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ボリビアを知るための65章【第3版】
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2025年1月20日
- 書店発売日
- 2025年1月31日
- 登録日
- 2024年12月24日
- 最終更新日
- 2025年1月28日
紹介
アンデスの山々やウユニ塩湖、アマゾンといった多様で豊かな自然を抱える国、ボリビア。この国の複雑な地形と自然は多様な文化をも生み出した。2006年のエボ・モラレス政権以降、民族の多様性に光が当てられ、2009年に国名を「ボリビア多民族国」と変更した。多様性の光と陰を分かりやすく描き出したボリビア入門書。
目次
はじめに
Ⅰ 自然環境と地理
第1章 国土概要――多様な地形
第2章 気候――多様な気候と近年の気候変動
第3章 アルティプラノ――旅の思い出
第4章 ユンガス――多様な渓谷地
第5章 バリェ――チチャとコプラと男と女
第6章 セルバ――サンタクルス市を中心に
第7章 アマゾン――河川からみる魅力的な空間
第8章 ウユニ塩湖――魅力と展望
【コラム1】ラパスとティティカカ湖~高地の都市と高地の湖
Ⅱ 多民族社会の諸相と社会問題
第9章 ボリビアの民族と言語――あなたはいずれかの民族に属しますか?
第10章 アイマラとウル(アンデス高地の先住民)――先住民運動と密接につながった言語の実践
第11章 ケチュア(アンデス高地の先住民)――農村から都市へ広がるグラデーション社会
第12章 チキタノ(低地の先住民)――豊富な史料とキリスト教を通して見る先住民の歴史と政治
第13章 アフロボリビア――ボリビアの民族多様性を象徴する存在へ
第14章 貧困と格差――新時代の政策議論と残り続ける構造的問題のあいだで
第15章 教育改革――ボリビアにおける異文化間二言語教育の現代的展開
第16章 保健医療――すべての人に健康と福祉を
【コラム2】「チョラ」の復権
Ⅲ 古代と植民地時代
第17章 ティワナク――宗教と儀礼を通じて統合された高原の文化
第18章 インカ帝国――クスコ発の王権とコリャスーユの関わり
第19章 アルト・ペルーの征服――混乱の中で進められた植民地づくり
第20章 スペインの植民地統治――文書の往来が支えた聖俗の三層構造
第21章 先住民共同体――インカ以前から現代まで続く、双分された世界
第22章 ポトシ鉱山――世界が求めた銀ができるまで
第23章 トゥパク・カタリ反乱――変化する植民地支配への先住民共同体の応答
【コラム3】ポトシと石見、2つの世界遺産
Ⅳ 共和国の時代
第24章 共和国の独立――苦難の歩み
第25章 サンタ・クルスの実験――ペルー・ボリビア連合の建設
第26章 バリビアンからメルガレホへ――ボリビアの国家形成
第27章 太平洋戦争――海岸部の喪失
第28章 連邦戦争とアクレ紛争――錫とゴム
第29章 チャコ戦争――現代史の転換点
第30章 チャコ世代の挑戦――国民統合の気運
【コラム4】海の出口問題
Ⅴ 多民族国へ向けての政治
第31章 ボリビア革命――政治的大転換の光と影
第32章 MNR政権の挫折と軍事政権――与党の内紛が招いた軍の政治介入
第33章 二重の移行――軍事政権の崩壊と新自由主義政策の導入
第34章 サンチェス・デ・ロサーダの時代――政治の構図を変える多様な改革
第35章 先住民の政治参加――運動の組織化と政権獲得を目指す動き
第36章 エボ・モラレスの時代①――共和国から多民族国へ
第37章 エボ・モラレスの時代②――長期政権とその理由
第38章 2019年の混乱――政権交代の正統性をめぐって
第39章 MASの復権?――野党の迫害と与党の乱れ
【コラム5】チェ・ゲバラの戦い
【コラム6】コカとコカイン
Ⅵ 経済・資源・外交
第40章 経済開発の諸条件――天然資源依存とインフォーマル経済
第41章 経済政策の変遷――資源輸出依存の功罪
第42章 農業――農業部門の構造的問題と輸出用作物生産の拡大
第43章 東部低地開発――未開拓地から新たな経済の中心地へ
第44章 鉱業モノカルチャー経済の変遷――多様なステークホルダーと鉱業部門の構造的課題
第45章 天然ガス開発――国有化による恩恵とジレンマ
第46章 サン・クリストバル鉱山――日本企業が経営した鉱山
第47章 中南米域内外交――左派政権との関係緊密化
第48章 国際社会の中のボリビア――アルセ政権の外交政策
【コラム7】リチウム開発の状況
Ⅶ 思想と文化
第49章 インディヘニスモからインディアニスモへ――ボリビアの先住民運動と政治思想
第50章 ナショナリズムから複数民族国家へ――ボリビアの政治思想と国家形成
第51章 ボリビアの文学――社会と政治と結びつきながら躍動する文学の世界へ
第52章 ボリビアの映画――ウカマウ映画の「後」へ
第53章 先住民の口頭伝承――「物語」と「歴史」の枠を超えて展開する語りの世界
第54章 オルーロのカーニバル――そして数々の祝祭に表れる人々の信仰と文化実践
第55章 ボリビアの音楽――国民統合の立役者はいま……
第56章 ボリビアの食文化――地域の多様性と象徴的な豊かさ
【コラム8】ベアトリス・パラシオスとウカマウ映画
Ⅷ 日本とボリビア
第57章 1899年の日本人移民――ボリビアと日本の事始め
第58章 北部の日本人移民――冒険者たち
第59章 初代ボリビア公使の外交――日本との外交関係の開始
第60章 サンフアン移住地――移住者がなしとげた地域開発
第61章 オキナワ移住地――沖縄とつながりあうボリビア有数の穀倉地帯
第62章 ペドロ・シモセ――詩人とその父
第63章 日本の国際協力①――60年にわたる協力の概要と成果
第64章 日本の国際協力②――人と人とのつながりが紡ぐ持続可能な開発
第65章 日本で暮らすボリビア人――オキナワ移住地とつながりあう鶴見のコミュニティ
ボリビアを知るためのブックガイド
前書きなど
はじめに
ボリビアと聞いて、多くの読者はこの国について何を思い浮かべるだろうか。「コンドルは飛んでいく」のメロディから連想するアンデス文化のイメージだろうか。今や日本人観光客に大人気のウユニ塩湖だろうか。湖面に映し出された青い空は、地球の中でちっぽけな自分と自然の偉大さを思い起こさせてくれるだろう。環境に関心が高い読者は、アマゾンを思い浮かべるかもしれない。ここ数年の報道でアマゾン火災について日本でもよく報道されるようになった。アンデス、ウユニ塩湖、アマゾンといった世界的に有名な自然を抱えている国、それがボリビアである。
この国の複雑な地形と自然は、実に多様な文化を育んできた。先住民とひとくくりにされているひとびとの中にも多様性があり、彼らを一括して語ることはできない。スペインの植民地時代は約300年に及んだが、その間もひとびとの多様性は形を変えながらも継続し、独立以降は支配体制の国民統合政策に抗うようにしぶとく生き残った。そして遂に2006年先住民出身のエボ・モラレス政権が誕生し、2009年には新憲法下でそれまでの「ボリビア共和国」から「ボリビア多民族国(Estado Plurinacional de Bolivia)という多様性を国是に掲げる国名に変更した。しかし課題は多く、苦難は続く。2019年の深刻な政変は、この国の現状が簡単ではないことを改めて教えてくれた。ただ、「多民族国」として独自の立ち位置を占めているこの国が今後どのような道を進むのか非常に興味深い。
個人的な体験を少し語りたい。
私がこの国を初めて訪れたのは1997年、まだ「ボリビア共和国」の時代であった。当時、私は大学院生で、研究対象としていたペルーを訪問するため、友人2人とブラジルからボリビアを経由して、ペルーを目指していたが、旅の途中に立ち寄ったボリビアにすっかり魅せられてしまった。帰国後、すぐに研究対象をペルーからボリビアに変え修士論文に取り掛かり、論文の資料集めのため1999年にボリビアを再訪した。当時はまだ日本にボリビアの書籍が少なく、上智大学イベロアメリカ研究所にもアジア経済研究所にもわずかな書籍はあったが、歴史学の研究に不可欠な一次史料の入手は国内では困難な時代だった。再訪したラパスの文書館を訪問したときだったか。窓口で資料の申請手続きをしていたところ、サンアンドレス大学の史学専攻の女子学生に話しかけられた。彼女は、私が修士論文の資料を収集していることを聞くとこう言った。「何のためにボリビアの歴史なんて、日本人のあなたが研究しているの」。そのとき何と答えたのか、おそらくたどたどしく何かを答えたのだろう。しかし彼女も私自身も満足すべき答えでなかったことだけは確かだった。
外国史を研究対象にするのはそれほど珍しくはない。欧米史や東アジア史を対象にしている研究者であれば、そうした質問もあまりされないかもしれない。私の場合、純粋に学問的にボリビアのことを知りたいという好奇心と、自分の立ち位置からボリビアのような国を研究した場合、当たり前と思うことが逆さまに見えてきたり、あるいは全く違う世界観を学べるのではないか、そうした期待からだった。
私はボリビアをもっと知りたくなった。もっと知るためにはそこに住んで、多くのひとと触れあい、言葉を交わすしかない。2014年から2017年に、念願叶ってこの国に滞在した。そして、今に至るまで研究者としても実務者としてもこの地域と関わり続けている。
(…中略…)
章の構成も基本的には前版を踏襲しているが、いくつかの違いもある。前版では、日本人移住者や日系人について記述が少なかったとの思いや、ここ数年、私自身が戦前のボリビアの日本人移民史の研究に取り組んでいたこともあって、第Ⅷ部「日本とボリビア」を追加した。また同部では、実務者としてボリビアと日本の間で仕事をされている方々、あるいはご自身が移住者である方にも執筆いただいた。
そういえば、第3版の執筆者の多くはボリビア在住経験者でもある。前版のときにも増してボリビア滞在経験者が増えたことは、日本とボリビアの間の距離が縮まったことの証かもしれない。ボリビアでの日常生活を通して得た、文献では入手できない貴重な体験が各章の内容に織り込まれている。
(…後略…)
追記
【執筆者一覧】
アスカルンス・メンディビル、カルラ(Carla Ascarrunz Mendivil)
ボリビア国立サンシモン大学教授、ボリビア国立サンシモン大学社会科学研究所(INCISOUMSS)所長(2019-2023)
専攻:社会学
主な著書・論文:Chimoré hecho a fuego: historias de colonizadores y grupos originarios, Cochabamba: Universidad Mayor de San Simón, Centro de Estudios de Población, 2007; Ascarrunz Mendivil, Carla et al. Diagnóstico Integral y plan de salud con enfoque cardio metabólico de las personas de barrios y comunidades en Sacaba. 2023-2024, Cochabamba: Gráfica “J.V.”, 2024.
梅崎かほり(うめざき・かほり)
神奈川大学外国語学部准教授
専攻:ラテンアメリカ地域研究、ボリビア社会史
主な著書・論文:“"La saya es nuestra": los pasos sonoros hacia la reivindicación de los afrobolivianos”, EntreDiversidades 9, 1(18), 2022; 「歌と言葉とフィールドワーク――ボリビアとの10年を考える」(清水透、横山和加子、大久保教宏編著『ラテンアメリカ出会いのかたち』慶應義塾大学出版会、2010年)
大島正裕(おおしま・まさひろ) ※編著者紹介を参照。
大沼宏平(おおぬま・こうへい)
元在ボリビア大使館専門調査員、現在は環境経営コンサルタント
岡田勇(おかだ・いさむ)
名古屋大学国際開発研究科教授
専攻:比較政治学、ラテンアメリカ政治
主な著書・論文:“What procedures matter to social acceptance of mining? A conjoint experiment in Peru,” World Development 183, 2024、“Improving Public Policy for Survival: Lessons from Opposition-Led Subnational Governments in Bolivia,”(『ラテン・アメリカ論集』54, 2020年)、『資源国家と民主主義――ラテンアメリカの挑戦』(名古屋大学出版会、2016年)
荻原孝裕(おぎわら・たかひろ)
外務省勤務、2010年2月~2015年12月外務省南米課課長補佐(ボリビア担当)、2020年7月~2024年9月、在ボリビア日本大使館参事官。
小原学(おはら・まなぶ)
独立行政法人国際協力機構(JICA)中南米部長
JICAでは、2度、合計7年のボリビア勤務(1999-2002、2018-2022)を経験。また、中南米部において、ボリビア担当や日系社会連携事業を担当した。
唐澤秀子(からさわ・ひでこ)
編集者・ラテンアメリカ文化研究
主な訳書・講演:『ドミティーラ/ヴィーゼル『私にも話させて――アンデスの鉱山に生きる人々の物語』(現代企画室、1984年)、ベアトリス・パラシオス『「悪なき大地」への途上にて』(編集室インディアス、2008年)、「ペルーアンデスで『ワロチリの神々と人びと』に出会うまで」(『口承文芸研究』41号、2018年、日本口承文芸学会)。
小森豪ディエゴ(こもり・ごう・ディエゴ)
在ボリビア日本国大使館政務・総務高等クラーク、ボリビア日本人移住資料館補佐
専攻:日本・ボリビア外交、日本人移住史、ボリビア経済史
主な著書:『ラパス日本人会90年の記録』(共編著、ラパス日本人会90年史編纂委員会、2012年)。
佐藤信壽(さとう・のぶとし)
元ボリビア日系協会連合会事務局長、1999年の「日本人ボリビア移住百周年」実施調整のためにボリビア各地日系人所在地を1994年から巡廻調整した。初期の日本人ボリビア入国者の足跡などを調査中。
佐藤正樹(さとう・まさき)
慶應義塾大学経済学部専任講師
専攻:歴史学、アンデス植民地史
主な論文:“Local Links behind a Global Scandal: The Audiencia de Charcas and the Great Mint Fraud, ca. 1650.” Rossana Barragán R. and Paula C. Zagalsky (eds.), Potosí in the Global Silver Age (16th-19th Centuries), Leiden: Brill, 2023; “Las fronteras étnicas y geopolíticas coloniales en el antiguo señorío de Pacajes: un ensayo a partir del litigio de tierras en Tiahuanaco (1669).” Historia y Cultura (La Paz), No. 43, 2022.
タピア・ロペス、インティ(Inti Judith Tapia López)
人類学者、経営工学者、料理研究者
椿賢一郎(つばき・けんいちろう)
住友商事株式会社鉄鋼原料ユニット副ユニット長(現職)
2019年4月から2023年3月まで、住友商事(株)にてサンクリストバル鉱山事業を主管する事業部部長を担う。
中島敏博(なかじま・としひろ)
独立行政法人国際協力機構JICAボリビア事務所企画調査員
サンタクルス在住、長年にわたりサンタクルス県における開発協力を担当。
中野隆基(なかの・りゅうき)
明星大学教育学部教育学科(全学共通教育委員会)常勤准教授
専攻:文化人類学、言語人類学、教育人類学
主な著書・論文:『ボリビアの先住民と言語教育――あるベシロ語(チキタノ語)教師との出会い』(風響社、2019年)
藤田護(ふじた・まもる)
慶應義塾大学環境情報学部専任講師
専攻:アンデス人類学、アイヌ語・アイヌ語口承文学研究、スペイン語教育
主な著書・論文:「『よく生きる(ブエンビビール)』という理念を問い直す――先住民の言葉と視点から何を学ぶことができるか」(桑原武夫、清水唯一朗編著『総合政策学の方法論的展開(シリーズ総合政策学をひらく)』慶應義塾大学出版会、2023 年)、"El gobierno de Evo Morales y el fantasma del nacionalismo revolucionario del 52 en Bolivia. Hacia una 'indianización' y pluralización del concepto de poder dual de René Zavaleta Mercado." EntreDiversidades 9(1), 2022.
藤浪海(ふじなみ・かい)
関東学院大学社会学部准教授
専攻:国際社会学
主な論文・訳書:「『世界のウチナーンチュ』と越境的ネットワーク」(『移民政策研究』14号、2022年)、「越境する生活史と当事者支援」(『移民研究』19号、2023年)、P.コリンズ『インターセクショナリティの批判的社会理論』(共訳、勁草書房、2024年)。
本間賢人(ほんま・よしひと)
ProjectoYOSI代表、南米ナチュラリストガイド、ウユニ塩湖ウェディングフォトグラファー
持続的な観光と環境教育・保全事業を軸に活動。
宮地隆廣(みやち・たかひろ)
東京大学大学院総合文化研究科教授
専攻:比較政治学
主な著書:『解釈する民族運動:構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析』(東京大学出版会、2014年)、『世界の中のラテンアメリカ政治』(舛方周一郎との共著、東京外国語大学出版会、2023年)
ロペス・U、ジュディス(Judith López Uruchi)
人類学者、国立サンアンドレス大学講師などを歴任
主な著書:De ayllu a gremio, de gremio a comparsa y fraternidad: danza de Ch'utas y Patak Pulliranis en Chuqi Yapu. Chuqiyapu (La Paz): Taller de Historia Oral Andina, 2023.
上記内容は本書刊行時のものです。