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伝統演劇の破壊者 川上音二郎
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2023年4月17日
- 登録日
- 2023年3月25日
- 最終更新日
- 2023年4月21日
紹介
オッペケペー節、書生芝居で知られ、毀誉褒貶相半ばする人物である川上音二郎。しかし、日本近現代演劇開拓の先駆者としての功績は大きい。
時代の機をみるに敏で、最新事件や日清戦争劇の上演で新演劇の基礎を確立。妻の貞奴とともに欧米を巡業し、そこで観たシェークスピア劇や児童劇などの西洋演劇を積極的に日本に紹介、演劇改革を行った。さらに近代的舞台装置を取り入れ、帝国座を建設するなど、劇場改革も行った。
川上音二郎の破天荒で波瀾万丈な人生を辿り、その功績を演劇史上に位置づける。
目次
誕生から博多出奔
不思議な生まれ、不思議な名前/幼年時代/博多出奔
自由民権の壮士
自由民権運動とは/演説遣い/若き運動家たち/自由童子/講釈師から落語家へ
書生芝居への道
歌舞伎に出演する/改良ニワカ/「改良」の時代/明治二一年・二二年博多
角藤定憲
一座旗揚げ
「明治二十年国事犯事件顚末」/書生ニワカ/書生芝居/中村座進出
「オッペケペー節」/新演劇、市民権を得る/書生芝居の余波/第一回洋行
明治二六年博多/「意外」シリーズ/日清戦争劇
絶頂から転落へ
明治二八年博多/川上座/選挙に出る/二度目の落選/逃避行
欧米漫遊
サンフランシスコへ/シカゴからボストン/ワシントン、ニューヨーク、そしてロンドン
パリ万博/再び欧州へ
正劇運動
「オセロ」/「マーチャント・オブ・ヴェニス」と「ハムレット」/明治三七年博多
二代目市川左団次と川上/明治四〇年博多
帝国座、そして死
川上革新興行/自由劇場と文芸協会/帝国座/明治四三年、四四年博多
明治四四年博多、そして死
川上音二郎年譜
索引
前書きなど
川上音二郎というと、まず連想されるのは「オッペケペー」である。「川上音二郎のオッペケペー」「オッペケペーの川上音二郎」と、川上とオッペケペーは一対で語られることが多いようだ。たしかにオッペケペー節は日本近代歌謡史に名を残す大ヒットではある。しかし川上の業績はオッペケペーばかりではない。むしろ波瀾万丈の人生の中で、オッペケペーはほんのひとこまに過ぎない。
川上は日本の近代演劇に新しいジャンルを切り開いた人であった。演劇といえば歌舞伎しかなかった時代に、歌舞伎以外の出身者によって新しい演劇を創造した。川上がいなければ、今日「新派」や「新劇」と呼ばれる演劇はなかったといって過言ではないし、近代文化史自体が様変わりしていたのではないかとさえ思われるほどである。テレビドラマや映画もまったく別ものになっていたかもしれない。それが良かったのか悪かったのかは後世の判断に委ねるにしても、川上が大きな仕事を成し遂げたことは否定しようがないのである。
ところが川上の偉業についてはほとんど知られていない。教科書に川上の名前が出るとしても、せいぜい日本史の副読本の自由民権運動の項に、オッペケペー節の川上音二郎として後ろ鉢巻・陣羽織・軍扇の絵姿が載っている程度だ。むしろそれすら知らない人の方が圧倒的に多いだろう。いくら文化果つる国日本とはいえ、現在の川上に対する扱いはあまりにぞんざいではなかろうか。
もっとも、川上が後世軽んじられたについては理由がある。川上は常に変革の中心にいるのではなかった。先頭を走り続けたためである。前を走りすぎたためにアウトサイダーに終始した。さらに深刻なことは、川上の業績を上書きしてしまった、あるいはなかったことにしてしまった人たちがいるということである。川上はインテリではない。したがって自分を客観化して説明したり理論武装したりすることには長けていない。また演劇思潮・演劇理論などというものに対する履き違えも少なからずあった。インテリ層は川上のそういう面を嫌った。
おまけに川上には「法螺吹き」と言われる一種の虚言癖があり、そのためになお軽んじられた。ただしその虚言癖が、先頭を走り続けるための自衛手段、あるいは追い詰められた末のテレだとしたら、川上の評価は別のものになるはずである。川上音二郎とはいったい何者なのか。その人生を振り返りながら、川上が成し遂げた巨大な業績を再検証してみよう。
特に博多における川上の動静については、これまであまり触れられることがなかったので、本書では独立した節を設け相応の紙数を割いた。これには二つの理由がある。ひとつは、川上が博多出身であるという至極単純な理由だ。故郷であるからには、川上には博多に相当な思い入れがあるはずで、東京や大阪などの大都市では見せない川上の素顔がうかがえると考えるからである。もうひとつの理由は、地方での興行の実態を知ることは、中央のそれを知ることになるという確信からである。特に特に川上が生涯かけて追い求めた舞台装置と場面転換の問題は、地方からの視点抜きに語ることができない。(「本書「はじめに」より」)
上記内容は本書刊行時のものです。