書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
自作OSで学ぶマイクロカーネルの設計と実装
マイクロカーネルの深淵を知り、骨太なスキルを身に付ける
- 初版年月日
- 2023年6月1日
- 書店発売日
- 2023年5月18日
- 登録日
- 2023年3月30日
- 最終更新日
- 2023年5月17日
紹介
マイクロカーネルOSは、「美しい設計ではあるものの、遅い実装」というイメージを持たれることがありますが、それは過去の話です。現在では、目立たないところで実用的なOSとして使われ、世界を支えています。
本書では、マイクロカーネルOSの概念からその実例まで、機能ごとに分けて説明しています。本書全体としては、基礎知識、マイクロカーネルの解説、その上で動くソフトウェア部分(ユーザーランド)の解説、そして発展的内容の4つのパートから構成されており、それぞれのパート内の章は、概念の解説部分と、その概念をどのように実装しているかを解説した実装部分に分かれています。
各章の実装例として、本書のために筆者が開発したマイクロカーネルOS「HinaOS」を用いて、わかりやすく解説しています。HinaOSは、エミュレータ上で動かすことを想定した教育目的のOSですが、OSの実装を学ぶのに必要となる最低限の機能を備え、ソースコードもシンプルにです。
また、HinaOSでの実装例のほかに、MINIX3、seL4、GNU Hurdという3つの実用マイクロカーネルOSによる実例も解説しています。複数のOSについて紹介しているのは、それぞれに特徴があり、それを比較してほしいという理由からです。「マイクロカーネルOSとは、こういうものである」という固定観念を持たず、マイクロカーネルであるからこその柔軟さ、そして設計の自由さを味わってください。OSはコンピュータの使い方をガラッと変えられる、いわば新しいソフトウェアの世界を創れる土台なのです。
本書を読み終えたら、自分でOSを作ってみてください。OSの仕組みを理解していても、実装することで新たな発見があるものです。ゼロからOSを作るのではなく、HinaOSを拡張するのもよいでしょう。HinaOSには、実装が面倒な基本機能が既に備わっています。このようにOSを拡張しやすいのもマイクロカーネルの特徴の1つです。
本来、OSはとても自由なソフトウェアです。特定のCPUにしかない変わった機能を活用した移植性ゼロのOSを作るもよし、極限まで小さくしたOSを作るもよし、自由な発想で自分の世界を創り上げることができる最高の題材なのです。
本書を手に、マイクロカーネルの深淵をのぞき込んでみてください。その舞台裏を楽しんでいるうちに、OSやアーキテクチャにとらわれないコンピュータの深い技術も身に付いているはずです。
目次
第1部 基礎知識
Chapter 1 本書について
1.1 本書に向いている人
1.2 本書で学べないこと
1.3 本書の構成
1.4 データ量の表記
Chapter 2 マイクロカーネル入門
2.1 カーネルとは
2.2 マイクロカーネルとは
2.3 マイクロカーネルの機能
2.4 マイクロカーネルの長所と短所
2.5 本書で取り上げるマイクロカーネル
2.6 ソースコードを読むにあたって
Chapter 3 教育用マイクロカーネルOS「HinaOS」入門
3.1 なぜHinaOSなのか
3.2 HinaOSの特徴
3.3 ソースコードの入手
3.4 コードリーディングのための予備知識
3.5 データ構造
Chapter 4 RISC-V入門
4.1 CPUの基本動作
4.2 特権命令
4.3 インラインアセンブリ
Chapter 5 プロセスとスレッド
5.1 プロセスの中身
5.2 スレッド
5.3 マルチタスク
5.4 カーネルレベルスレッドとユーザーレベルスレッド
5.5 スレッドの中身
5.6 実装例:HinaOSのプロセス・スレッド
5.7 スレッドの状態
5.8 コンテキストスイッチ
5.9 スケジューリング
5.10 アイドル状態
5.11 実例:MINIX3のプロセス・スレッド
5.12 実例:seL4のプロセス・スレッド
5.13 実例:Machのプロセス・スレッド
5.14 まとめ
Chapter 6 メモリ管理
6.1 仮想メモリとは
6.2 仮想メモリのメリット
6.3 物理アドレス空間の構造
6.4 仮想アドレス空間の構造
6.5 ページング
6.6 ページフォルト
6.7 実装例:HinaOSのページフォルト処理の実装
6.8 物理メモリ割り当て
6.9 実例:MINIX3のメモリ管理
6.10 実例:seL4のメモリ管理
6.11 実例:Machのメモリ管理
6.12 まとめ
Chapter 7 割り込み・例外
7.1 割り込みと例外
7.2 実例:RISC-Vの割り込み処理
7.3 タイマー処理
7.4 カーネルパニック
7.5 実例:MINIX3の割り込み処理
7.6 実例:seL4の割り込み処理
7.7 実例:Machの割り込み処理
7.8 まとめ
Chapter 8 メッセージパッシング
8.1 メッセージパッシング
8.2 非同期 vs. 同期的
8.3 通知IPC
8.4 大きなデータの転送
8.5 デッドロック
8.6 優先度の逆転問題
8.7 高速化技術
8.8 実例:MINIX3のIPC
8.9 実例:seL4のIPC
8.10 実例:MachのIPC
8.11 まとめ
Chapter 9 システムコール
9.1 システムコールの種類
9.2 実装例:HinaOSのシステムコール処理の流れ
9.3 ユーザー空間からのメモリコピー
9.4 実例:MINIX3のシステムコール
9.5 実例:seL4のシステムコール
9.6 実例:Machのシステムコール
9.7 まとめ
第3部 ユーザーランド
Chapter 10 ユーザーランド
10.1 サーバ
10.2 機構と方針の分離
10.3 シングルサーバOSとマルチサーバOS
10.4 サーバの種類
10.5 実装例:HinaOSのサーバ構成
10.6 実例:MINIX3のサーバ構成
10.7 実例:seL4のサーバ構成
10.8 実例:Hurdのサーバ構成
Chapter 11 API(Application Programming Interface)
11.1 API
11.2 メインループ
11.3 IPCスタブ
11.4 ステートフルなリクエスト
11.5 非同期メッセージパッシング
11.6 動的メモリ割り当て(malloc)
Chapter 12 デバイスドライバ
12.1 デバイスの例
12.2 デバイスドライバの仕組み
12.3 virtioデバイス
12.4 実装例:HinaOSのvirtio-netドライバ
12.5 実例:MINIX3のデバイスドライバ
12.6 実例:seL4のデバイスドライバ
12.7 実例:Hurdのデバイスドライバ
Chapter 13 ファイルシステム
13.1 ファイルシステムの要素
13.2 ファイルシステムの構造
13.3 ファイルシステムの機能
13.4 ログ構造ファイルシステム
13.5 疑似ファイルシステム
13.6 Filesystem in Userspace(FUSE)
13.7 実装例:HinaFSの設計
13.8 実装例:HinaFSの実装
13.9 実例:FATファイルシステム
13.10 ファイルシステムサーバ
Chapter 14 ネットワーク(TCP/IP)
14.1 TCP/IP階層モデル
14.2 IPv4
14.3 TCP
14.4 UDP
14.5 アドレスの解決
14.6 mbuf
14.7 実装例:HinaOSのパケット送受信処理
14.8 実例:MINIX3のTCP/IPサーバ
14.9 実例:HurdのTCP/IPサーバ
第4部 発展的話題
Chapter 15 マルチプロセッサ対応
15.1 マルチプロセッサの形態
15.2 カーネルのマルチプロセッサ対応
15.3 スピンロック
15.4 プロセッサ間割り込み
Chapter 16 仮想化とエミュレーション
16.1 ハイパーバイザ
16.2 OS互換レイヤ
16.3 コンテナ
Chapter 17 信頼性とセキュリティ
17.1 「マイクロカーネルはモノリシックカーネルより安全」という主張
17.2 高い信頼性のために必要なこと
17.3 サーバの自動再起動
17.4 ライブアップデート
17.5 「ステートの漏出(state spill)」問題
17.6 HinaOSの脆弱性からみるOSのセキュリティ
Chapter 18 ソフトウェアによるプロセス隔離
18.1 プロセス隔離の必要性
18.2 ハードウェアによるプロセス隔離
18.3 ソフトウェアによるプロセス隔離
18.4 実装例:HinaVM
18.5 ソフトウェアによる隔離は安全か?
Chapter 19 ブート処理
19.1 ブートローダ
19.2 HinaOSのブート処理
19.3 MINIX3のブート処理
19.4 seL4のブート処理
19.5 Hurdのブート処理
Appendix 付録
Appendix 1 HinaOS開発環境の構築
Appendix 2 HinaOSのデバッグ
Appendix 3 参考文献
上記内容は本書刊行時のものです。