書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
信州から考える世界史
歩いて、見て、感じる歴史
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年7月15日
- 書店発売日
- 2023年7月14日
- 登録日
- 2023年3月8日
- 最終更新日
- 2024年2月15日
書評掲載情報
2023-12-16 |
毎日新聞
朝刊 評者: ジョエル・ヨース(高知県立大学教授・日本思想史) |
MORE | |
LESS |
紹介
高校・大学教員、在野の研究者など30人以上が執筆。
4つに分かれた信州各地域の歴史的な事件・事象や人物に関する遺物・遺跡・史跡・史料などから日本と世界の歴史の関係を古代から現代まで考えてみよう、というチャレンジングな試み。
――歴史学は可能性の学問であり、未来志向の学問ですから、地域の歴史を自分のこととしてとらえた瞬間に歴史学は未来学になり、よりよい未来の自分と地域をよりよく生きることに繋がると思うのです。地域の歴史を読み解くことで地域の未来も見えてくると思います。本書全体は、信州の若者へのメッセージであり、信州の未来へのメッセージだとも思っています。(本書「はじめに」より)
目次
【古代・中世】
八ヶ岳に咲いた「井戸尻文化」―信州の縄文時代……藤森英二
銅戈・銅鐸・渦巻装飾的鉄剣が発見された弥生遺跡―信濃の弥生遺跡と韓半島……中島庄一
古墳時代のシナノと渡来人―考古遺物と史書から読み解くシナノと朝鮮半島……傳田伊史
《コラム》「大黄」の謎―古代東アジアの医薬の知識と信州……傳田伊史
東アジア世界とつながる善光寺の本尊……織田顕行
信濃の善光寺はなぜ信仰を集めたのか―善光寺縁起と史資料にみる善光寺信仰の広がり……傳田伊史
諏訪信仰とモンゴル来襲―『諏方大明神画詞』にみる中世の世界観と国防意識……中澤克昭
供犠の比較史……中澤克昭
《コラム》日本遺産「信州上田・塩田平」の国際性―安楽寺八角三重塔……和根崎 剛
東アジア喫茶事情から考える中世信濃の茶……祢津宗伸
海を渡った信濃の禅僧……村石正行
諏訪御神渡りと気候変動……村石正行
鉄炮を運んだのは誰か?……村石正行
【近世】
豊臣秀吉の「村切り」と「たのめの里」……岩下哲典
徳川政権と在地権力(諸藩)……山本英二
《コラム》高遠藩主保科正之、山形、そして会津へ―戊辰戦争に至る遠因……遠藤由紀子
蘭学・洋学の発達と信州……青木歳幸
《コラム》近世信州の城と世界遺産―江戸時代の交通革命……岩下哲典
《コラム》信州中馬と塩の道……山本英二
《コラム》ソバ(Japanese buckwheat noodle)の元祖は中山道の本山宿?……岩下哲典
中国発祥の臨済禅と飯山正受庵―白隠禅師と幕末の鉄舟・泥舟……岩下哲典
《コラム》小布施の高井鴻山と北斎・小栗上野介―世界につながる「ベルリン藍」と貿易商社……岩下哲典
近代日本の魁・松平忠固と赤松小三郎 アメリカで活躍した松平忠厚とキンジロー・マツダイラ……関 良基
《コラム》横浜英人から馬術を学ぶ 上田藩士門倉伝次郎……東郷えりか
外国勢力の日本進出と松尾多勢子・伊那谷の国学……相澤みのり
《コラム》もうひとつの五稜郭(西洋式城郭龍岡城)と松平乗謨……大橋敦夫
外国人殺傷事件(東禅寺事件)と松本藩……山本英二
《コラム》苦悩する信越国境 幕末の飯山藩……宮澤崇士
【近代】
幕末・明治と『夜明け前』……窪田善雄
秩父事件と信州……篠田健一
信州の産業と経済―世界を魅了し、日本を支えた信州産生糸……池田さなえ
《コラム》鉄道網の整備と製糸・観光地開発……岩下哲典
《コラム》横浜商人小野光景と筑摩書房創業者古田晁―近代地域社会インフラの整備……岩下哲典
留学体験を糧に教育・文化の近代化に寄与した信州人……青木隆幸
《コラム》信州出身者による出版業―岩波書店・羽田書店・みすず書房・大和書房……岩下哲典
信州の軍隊と出身軍人―福島安正・安東貞美・神尾光臣・永田鉄山・栗林忠道・山田乙三……広中一成
近代日本と世界につながる信州の女性たち……遠藤由紀子
《コラム》信州の歴史と女性……遠藤由紀子
《コラム》信州の製糸産業と女性……遠藤由紀子
【現代】
アジア太平洋戦争と信州における〈本土決戦〉準備―大本営と軍機関の移転にともなう工事と強制労働……山田 朗
歩き、学び、考える、長野県の朝鮮人強制労働……竹内康人
《コラム》戦争の愚かさが残る「松代大本営予定地地下壕」……北原高子
《コラム》陸軍登戸研究所と長野県への疎開……木下健蔵
《コラム》戦争遺跡に平和を学ぶ〈安曇野編〉……平川豊志
《コラム》戦争遺跡に平和を学ぶ〈松本編〉……平川豊志
《コラム》特攻隊員・上原良司―散華ではなく戦死 英霊ではなく戦没者 偶像ではなく人間……亀岡敦子
《コラム》陸軍松本飛行場に飛来した特攻隊……きむら けん
《コラム》神宮寺本堂に残る丸木位里、丸木俊の88面の絵画……岡村幸宣
《コラム》平岡ダム工事と朝鮮人・中国人・連合国軍捕虜の強制労働・BC 級戦犯処刑……原 英章
満蒙開拓の歴史は私たちに何を教えてくれるのか……加藤聖文
《コラム》「満蒙開拓平和記念館」の建設経過と現状……寺沢秀文
《コラム》長野県内の「満蒙開拓慰霊碑」とその現状……寺沢秀文
岐阜県になった馬籠宿と藤村記念館―長野県山口村と岐阜県中津川市合併事案……岩下哲典
《コラム》オリンピックの問題点―長野大会や東京大会から見えてくるもの……岩下哲典
災害への備えを歴史から学ぶ―善光寺地震と千曲川の水害……山浦直人
《コラム》信州で起きた災害の痕跡を訪ねる……山浦直人
日本から考えるロシアのウクライナ侵略……窪田善雄
前書きなど
はじめに
本書は、信州各地域の歴史的な事件・事象や人物に関する遺物・遺跡・史跡・史料などから日本と世界の歴史の関係を古代から現代まで考えてみよう、というチャレンジングな試みです。
信州に住む方のみならず、修学旅行や観光旅行、ビジネスなどで一度は信州を訪れたことがある方、また、これから信州に行こうとする方、住もうとする方、ともかく信州に関心のある方にぜひ読んで頂きたいという思いで制作しました。信州にも日本や世界につながる歴史がこんなにもある、ということを知っていただければと思った次第です。
ところで、「信州」とは、なんでしょうか。
信州は長野県のことを指した江戸時代を含めたそれ以前の言い方です。信濃の国(州)を縮めたことばですが、なぜ古い言葉である信州をタイトルにしたのでしょうか。もちろん本書は古代から現代までを扱っているにも関わらずです。
実は執筆者と編集委員とのやり取りの中で、長野を使わないのはおかしいではないか、という意見がありました。確かに長野県を由来にした「長野から考える」は、それはそれで良いのですが、単純に長野とは使えない事情があると思うのです。
ご承知のように長野県は大きく四つの地域に分かれます。大町・松本・塩尻の平を中心とした中信、上下の伊那谷と諏訪盆地を合わせた南信、上田・小諸・佐久平の東信、飯山・須坂・善光寺平(長野市)・屋代などの北信です。東西南北ではなく、中南東北です。
実は私(岩下)は中信出身なので中信・南信・東信・北信と言ってしまいますが、おそらく北信の方は北信・東信・南信・中信と言うのではないでしょうか。南信の方は、南信・中信・東信・北信とか、東信の方は、東信・南信・中信・北信など、自分の出身や住む地域を最初に言うのだと思います。あとは、親しみを感じている順とか、たまたま思いついた順番かで言うのだと思います。中長野、南長野、東長野、北長野とは言いません。長野市内のことならいざ知らず、長野県の四つの地域は、信濃の国、信州に由来した名称がしっくりくるのです。
長野県の県庁所在地は長野市ですが、あまりにも北に偏在していて、南信から県庁に行くにはちょっとした旅行になります。もともとふたつの県(長野県と筑摩県の一部)を合併したためこのようなことになりました。ですから、長野県の長野県民は、実は県歌「信濃の国」でしかつながっていない、「信濃の国」という共通言語しかない、とても特殊な県なのです。旧筑摩県に関係する人々(中信・南信地域の人々)は、長野県と口に出して言うのには、まだまだ違和感を持っているように思います。つまり信州という言葉ならば、中・南信の人にもすんなり受け入れられ、また東・北信の人々にもそこそこ受け入れられる言葉なのです。かつてJRや長野県庁が「さわやか信州」や「信州温泉県」などとキャンペーンを張ったこととも相まって信州が定着しました。したがいまして、古い時代の信州の用語ではなく、現代的な用語として信州は、信州(長野県)の人々に定着している言葉です。信州は現在の長野県の県域とほぼ重なりますから、都合がいいのですね。
いささか信州について語りましたが、四つの地域に分かれた信州の、日本や世界の歴史につながる、古代から現代までの事件・事象や人物に関する遺物・遺跡・史跡・史料などを解説・考察した珠玉の文章を集めたものが本書です。
信州は北アルプスや中央アルプス、南アルプスなどがそびえる中央高地、日本の屋根です。主に平野と谷間に人が住み、道や川によって人や物や金や情報が、日本海側から太平洋側へ、あるいは太平洋側から日本海側へと運ばれました。信州のそこかしこ、どこにも文化・文明の十字路的な場所がありました。大正期には綴り方教育によって教育県のイメージが定着し、また佐久総合病院などの尽力により健康的な高齢者の生き方が奨励された結果、長寿県のイメージがあります。昨今は中山間地域の過疎化や日本の屋根で作る高原野菜や温泉・登山・スキー・スケート、善光寺や松本城などによる観光立県が、信州のイメージになっています。
山の中だから、あまり世界につながるように歴史はないのではないか、とも思われるでしょう。しかし、どんな場所も世界と完全に隔絶して歴史があるところは、そうそうないと私たちは思っています。なぜなら「地域から考える世界史」プロジェクトという教育者のグループが15年ほど前から活動をはじめ、日本各地で日本と世界の歴史につながる事例をたくさん発掘し、中学や高校の社会科や地歴科教育に生かしてきたからです。そこでは、石見銀山や朝鮮通信使、明治産業革命遺産などのメジャーなものから、あまり知られていないけれど興味深い事例などが取り上げられています。その関係者が、2021年、藤村泰夫監修・藤田賀久編『神奈川から考える世界史』をえにし書房から出版しました。本書はその姉妹編にあたります。ぜひ、あわせてご覧ください。
そもそも地域の歴史を学ぶ意味とは何でしょうか。地域の歴史が日本と世界とつながった時の驚きが大事なのです。こんなことがあったのか、という驚き、そしてもっと知りたいと思うこと、それこそが地域の歴史を学んで、もっと地域のことを知って、人に知らせたいと思うこと、交流したいと思うことが大事です。本書の各文章はそうした体験を積まれた方々に、そうしたことを書いていただいたつもりです。
本書を読まれる皆さんにお願いしたいのは、自分のこととして、地域の歴史をとらえていただきたいと思います。ぜひ本書を読んで、そのことを考えていただきたいと思うのです。もちろん娯楽として本書を読んで頂いてもいっこうにかまいませんが、できれば、身近な歴史、地域の歴史が、大きな歴史に繋がっていることを発見し、その喜びを大切にしてほしいと思います。さらに、できうれば、地域の多様な史料を解読して解釈して、分析して、地域と日本・世界の歴史を考察していってほしいとも思います。
なんとなれば、歴史学は可能性の学問であり、未来志向の学問ですから、地域の歴史を自分のこととしてとらえた瞬間に歴史学は未来学になり、よりよい未来の自分と地域をよりよく生きることに繋がると思うのです。地域の歴史を読み解くことで地域の未来も見えてくると思います。本書全体は、信州の若者へのメッセージであり、信州の未来へのメッセージだとも思っています。
何しろ歴史学は決して後ろ向きの学問ではなく、未来学なのですから。
上記内容は本書刊行時のものです。