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アジアの虐殺・弾圧痕を歩く
ポル・ポトのカンボジア/台湾・緑島/韓国・済州島
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年5月10日
- 書店発売日
- 2021年5月10日
- 登録日
- 2021年4月7日
- 最終更新日
- 2021年12月10日
紹介
隣国に、忘れてはならない苦難があった…….。
観光旅行コースの中に埋もれた史実を丁寧にすくい上げ、現代史に刻まれた虐殺・弾圧による厳粛な事実を、歩いて、見て、考える異色の歴史紀行。
〈目次〉
はじめに
第1章 クメールの笑顔―ポル・ポト時代のカンボジア
1 プノンペンに到着
2 クメールの笑顔―カンボジア・リビングアーツ
3 ポル・ポト時代の表情
4 チュン・エク村のキリング・フィールド
5 トゥール・スレン虐殺犯罪博物館
6 殺す者と殺される者の境界
7 クメール・ルージュ時代の傷
コラム ラオスの不発弾―COPEビジターセンターにて
コラム いちょう団地―インドシナ難民の安住の地
第2章 緑島という監獄島―台湾の白色テロ時代
1 緑島を訪ねて
2 台北の「二二八事件」を歩く
3 台湾民主主義の到達点
コラム 台北に残る白色テロ時代の名残
第3章 四・三事件と済州島の人々―板挟みの中で
1 耽羅の面影
2 済州四・三の傷跡
3 解放後の苦難
4 済州島で何が起きたのか
5 大阪・鶴橋と済州島
おわりに
追記―「歴史の逆流」を防ぐために
目次
はじめに
第1章 クメールの笑顔―ポル・ポト時代のカンボジア
1 プノンペンに到着
2 クメールの笑顔―カンボジア・リビングアーツ
3 ポル・ポト時代の表情
4 チュン・エク村のキリング・フィールド
5 トゥール・スレン虐殺犯罪博物館
6 殺す者と殺される者の境界
7 クメール・ルージュ時代の傷
コラム ラオスの不発弾―COPEビジターセンターにて
コラム いちょう団地―インドシナ難民の安住の地
第2章 緑島という監獄島―台湾の白色テロ時代
1 緑島を訪ねて
2 台北の「二二八事件」を歩く
3 台湾民主主義の到達
コラム 台北に残る白色テロ時代の名残
第3章 四・三事件と済州島の人々―板挟みの中で
1 耽羅の面影
2 済州四・三の傷跡
3 解放後の苦難
4 済州島で何が起きたのか
5 大阪・鶴橋と済州島
おわりに
追記―「歴史の逆流」を防ぐために
前書きなど
はじめに
日本は先の大戦で焼け野原となった。それでも戦後には経済大国へと登り詰めた。日本人の勤勉さと努力の成果である。しかし、忘れてはいけない。能力が存分に発揮されたのは、平和に恵まれたからであった。
私たちの隣人は平和ではなかった。アジア各地は戦争や内戦、虐殺、圧政、そして貧困など、あらゆる苦しみが襲った。
本書で紹介するカンボジア、台湾、韓国済州島の悲劇は、日本人には他人事かもしれない。視界に入れる必要などないといわれるかもしれない。たとえ視界に捉えても、たやすく理解できないかもしれない。日本の過去に似た経験がないからだ。
日本人も先の大戦で苦しんだ。しかし、まだ敵と味方の区別はあった。本書で取り上げた隣人は、敵と味方の境界が見えなくて苦しんだ。いつ誰が命を奪いに来るか分からなかった。人は人を信じられず、ただ口を閉ざして感情を殺すしかなかった。
隣人の悲劇を他人事と言うのは簡単だ。しかし、もしかしたら、彼らは自分だったかもしれない。私たちが平和な戦後日本に生まれてきたのは偶然にすぎない。ならば、70年代のカンボジアに生まれてこなかったのも偶然にすぎない。自分と他人の間にはさほど境界がない。ならば、隣人の苦しみは、自分の苦しみだったかもしれない。妄想のようだが、本書を書くにあたり、改めて現地を訪ね、人々から話を聞き、本を読み漁ると、この妄想が限りなく真実に感じた。
いまだに核心に触れた手応えがない。今も遠くから眺めている感じがする。そこで読者にお願いしたい。もし現地を訪ねられたならば、見たこと、感じたことを教えてほしい。
過去の悲劇に今も苦しむ人がいる。近づくべきではない場面もあった。その一方で、悲劇を忘却せず、広く世界に伝えたいとの訴えもあった。このジレンマに悩みながら本書を書いた。
2020年 10月 藤田 賀久
版元から一言
東洋大学の岩下哲典教授より、以下の書評をいただきました。
新刊紹介
藤田 賀久著『アジアの虐殺・弾圧痕を歩く』
えにし書房刊、2021 年5 月10 日発行、定価:2000 円(税別)、写真多数
岩下哲典(東洋大学文学部)
本の中で良き旅をした。藤田氏の案内で、ポル・ポトのカンボジア、台湾の緑島、韓国済州島を旅した。実際にはつらく、重い旅だったが、普段であれば、知り得ないことを知り、通常であれば、見ないものを見ることができた。スタディ・ツアーなどという生易しいものではなかったが、本当に藤田氏には感謝している。
ポル・ポトのカンボジアで何があったのか、概略は知っていたが、細かいことまではよく知らなかった。今回、「S21」秘密収容所を案内していただき、今もそのことを伝える人々のお話しを聞かせていただいた。ナチス・ドイツの強制収容所の話を思い出しながら、オランダでアンネ・フランクの隠れ家に行ったことも思い出しながら、「人間はここまで残酷になれるものなのか……」。改めて人間の残虐さ、怖さ、弱さに思いをはせた。囚人にさせられてしまった罪なき人々の写真を見て、一人ひとりの人生を思わずにはいられなかった。
「台湾白色テロ」は、以前の職場の同僚中川仁氏が王育徳の研究をされていたことから、これも概略は知っていたが、「緑島」で何が行われていたのかは、正直、知らなかった。ここでも非人道的な虐殺や弾圧行為が行われていた。2・28 事件発端の現場(天馬茶房前)にも立つことができた。現在の台湾民主主義の原則「民主、対等、主権、対話」の意味も知ることができた。何度も台湾に行ったが、いったい何を見ていたのだろうかと反省した。今度台湾に行ったときには、藤田氏が案内してくださった場所を「再び」訪れてみたい。ただ緑島への高速船は黒潮を横切るそうでスリルがありそうだ。
済州島もかつて一度訪れたことがあったが、世界遺産と韓国のハワイという触れ込みで行ったに過ぎない。今回、藤田氏から4・3 事件のことを聴き、かつ、多くの写真を見せられた。なかでも、命が奪われる直前の母とその母に守られながら殺された娘の銅像をまえに「私たちはこれまで人間として進歩したのだろうか」と問いかけられ、しばしたじろいだ。4・3 平和公園の祈念館にある「白碑」にもご案内いただき、碑と棺にも思いをはせた。
どの旅も、最初は楽しい旅の始まりを予感させる。それが藤田氏の手法だ。最後は、「人間とは何か」を考えさせて、旅は終わる。旅は終わっても、「虐殺痕」「弾圧痕」は、同じ旅したものの心に残り、たぶんこれは、大げさに言えば一生消えないと思う。 現実の旅ができない今だからこそ、ぜひこの本で藤田氏と一緒に旅してほしい。特に若い人たちにもそうして欲しいと思う。藤田氏は、間違いなく、こうした旅の先達だ。
なお、「地域」との関りでは、済州島が大阪鶴橋と大いに関係がある。しかし、発掘すれば、カンボジアや台湾・済州島とも関係があるという「地域」はいろいろあるのではないか、と思う。コロナ禍下でおすすめしたい一冊だ。
上記内容は本書刊行時のものです。