- 2021年8月3日
紹介
著者が非正規労働者を初めて取材した20年前、それから20年の間に非正規雇用者は急激に増え、今や働く人の約4割が非正規労働者になっている。弱者への切り捨て・差別・自己責任化する風潮などが広がり、コロナ禍でさらに日本社会の脆弱さが露呈した。
非正規労働者の実態を取材した渾身のルポルタージュ。
目次
はじめに 3
使い捨てられるアルバイト、契約社員、派遣社員たち 9
貧困の背景には、働き方の問題がある 11
手取り一五万円を超えられない四七歳男性の深い闇 27
妻からも見放された三四歳男性派遣社員の辛酸 37
「日雇い派遣」で食い繋ぐ三四歳男性の壮絶半生 47
フリーランスを志す三一歳男性の「夢と現実」 57
非正規公務員・官製ワーキングプワ 67
ますますひどくなる官製ワーキングプア 69
「ないない尽くし」非正規公務員の悲惨な実情 79
公立病院でブラック労働させられた男性の告発 89
「困窮支援相談員」の呆れるほどに悲惨な待遇 99
四八歳「市の臨時職員」超ブラック労働の深刻 109
月収一二万円で働く三九歳男性司書の矜持と貧苦 119
五五歳郵便配達員に生活保護が必要な深刻理由 129
コロナ禍・奈落の底へ 139
ぎりぎりまで助けてと言えない、広がる社会のいびつさ 141
コロナ禍がもたらしたもの 153
「コロナ感染でクビ」三〇歳男性が怯える理由 163
四〇歳料理人をクビにした社長の酷すぎる言い分 173
収入ゼロでも「生活保護は恥ずかしい」男の心理 183
孤独と差別の発達障害 193
発達障害と貧困 195
早稲田政経卒「発達障害」二六歳男が訴える不条理 209
壮絶な「いじめの記憶」に苦しむ四七歳男性の叫び 219
五〇歳の発達障害男性「社労士合格」に見た希望 229
「一〇社以上でクビ」発達障害四六歳男性の主張 239
おわりに 249
前書きなど
「なぜ貧困問題を取材するの?」。最近、ある知人からそう聞かれた。
せっかく記者になったのだから、声を上げる手立てを持たない人、声を上げる余裕のない人、自分のことをうまく伝えられない人、そんな立場の人たちの声を伝えたい。だって、企業は広報組織を持ってるし、政治家は選挙なんかを通していくらでも自分の考えを発信できるでしょ――。
私はそう答えた。
北海道新聞社を退社する直前の二〇〇〇年代なかばのころ。郵政民営化に揺れる郵政職場を取材する機会があった。最初は民営化に伴って過重労働やノルマ営業の負担が重くなっていく「本務者」に話を聞いた。当時は正社員のことを本務者と呼んでいた。次いで主な取材先が非正規社員である「ゆうめいと」へと移っていく。彼らは本務者と同じ仕事をこなしながら、年収は半分以下、あるいは三分の一程度だった。
続いて私が関心を持ったのは、郵便局からの委託を受けて荷物の配送や集荷する個人事業主たち。彼らの労働環境は本務者やゆうめいと以上に劣悪だった。今でいうところのワーキングプア状態の人たちが大勢いたのだ。
弱者、強者といういい方をするなら、私は記者としていつも、より弱い立場の側にいる人たちの声を拾ってきた気がする。それを「なぜか?」と聞かれると、これはもう自分でも説明のしようがない。
ただ貧困や労働の問題について取材、執筆を続けていると「否定的なことばかり書かないで、社会のいい面も書いて」「成功者の話も書いてバランスが取るべきだ」といった指摘を受けることもある。正直、心底どうでもいいと思ってしまう。そんなことは私が書かなくても、国や企業が放っておいても発信するし、あるいは成功者自身がいくらでも自分で書くだろう。
私は、富める者が先に豊かになれば、その後貧しい者にも自然に富がこぼれ落ちていくという「トリクルダウン」という考え方を、“二万%”あり得ないと思っている。これは、長年、労働や貧困問題を取材してきたことによってたどり着いた確信だ。
では少しでも社会をよくしようと思ったら、どうするのか。これはもう「ボトムアップ」しかないのではないか。少しでも貧困のリアルを伝えること。私が貧困問題について書き続ける理由は、もしかしたらこのあたりにもあるのかもしれない。
本書は二〇一六年六月から、東洋経済オンラインに掲載している連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」より転載、加筆したものである。
貧困や困窮状態に陥る背景にはどのような構造的、社会的な問題があるのか、あるいはどんな制度や福祉があればこぼれ落ちる人が少なくなるのか。そんなことについてもできるだけ紙幅を割いたつもりだ。
上記内容は本書刊行時のものです。