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ビリガマ 青井こうき(著/文) - ポット出版プラス
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ビリガマ (ビリガマ) 高卒に厳しくなってきたゲイ社会をたくましく生きる店子の日常 (コウソツニキビシクナッテキタゲイシャカイ)

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四六判
縦188mm 横128mm 厚さ15mm
重さ 350g
256ページ
並製
価格 1,600円+税
ISBN
978-4-86642-028-8   COPY
ISBN 13
9784866420288   COPY
ISBN 10h
4-86642-028-6   COPY
ISBN 10
4866420286   COPY
出版者記号
86642   COPY
Cコード
C0979  
0:一般 9:コミック 79:コミックス・劇画
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2024年9月10日
書店発売日
登録日
2024年7月5日
最終更新日
2024年11月22日
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書評掲載情報

2025-01-15 現代性教育研究ジャーナル  No.166
評者: 今福貴子(日本性科学連合事務局長)
2024-10-17 週刊文春  10月24日号
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紹介

お洒落なエリート・ゲイでも、社会的に脚光を浴びる人権活動家でもない、自称ビリガマ(=底辺ゲイ?)のリアルな日々

目次

1話●ゲイの学歴マウント
2話●ホムパのUMA
3話●途中参加の乱パ
4話●ビリガマ
5話●なぜ売り専でアウフヘーベンできるのか、
6話●祖母への恩返し
7話●僕のセミと弟のセミ
8話●消えた正一くん
9話●あの時の復讐
10話●子供のクエスチョン
11話●子供はいつも真剣
12話●カリキュラムの迷走
13話●タイプ外の人に恋した一夏
14話●男武装
15話●僕とヤンキー校
16話●僕は春日部に住んでみたい
17話●勃起って理解されにくい
18話●台湾で再びビリガマになるでございます。

前書きなど

●こうきさんコミックエッセイ出版に寄せて

こうきさんとの
付き合いは長い。

ちあきホイみ(歌手、女装)

20代半ば、私がオープン間もないアデイに通い始めたころ、伏見グランマのメルマガで「紅顔の美少年、新人店子こうき入店!」と鳴り物入りのキャンペーンを張られていたのを思い出す。お客さんへの紹介ですぐにグランマから二丁目の綾波レイ等とイジられていたが、たしかに最初の印象は「感情が見えない不思議な子」だった。

あれから10年。作中にも記載がある通り、わたしはその後アデイで開催されたJSC(注:女装支援センター。女装の自立を促すアデイ特別企画。2010年代半ばに頻繁に催された。)でメイクを学び、アデイの換気扇をバックに歌女装「ちあきホイみ」のスタイルを確立、八方不美人のメンバーとしてのデビューのきっかけもアデイから頂いた。20代後半から30代後半のゲイ、そして女装としての青春が詰まったこの店での10年。いつだってカウンターの中にはこうきさんがいた。

こうきさんとは年は少し違えど、二丁目での同期当選の盟友のような感覚がある。何かキッカケがあってというわけでもないが、アデイに足繫く通っているうち、徐々にこうきさんの感情の機微が見えてくるようになったし、こうきさんも私に気持ちをぶつけてくれるようになっていった。アデイのスタッフ&常連で行った諏訪旅行の露天風呂で、私が会話もそっちのけで別のイケメン店子の股間を凝視(注:本人は気付かれないようにチラ見しているつもりだった)しているのを、「あからさまでみっともない、一緒にいて恥ずかしい」とたしなめてくれた時、私は綾波レイに突然ビンタされた碇シンジのようにハッとしてしまった。二丁目同期ゆえの愛のムチである。

みっともない年上を冷静にたしなめてくれるこうきさんではあるが、傍から見ればこうきさんも私も生粋のビリガマである。その後も、お互いに「なんでそんな男と!? バカなの!?」と指摘しあいながら本人はいたって本気で“展望のない”恋愛に入れ込んでいたり、はたまた彗星のごとく店に現れた一人の男を巡って骨肉の争いを繰り広げたりと、同じ土俵で泥まみれになりながら青春を生き抜いた二丁目の戦友だ。(BGM:岩崎宏美「聖母たちのララバイ」)

この本は、そんな戦友のこうきさんが、30年の半生で遭遇した様々なエピソードが緩急織り交ぜられながら繰り出される。いくつかのエピソードは、これまでの酒の席で聞いたこともあったが、同期会の席順とクイズ大会の話やツチノコ呼ばわりの話など、改めてマンガで読むと、こうきさんが遭遇した現実のあまりの苛烈さに、ゲラを読みながら吹き出してしまった。

通常、人間はこういった理不尽に遭遇すると、経験の詳細を記憶から消したり(注:ホイみはよくやる)、自分に都合の良い形に自虐も含めて面白おかしく記憶を再編したりするものだが、この本の読後感には、そういった記憶操作の印象がない。他の人が書けば「こんなヒドイ話ある!?」と嘘くさくなるレベルの話も、こうきさんの言葉と絵に乗せると、淡々とした不思議な客観性を纏って、「本当にこんな現実があるんだ」と納得させられてしまうのだ。

ゲイの戦場エピソードから幼少期の日常エピソードまで、こうきさんの生み出す作品に通底する、この一歩引いた感覚、自分の体験を斜め上から眺めているような不思議な描写の妙は、この10年間、アデイの店内で繰り広げられたあまりにも様々な人間模様を、カウンターの内側からずっと見ていた、その経験に裏打ちされているのだろう。この感覚と視点は、同じ10年間を同じ店で過ごした戦友とはいえ、客席側で自虐ネタに興じていた私には得られない、カウンターの内側で磨き上げられた技術のように思う。

こうきさんが生きてきた環境・味わった経験は私のそれとは違うので、シンクロ率400%というわけにはいかないが(注:あたしからしたら、ビリガマという割にはちゃんとイケメンとセックス出来ているではないかっ!)、下半身のレベルで共感したのは「ホムパのUMA」のラストのコマ。ノケ者にされた乱交の翌朝、一人片付けを押し付けられた部屋で、彼氏とその友達が残したゴミ箱のカピカピティッシュから興奮を引き出してしまうこうきさんだ。踏みにじられてなお、そのどん底の状況から、怒りではなくゾクゾクしたエロスをしっかりと煮出してしまう感性は、残念ながら私も持っている(笑)。

つまるところこの世はガチャであるし、所与の環境から必死にあがいたところで、上を見ても下を見てもマウンティングの無間地獄。“レインボー”なぞと綺麗ごとを言っても、ゲイの世界も苛烈極まりない格差の現実があり、努力してビリガマを卒業した気になっても、心の奥底に染み着いた元ビリガマの痕跡はやはり消せない。

それよりも。イケメンエリートゲイにしか醸し出せない澄み切った味わいがあるように、ビリガマからしか絞り出せない通好みのエグみのある出汁もある。そのどちらも堪能できる舌を鍛えよう。それが時としてカピカピティッシュであったとしても、汚言の落書きだらけの壁紙やウンコまみれの犬(注:これらのエピソードはホイみの実体験です。詳細はアデイでご確認ください)だったとしても、そこから引き出せるがある旨味がある。

この本のビリガマエピソードが、イケメンエリートゲイ達の高級マンションのテラスで彼らが夕陽をバックに飲むシャンパンの肴になっていたとしても、そんなの知ったことではない。大いに飲んでいただこう。我々ビリガマはビリガマで、炙ったイカとぬるめの燗でしみじみ乾杯できれば、それでいい。(BGM:八代亜紀「舟歌」)

アデイで共に歩んだ10年。ビリガマの戦友であるこうきさんの出版を寿ぐと共に、ビリガマの歌い手として、深みのある出汁をじっくりと引き出せる歌を歌い、届けよう。わたしはこうきさんが紡いだこれら珠玉のビリガマエピソードを読んで、そう決意した。

ホイみの背中を押してくれた。この本は、ビリガマ界のバイブルだ!


●こうきさんコミックエッセイ出版に寄せて

こうきさんには
長生きして
ほしい

枡野浩一(歌人)

 こうきさんの人物像や、こうきさんの作品について書く評者として、自分がふさわしいのかどうかは正直疑問だったのだけれど、「作者の顔を知っているものの親しいというほどでもない」という距離感から書けることもあると信じて、この文章を書き始めている。
 自己紹介をしておくと僕は、55歳、バツイチの文筆家(歌人)。離婚歴があり、生き別れの息子がいる。そして離婚後に男性と交際を試みていた時期があるが、バイセクシャルであると積極的に公言するほどの経験はない。女性経験も少ないが、男性経験はもっと少ない。むしろカウントしたら怒られるんじゃないかと時々思うほどの経験値だ。新宿二丁目に通い始めた30代の頃は「遅咲きの狂い咲きと言って、遅くゲイに目覚めた人は激しいセックスに走りがちなんですよ」と皆に諭されたものだったけれど。特に咲かないまま萎んでしまった。30代の頃は深刻な悩みだった性的不能も、50代だともう「年相応の枯れ方」であろう。そのあたりのことは、売れなかったが電子書籍版もある拙著『愛のことはもう仕方ない』(サイゾー)に少し書きました。
 さて、こうきさんは、作家の伏見憲明さんが新宿二丁目で経営しているバー「A Day In The Life」のスタッフをしている。スタッフというか、肩書は伏見さんから任命されて「店長」であるらしい。でもいわゆる「店長」という肩書が似合うような威圧感が一切ない青年だ。おしゃべりもせず黙々と働いている。
 曜日ごとに店番が変わる「A Day In The Life」の中で僕は、とりわけ自分と同世代の主婦「マキさん」がカウンターに立つ曜日に顔を出すことがほとんどなので、こうきさんがもっと長く店にいる別の曜日に滞在すれば、別の顔を目撃することもあるのかもしれない。
 仕事仲間の、あるスポーツをやっていて胸板が厚い男を連れていった日に、その男の胸を許諾を得た上で嬉しそうに揉み、「枡野さんも鍛えてこんな胸になればいいのに」と発言したのを聞いたことはある。揉まれていた男は特に嫌そうでも嬉しそうでもなかった。同じように揉まれたいと思うわけでもなく、特に何の返事もしなかった。ほとんどそのくらいしか彼の発言で記憶しているものはない。
 しかし彼には暗い印象もない。淡々としている。顔もすっきりとしている。ゲイ界での人気ぶりはよくわからないけれども(僕の友人で、世間一般ではとても男前とは言われないような風貌なのに新宿二丁目で異様にモテる男がいて、そのモテっぷりを目撃するたびに「ドラえもんの道具で皆が騙されているみたいだ」と思う)、こうきさんが本作に描かれているほど底辺のゲイであるとは到底思えない。が、いわゆる必要以上に自分を下げることで笑いをとろうとする仕草とも全然ちがう筆致だ。ご本人は心から自分のことを「ビリガマ」と信じているのだろう、そう感じた。
 こうきさんの著書は本作が二冊目。一冊目の絵本『ぼくは、かいぶつになりたくないのに』(日本評論社)は絵をご本人が、文章を作家の中村うさぎさんが担当している。内容は彼の実体験とのことで、その壮絶な幼少期の苦悶には慄くばかりだ。なにしろ生身のこうきさんは、エキセントリックなところのない好青年なのだ。そんな悲しい過去があったなんて、とても信じられないほどだけれども、本書の漫画も独特の「本当の話らしさ」があり、それらを僕は随時驚きながら堪能した。
 僕の専門である「短歌」の世界(「歌壇」)は、高学歴者にしか席が用意されていないような側面がある。京大や東大の歌人がとても多いし、早稲田くらい出ていないと歌人と名のってはいけないのでは、と言われている気分になる日もある。僕枡野浩一のように専修大学経営学部を半年でやめたような歌人は歌壇では基本、活躍していない。であるから、本書の冒頭に収録された「ゲイの学歴マウント」には戦慄した。本当にこんな嫌がらせが存在するのかと。結末は思いのほか爽快かつ脱力感のあるオチだけれども、作り話ならばこのような展開にはしないだろうと思わせる細部の説得力がすごい。何その、日本国憲法の前文を唐突に暗唱させようとする集まり。
 男性同士の乱交に誘われたことはあるが、参加したことはない僕には、「ホムパのUMA」という一本はファンタジー界の出来事だが、ここでも主人公のこうきさんは、じつに粗末な扱いを受けてしまう。「途中参加の乱パ」も同様だ。人生で一度だけ男2人女1人の3Pをした夜を大切な思い出にしている僕には、彼の味わった惨めさがどのくらいの頻度でゲイ男子に降りかかるものなのかを実感することはできないけれど、「そこそこモテているのにモテてないふりをして描かれたゲイの手によるエッセイ漫画」とは一線を画す「いい目にあってない感」が、愛おしくてならない。
 幼少期のエピソードも、全部、変で面白い。勉強家のこうきさん、55歳頃にはどんな文や絵を発表しているかな。長生きしてください。

著者プロフィール

青井こうき  (アオイコウキ)  (著/文

現在、新宿二丁目のゲイバー【A Day In The Life】(アデイ)に店長として勤務するかたわら、イラストレーターとして雑誌などに挿絵などを寄稿。

2018年、絵本『ぼくは、かいぶつにはなりたくないのに』(作家・中村うさぎとの共著 / 日本評論社刊)を発表。
朝日新聞、週刊女性、サイゾーウーマン等で大きく取り上げられ、その独特の作風が注目される。

上記内容は本書刊行時のものです。