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東南アジアのポピュラーカルチャー
アイデンティティ・国家・グローバル化
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年3月
- 書店発売日
- 2018年3月26日
- 登録日
- 2018年2月21日
- 最終更新日
- 2020年1月9日
書評掲載情報
2020-02-21 |
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2019-05-30 |
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第48号 評者: 関本照夫 |
2018-11-30 |
Clasism(クラシズム)
2018年冬号 評者: 新谷慶子 |
2018-07-14 |
図書新聞
3359号 評者: 櫻田涼子 |
2018-04-14 | 日本経済新聞 朝刊 |
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紹介
本書は、東南アジアの人々が文化に関わる多様な価値観とどのように向き合っているのか、そうした文化の中で自らをどのように位置づけていくのか、という問題を人類学・地域研究の立場から考察した論文集。17名の執筆者はそれぞれの専門分野の立場からフィールドへ長年にわたって通い続けてきた。その経験を通じて知り得た東南アジアのポピュラーカルチャーを取り巻く現状について書かれている。東南アジア各国はこの数十年で大きく変貌している。インターネットの普及やSNSの広がり、新たな社会で生まれ育った新世代アーティストの活躍など、文化の消費と文化の価値の変化も著しい。こうした現状を把握するために、現在の状況についてのみではなく、その発展の系譜など歴史的変遷についても考察されている。論文集だが、写真やコラムも多く、誰にでも読みやすいように書かれている。東南アジアに関心がある人ならば気軽に興味深く読める。現地を訪れてみたいと考えている人や東南アジアの言語や文化について学んでみたいと考えている人にとっても、貴重な情報源ともなるはずだ。
目次
はじめに(福岡まどか)
序章:東南アジアのポピュラーカルチャー ~アイデンティティ・国家・グローバル化~(福岡まどか)
■第1部 せめぎあう価値観の中で
第1章:タイ映画・テレビドラマ・CM・MVにみる報恩の規範 ~美徳か抑圧か、「親孝行」という名のもとに~(平松秀樹)
第2章:シンガポールにおける政府対映画製作者間の「現実主義的相互依存/対立関係」(盛田茂)
第3章:農村のポピュラー文化 ~グローバル化と伝統文化保存・復興運動のはざま~(馬場雄司)
第4章:国民映画から遠く離れて ~越僑監督ヴィクター・ヴーのフィルムにおけるベトナム映画の脱却と継承~(坂川直也)
〔コラム1〕コスプレとイスラームの結びつき(ウィンダ・スチ・プラティウィ)
〔コラム2〕テレビと悪行(井上さゆり)
〔コラム3〕インドネシア映画にみられる「未開な地方」の商品化(小池誠)
〔コラム4〕タイ映画にみるお化けの描き方(津村文彦)
〔コラム5〕ポップカルチャーとしてのイレズミ(津村文彦)
〔コラム6〕イスラーム・ファッション・デザイナー(福岡正太)
〔コラム7〕タイ映画にみられる日本のイメージ(平松秀樹)
■第2部 メディアに描かれる自画像
第5章:フィリピン・インディペンデント映画の黄金時代 ~映画を通した自画像の再構築~(鈴木勉)
第6章:インドネシア映画に描かれた宗教と結婚をめぐる葛藤(小池誠)
第7章:フィリピンのゲイ・コメディ映画に投影された家族のかたち ~ウェン・デラマス監督の『美女と親友』を中心に~(山本博之)
第8章:スンダ音楽の「モダン」の始まり ~ラジオと伝統音楽~(福岡正太)
〔コラム8〕愛国歌と西洋音楽 ~インドネシアの国民的作曲家イスマイル・マルズキ~(福岡まどか)
〔コラム9〕ミャンマーの国立芸術学校と国立芸術文化大学(井上さゆり)
〔コラム10〕さまざまな制約と検閲がつくる物語の余白(山本博之)
〔コラム11〕インドネシア映画におけるジェンダー表現と検閲システム(福岡まどか)
〔コラム12〕映画を通して広まった音楽 ~マレーシア音楽・映画の父P・ラムリー~(福岡まどか)
〔コラム13〕シンガポールにおける「ナショナル」なインド舞踊の発展(竹村嘉晃)
■第3部 近代化・グローバル化社会における文化実践
第9章:メディアから生まれるポピュラー音楽 ~ミャンマーの流行歌謡とレコード産業~(井上さゆり)
第10章:インドネシア・インディーズ音楽の夜明けと成熟(金悠進)
第11章:人形は航空券を買うことができるか? ~タイのルークテープ人形にみるブームの生成と収束~(津村文彦)
第12章:越境するモーラム歌謡の現状 ~魅せる、聴かせる、繋がる~(平田晶子)
第13章:「ラヤール・タンチャップ」の現在 ~変容するインドネシア野外映画上映の「場」~(竹下愛)
〔コラム14〕東南アジア映画で増す、韓国CJグループの影響(坂川直也)
〔コラム15〕ステージからモスクへ?(金悠進)
〔コラム16〕アセアンのラーマヤナ・フェスティバル(平松秀樹)
〔コラム17〕変化する各地のカプ・ルー(馬場雄司)
〔コラム18〕スマホは複数持ち(井上さゆり)
〔コラム19〕IT化が進む農村社会(馬場雄司)
〔コラム20〕「ラテ風味」のイワン・ファルス ~インドネシアのカリスマプロテストソングシンガーの現在~(竹下愛)
〔現地レポート〕東南アジアのトコ・カセット(カセット店toko.kaset)訪問記(丸橋基)
あとがき(福岡正太)
執筆者紹介
前書きなど
本書は、東南アジアの人々が文化に関わる多様な価値観とどのように向き合っているのか、文化実践を通して自分をどのような存在として位置づけていくのか、という問題を人類学・地域研究の立場から考察した論文集である。対象として東南アジアのポピュラーカルチャーを取り上げた。16名の執筆者はそれぞれの専門分野の立場からフィールドへ長年にわたって通い続けてきた。その経験を通じて知り得た東南アジア文化を取り巻く現状について多くの人々に伝えたいと考え、一冊の本にまとめることにした。
論文集ではあるが、東南アジアに関心があり実際に現地を訪れてみたいと考えている人や東南アジアの言語や文化についてこれから学んでみたいと考えている人にも読んでもらえるような記述を心がけたつもりである。
東南アジアという地域名は現在アセアン10カ国と2002年に独立した東ティモールを合わせた地域を指して用いられる。この地域はアジアの東南部に位置し太平洋、インド洋とオーストラリアにはさまれた広大な領域を持っている。生態系や言語などの面では中国南部、インド、オセアニアなどとの連続性が見られ、また歴史的には中華文明、インド文明、イスラーム文明をはじめとする世界各地の文化的影響を受けてきた地域である。このように多様な要素がさまざまな形で混ざり合っていることは、東南アジア文化の顕著な特徴とされてきた。多くの地域が16-17世紀以降に欧米列強国による植民地支配を経験し、20世紀中頃以降の独立と国民国家の模索を経て民主化を遂げてきた。こうした経緯の中では、欧米諸国の文化的影響を長期にわたって強く受けた地域も見られる。また植民地支配や国家建設のプロセスの中では、多くの地域で近代化が推進されてきた。そして世界的に見られるメディアの発展や情報のグローバル化の影響により、東南アジアにおいても文化に関わる人々の考え方は変化しつつある。
このような変遷の中で文化をめぐる価値観は、国家統合の言説に方向づけられていた時を経て、人々の多様なアイデンティティが模索されていく方向へと向かいつつある。特に経済発展にともない1980年代以降に中間層の人々が増加したこと、メディアの発達によって情報の急速な行き来が見られること、東南アジアの各地に多様なアートスペースが作られてきたこと、そして1970年代に生まれた新たな世代のアーティストの活躍がめざましいことなどは、文化の消費と文化の価値について考える上で顕著な要因となっている。
こうした背景の中でポピュラーカルチャーについて考えることは、東南アジア文化の現状を知る上できわめて重要であると言えるだろう。本書では、ポピュラーカルチャーに注目して、今日のグローバルな資本主義を生きる人々が日常的に経験する文化についてさまざまな角度から検討を行う。
人々が日常的に経験する文化は、メディアを通して「商品化」されるものからインディーズの文化実践などにいたるまで多様なケースがあり、また必ずしも実体としてとらえきれない人々の語りや価値体系として広まっていくこともある。したがって本書の中ではポピュラーカルチャーを特定のジャンルとして設定するのではなく、文化の生産・流通・消費のあり方としてとらえることに主眼を置く。論考の中ではダンスや音楽などの上演芸術、映画やテレビなどの各種メディアにおける表現、ファッションなどの身体表象、また人形などのモノを含めた多様なトピックが取り上げられるが、それらの文化表現や身体表象をめぐる人々の語りや社会における論争なども視野に入れている。多様な事象を通して見られる人々の文化実践の現状を考察することによって、東南アジアのポピュラーカルチャーとは何かという課題についても各執筆者がそれぞれの専門分野の立場から考察している。
時代設定としては、いわゆる現代文化のみではなく、「伝統的」とされる文化も含めて人々が実際に経験する文化の現状について考えた。また、現代文化を対象とする際にもその発展の系譜や歴史的変遷について考慮するよう心がけた。さらにポピュラーカルチャーの発展に影響を及ぼした要因のひとつとして19世紀から20世紀初頭にかけて発明された録音技術に始まるメディアの変遷プロセスも取り扱った。したがって本書は20世紀初頭以降現在までという比較的長い時代設定を視野に入れている。構成は、序論に続いて「せめぎ合う価値観の中で」、「メディアに描かれる自画像」、「近代化・グローバル化社会における文化実践」という3つの部分からなっている。序論では東南アジアのポピュラーカルチャーに関する諸課題をインドネシアの事例を通して検討し、同時に総合的な考察のための視点を提示した。
各論考は上記の3つの部分のいずれかに位置づけられているが、他の部分とも関連を持っており、またそれぞれが独立したトピックを扱っている。かならずしも順番に沿って読む必要はなく、関心のあるものからランダムに読んでいただけたらと思う。
なおこの論文集の中では東南アジアのさまざまな地域の事例を扱うが、メンバー構成や専門とする研究分野などの関係でそのすべての地域は取り上げられなかった。現在の国名に沿って言えばカンボジア、ブルネイ、東ティモールなどの地域については、本書の中で触れていないことをご了承いただきたい。
本書を通して、多くの人々に東南アジア文化を取り巻く現状を伝えたいと願うとともに、日本を含む世界各地の文化を取り巻く現状について考えるきっかけやヒントも提示することができるならば、執筆者一同大変嬉しく思う。
版元から一言
この本は書名のとおり、東南アジアの国々のポピュラーカルチャーを研究した論文集です。論文といっても、一般の方が読む前提で作られており、できるだけ読みやすく、論文風にならないように書かれています。また、写真やコラムも多く、それだけでも楽しめる1冊です。
東南アジアの国々は、日本からも比較的近く身近な国々でありながら、一方で我々の知らない面も多く持っています。本書に出てくる13の論考は、そうした我々の知らない文化の多面性を教えてくれます。それも伝統芸能ばかりでなく、現代のポピュラーカルチャーについての研究は貴重です。思いもよらないカルチャーが読み手を惹きつけます。目次を見るだけでも一目瞭然ですが、フィリピン、インドネシア、タイなどの映画や音楽をテーマにしたもの、さらに、東南アジアの国々がどのようにして現在の映画や音楽の文化を持つに至ったか、さらには急速に普及するインターネットやスマホによる影響なども取り上げられています。
さらに音楽や映画に限らず、SNSで拡がったタイでの人形ブーム。社会問題にまでなった現象の研究や、ミャンマーではスマホを複数台持つ人が多いこと、インドネシアで人気の映画の野外上映会など、ポピュラーカルチャーを取り巻く現況にも言及されています。
本書を読むことで、東南アジアの人々が文化とどのように向かい合い、また文化とどのような関わりをもって過ごしているのか、精神的、政治的、宗教的、商業的、歴史的にどのような関わりがあるのか、さらに、そこから見える家族観やLGBTに関する点にまで踏み込んだ、意欲的な東南アジアのポピュラーカルチャー書となりました。巻末には2017年に実施されたインドネシアのカセットテープ販売店へのインタビューも収載しています。研究書としてはもちろん、ガイドブック的に、現地の雰囲気を感じるために気軽に読んでいただける本です。濃いめのシルバーに黄色の蛍光色を使ったカバーが印象的な一冊です。
英文書名:Popular Culture in Southeast Asia: Identity, Nation-state, Globalization
上記内容は本書刊行時のものです。