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地底の大冒険
タケシと影を喰らう龍魔王
- 初版年月日
- 2015年9月
- 書店発売日
- 2015年9月16日
- 登録日
- 2015年7月3日
- 最終更新日
- 2015年10月13日
紹介
■■バルザック研究の第一人者・私市保彦がおくる、現代と過去を融合させた冒険ファンタジー■■
つらいイジメに悩んだ過去を今も引きずる高校生・タケシ。あるときから、彼の住む町では<影が薄くなる>という不思議な病が蔓延しはじめる。影が薄くなった人は、しまいには亡くなってしまうのだ。
タケシの妹・マリーは、「豊年満作」を祈願する祭で、金のバチで太鼓を打つ聖女に選ばれていた。ある日突然、金のバチが盗まれ、マリーも姿を消す。実は、これらはすべて、地底の龍魔王の仕業だった。龍魔王は、聖女・マリーに霊力のある金のバチで太鼓を打たせ、地底と地上の世界を悪で支配することを企んでいたのだ。
タケシはマリーを救うため、ふしぎなきっかけで自分と合体した先祖の「三郎蛇」とともに、地底の龍魔王を倒す旅に出ることになる。地底では、霊力をもった鹿族の長老「鹿男」や、三郎の地底での妻の妹「月姫」と出会い、助けられながら龍魔王の潜む地底の奥深い地へ向かうが、途中、龍魔王の手下たちからさまざまに攻撃をうける。
また、龍魔王のせいで大切な資源を失い、災厄に襲われている「桶造りの里」と「紙漉きの里」を訪れ、その被害を目の当たりにして、タケシは怒りを募らせる。
龍魔王のもとへ行くには、三つの厳しい山、「炎の山」、「氷雪の山」、「〈大化け〉の山」を越えねばならなかった。臆病で、自分に自信を持てないタケシだったが、妹・マリーのため、自分を信頼し、助けてくれる地底の人々のため、それぞれの山に挑み、龍魔王に立ち向かうことを決意する――。
◎対象:中学生~
目次
金のバチと聖女/ふしぎな病/石像と少女/背中のあざ/古墳の森/巻 物/マリーの家出/こわれた橋/
待っていた蛇/鹿 男/ユイマン国/桶造りの里/紙漉きの里/燃えあがる山/迷い森/玉探し/森の王/
氷雪の魔界/〈大化け〉に呑まれて/黒い川/童謡のメロディーにのって/死 闘/とどろく太鼓
前書きなど
この物語は、中世から伝えられている「甲賀三郎伝承」をもとに、自由に創作されたものです。「甲賀三郎伝承」は、甲賀三郎という武者が地底の魔王にさらわれた春日姫を救いに地底に降りて、首尾よく姫を救い出したものの、兄たちの悪だくみでふたたび地上に突き落とされ、地底をさまよう物語です。同じような伝承は、グリム童話の「地もぐり一寸法師」、スペインの「クマのジョンの話」、朝鮮の「地下国大賊退治」などをはじめ、世界各地に広まっています。しかし、日本の「甲賀三郎伝承」は日本土着の諏訪神社縁起とむすびつき、物語がほぼ完全な形で語られ、地底の国々への放浪の旅もゆたかな筋書になっていて、ほかに例を見ないものです。
今までも「甲賀三郎伝承」を再話する試みはありましたが、わたしは、まったく新しい観点で自由に物語を創作しました。なによりも主人公のタケシは現代の少年であり、この物語では香月三郎という名前で登場する祖先の三郎と合体して、数々の災害をもたらす龍魔王退治におもむくのです。時代も現代が三郎の時代に重なり、古今東西の物語も登場し、とりわけ現代社会の病根を暗示したテーマで創作しました。
タケシが製薬会社の息子となっているのは、伝承を伝える家系の甲賀望月氏がときには山伏となって、医術、製薬、売薬、忍術を担っている一族であり、その末裔も現代にいたって製薬業も営んでいるという調査からもきています(伊賀と並んで甲賀地方は忍者が活躍したところであることを思い出してください)。
甲賀三郎伝承は、諏訪神社に伝わる「諏訪縁起」としても完全に残されていますが、それを伝えた人々に、諏訪神社より「鹿食免(かじきめん)」という諏訪神社によって鹿を狩猟とすることを許された山の民がいます。つまり、甲賀三郎伝承と鹿は因縁が深くて、甲賀三郎が地上に戻るときに、ユイマン国の古老に鹿の骨の団子を贈られているのもそのためと思われます。諏訪大社の御射山御狩神事(みさやまみかりしんじ)では、鹿の腹に入れた餅を食べるという儀式があります。そういうわけで、この物語でも鹿族が大きな意味をもっています。
このように「甲賀三郎伝承」のいくつかの特徴を生かしたとはいっても、この物語はまったく独自な筋書で創作されています。例えばさまざまな場面で、異界に移動するときに伝えられているイメージや錬金術のイメージが生かされています。錬金術は金をつくりだす術を人々が追究した秘法で、そこから近代の化学が発展したのですが、それ以上に錬金術を追究しながら錬金術師が精神的に高い境地に達したあとがあるという研究と見方が大事です。物語の結末をその面で考えてください。
甲賀三郎伝承については多くの人が紹介していますが、元の話を読みたい人は、現代文に訳した貴志玉造訳「諏訪縁起の事」(平凡社刊『神道集』)か、あるいは古文なら「諏訪の本地ー甲賀三郎物語」『御伽草子』(新潮日本古典集成その他)、または諏訪神社縁起として伝わっている渡邊国雄・近藤喜博編『神道集』(角川書店)があります。ただ、さいごのものは筆書きの古文書(こもんじょ)ですから、おとなになって読めるものです。
著者は多くの研究や解説を参考にしていますが、とりわけ福田晃『神道集説話の成立』(三井弥書店)という大部な研究からはじつに多くのことを学ばせて頂きました。福田氏にはこの場を借りて深く感謝いたします。
なお、この物語は児童向きファンタジー雑誌「天気輪」の第五号(2005年)~第十一号(2013年)に連載した作品をもとにまとめられています。
(著者あとがきより)
版元から一言
「甲賀三郎伝承」を物語化し、初の完結に成功!
甲賀三郎については膨大な数の伝説があります。本作の題材となったのは、以下の伝説です。
古代、とある国を治めていた父は、三人の息子のうち、特に優れた三男の三郎に家督を譲った。ある日、三郎の妻である春日姫が地底の魔王にさらわれて行方不明になる。三郎は兄たちの助けを借り、大きな人穴の奥にいた姫を助け出すが、姫の大切な鏡を取りに戻った際、嫉妬にかられた兄たちの悪だくみにより、地底に置き去りにされた。地底の国々を訪ね歩き、無事地上に戻ることができた三郎だが、その体は「蛇」になっていた―。
過去、さまざまに物語化が試みられてきた「甲賀三郎伝承」ですが、本作は初めてその完結に成功した物語です。三郎の子孫である高校生の少年・タケシが、蛇となった三郎と合体して、世界を悪で支配することを企む龍魔王との戦いに挑むため、地底への旅に出ます。旅の道中では、伝承をつないできた鹿狩りの狩人にちなんだ「鹿族の長老・鹿男」など個性豊かなキャラクターたちや伝承で語られる地底の国名等が登場し、現代と伝承がリンクしながら、ストーリーが展開します。
本書は、フランス文学を軸に、幻想文学、児童文学の研究と創作活動を続けてきた私市保彦氏が、長年構想をあたためてきた物語です。ひとりのいじめられっ子の少年が、社会を混乱させている災いに立ち向かう冒険を通して、「勇気」「他者への情・自己犠牲の心」「知恵の力」を勝ち得て成長する姿を描いています。
上記内容は本書刊行時のものです。