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翻訳を産む文学、文学を産む翻訳
藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち
- 初版年月日
- 2022年3月31日
- 書店発売日
- 2022年4月8日
- 登録日
- 2022年2月15日
- 最終更新日
- 2022年3月17日
紹介
村上春樹という作家の文化的ルーツの一つには1970年代の翻訳文化がある。この時代の「新しさ」の視点から「新しい翻訳」「新しい形」で出版された実際の翻訳書や若者文化の勃興のもとで誕生した「新たな」文化空間を、藤本和子、SF小説の翻訳家たちの翻訳を通して丹念に辿る。翻訳という行為の壮大な可能性が見えてくる。
▶︎津野海太郎、藤本和子、巽孝之、柴田元幸、岸本佐知子、伊藤夏実、くぼたのぞみ(以上敬称略)といった翻訳家、SF評論家、編集者の方々に著者がインタビューした内容も収録。
目次
▶︎序章 七〇年代末頃の文学趣味の変革──村上春樹の登場
七〇年代の発話困難──翻訳を通しての自己発見
先行研究のまとめ──三つのアプローチとその不足点
同時代的想像力とは何か──二つのの構想
▶︎第一章 七〇年代の翻訳を検討するための理論的枠組み
エヴェン=ゾハルと多元システム理論
トゥーリーと記述的翻訳研究
▶︎第二章 七〇年代の翻訳が置かれた歴史的な文脈
Youngsters come into being──日本の戦後社会史上における「若者」の登場
理想の時代──「太陽族」と呼ばれる戦後派青年像
夢の時代──若者の誕生に伴う「反乱」という形での激痛
虚構の時代──文化の再編成とサブカルチャーの細分化
七〇年代の大きなパラダイムシフト──近代読者から現代読者への転移
近代読者の歩み──先行する読者論
現代読者の肖像──「新大衆」という消費者層の台頭
文学全集と雑誌から見る読者層の二重構造
▶︎第三章 ケース・スタディⅠ:ひとりの訳者、複数の作者──藤本和子の翻訳
「エクソフォニー」の系譜に連なる翻訳家──「サブカルチャー」的な生き方
六〇年代の小劇場運動における藤本和子の参加(アンガージュマン)
演劇中毒──ふたりの演劇仲間
運動としての演劇──Concerned Theatre Japan の編集作業
地下という流れに惹かれて──対抗的姿勢
立ち上がるマイノリティ、女性たち──黒人女性の「声」の復元
差別問題のパラダイム転換のために──「報告」の力
聞書という言文一致体──もうひとつの地下の流れ
新たなる沈黙に「声」を──『死ぬことを考えた黒い女たちのために』の翻訳
強かな反逆、企てられた革新──日本におけるブローティガン文学の翻訳受容
七〇年代を代弁する小説家──作品群における「パロディ」の活用
ブローティガンのサンフランシスコ時代──対抗文化との関わり
小説群が受容された経緯
『アメリカの鱒釣り』における「新しい形」の正体
ブローティガンの文体的特徴
『アメリカの鱒釣り』における「新しい翻訳」の正体
▶︎第四章 ケース・スタディⅡ:ひとりの作者、複数の訳者──日本語で構築されたカート・ヴォネガットの世界
新しい小説の書き手カート・ヴォネガット
強い肉声の響きを持つ作品群──ヴォネガットの語り口調
アメリカ小説の崩壊──ニュージャーナリストたちの奪権
Welcome to the Monkey House ──日本におけるヴォネガット文学の受容
六〇年代の黎明期──SFファンダム、共同体の形成
七〇年代の転換期──打ち寄せる「新しい波(ニューウェーブ)」、薄れゆく境界線
八〇年代以降の発展期──SFが豊かな文芸ジャンルへ
複数の翻訳家によるカート・ヴォネガット世界の構築
伊藤典夫と『屠殺場5号』(一九七三年)、『スローターハウス5』 (一九七八年)
池澤夏樹と『母なる夜』(一九七三年)
浅倉久志と『スラップスティック』(一九七九年)
飛田茂雄と『ヴォネガット、大いに語る』(一九八四年)
Translator as a Hero ──ヴォネガット受容の中心的な役割を担うSFの翻訳
翻訳一辺倒時代の『SFマガジン』──SF専業翻訳者の第一世代
「SFの鬼」福島正実の文学路線──SFの定義をめぐる論争
七〇年代における知的労働の集団化──SF界の翻訳勉強会の発足
▶︎終章 「若さ」に基づく文化的第三領域の生成──二つのケース・スタディが示すもの
ポリティカル・コレクトネスへ向かうカウンターカルチャー
文学的な地位向上を経験するSF
七〇年代の翻訳文化──ブローティガン、ヴォネガットとの共振
展望──文化的秩序の「脱構築(デコンストラクション)」のあとに
注/ 参考文献 /索引
上記内容は本書刊行時のものです。