書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
ラテンアメリカのLGBT
権利保障に関する6か国の比較研究
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2024年12月20日
- 書店発売日
- 2024年12月20日
- 登録日
- 2024年11月7日
- 最終更新日
- 2024年12月13日
紹介
ラテンアメリカ諸国はLGBT権利保障の「先進地域」であるが、日本では紹介されることも少ない。本書はラテンアメリカのLGBTの学術書として、同地域のLGBTの権利をめぐる力学を明らかにし、国内の学術研究・社会的議論に資することを目的としている。
目次
謝辞
地図 本書で取り上げるラテンアメリカ6か国
序章 LGBTの権利保障をめぐる政治[畑惠子]
はじめに LGBTをめぐる世界の二分化
1.ラテンアメリカにおける権利保障の実態
(1)20か国の概要
(2)6か国のLGBT権利
2.LGBTの多様性と運動のジレンマ
(1)LGBTとは
(2)LGBT運動のジレンマ
3.LGBTを取り巻く環境とアイデンティティ・運動の変化
(1)カトリック教会の支配と同性愛
(2)ローカルな文化の形成
4.黎明期の解放運動――ゲイかホモセクシュアルか
(1)ストーンウォール暴動の遺産
(2)ラテンアメリカ――欧米の影響と独自の展開
5.エイズ・民主化・経済危機の時代とLGBT
(1)米国におけるHIVエイズとLGBT運動
(2)ラテンアメリカ諸国のエイズ対応
(3)エイズとLGBT組織・運動の変化
6.LGBT権利の政治争点化とバックラッシュ
(1)国際人権枠組みにおけるLGBTの権利とラテンアメリカ
(2)米州人権条約と米州人権裁判所
(3)対抗勢力のせめぎ合いとバックラッシュ
7.本書の構成
1章 アルゼンチン:同性婚合法化のその先に――トランスジェンダーの権利保障[渡部奈々]
はじめに
1.アルゼンチンにおけるLGBTの権利保障
(1)政治・社会
(2)市民運動
(3)法律・制度
(4)宗教
2.トランスジェンダーの人権をめぐる動き
(1)カサ・アニミ
(2)モレノ市ダイバーシティ課
(3)モレノ市総合運動場
(4)モチャ・セリス学校
おわりに
2章 ブラジル:性的マイノリティの権利――その保障と世界最大パレードによる主張[近田亮平]
はじめに
1.ブラジルにおけるLGBTの権利保障
(1)政治――選好されてきた社会的マイノリティ擁護
(2)市民社会――性的マイノリティの権利主張の歩み
(3)宗教――家族観や倫理にもとづく主張と政治的活動
(4)法律・制度――性的マイノリティの権利保障の試み
2.プライド・パレード――世界最大級の性的マイノリティの主張と可視化
(1)ブラジルのプライド・パレード
(2)世界最大級のサンパウロ市のプライド・パレード
(3)スローガンにおける主張とパレードの継続
おわりに――寛容性と排他性が衝突し合うブラジル
3章 ペルー――「拒否権プレーヤー」が阻止するLGBTの権利保障[磯田沙織]
はじめに
1.ペルーにおけるLGBTの権利保障
(1)市民運動
(2)政治
(3)宗教
(4)制度
2.LGBTの権利保障を阻む「拒否権プレーヤー」
(1)制度整備の条件とペルーの現状
(2)カトリック教会とプロテスタント福音派
(3)左派政治家を含む保守勢力
(4)地域間格差と首都圏以外在住の保守層
おわりに
4章 ニカラグア――LGBT(性的マイノリティ)の権利なき可視化[松久玲子]
はじめに
1.ニカラグアにおけるLGBTの権利保障
(1)LGBT運動と政治
(2)宗教と性的マイノリティ
(3)LGBTの権利保障と法整備
(4)市民社会とLGBT運動
2.LGBT運動への罠――フェミニズム運動との連携
(1)刑法204条(ソドミー法)下におけるフェミニストとの連帯
(2)オルテガの帰還とフェミニストとの対立
(3)オルテガ政権のLGBT文化支援
(4)2018年危機以降の弾圧
おわりに
5章 メキシコ――連邦主義と司法による同性婚の拡大[上村淳志]
はじめに
1.首都メキシコシティにおける先進的なLGBT運動と権利保障
(1)首都におけるLGBT運動の展開
(2)政党別のLGBTへの態度
(3)LGBTに関するキリスト教諸派の立場
(4)LGBTの権利保障の法的および制度的な展開
2.同性婚認可の時期に大幅な差がある北東部3州
(1)コアウイラ州――二人のアライに支えられたLGBTの法的な権利保障の先進州
(2)ヌエボ・レオン州――LGBT運動の早期展開と同性婚認可の大幅遅延
(3)タマウリパス州――同性婚認可の一番遅れた最も保守的な州
(4)北東部3州におけるLGBT運動の展開と同性婚認可プロセスの多様性
おわりに――日本への視座
6章 コスタリカ――民主主義体制における保守主義とLGBTの権利保障[尾尻希和]
はじめに
1.コスタリカのLGBTの権利保障
(1)宗教
(2)法律・制度
(3)政治
(4)市民運動
2.コスタリカのナショナル・アイデンティティ形成と宗教
(1)コスタリカの独立
(2)国家建設としての自由主義政権による反カトリック法
(3)コスタリカにおけるナショナル・アイデンティティの形成
(4)政府とカトリック教会の間の相互承認メカニズムの確立
おわりに
終章 6か国比較からみるラテンアメリカのLGBT権利保障の特徴[畑惠子]
1.目的・手法と各国のまとめ
2.促進要因と阻害要因
(1)民主化・経済危機・HIVエイズ流行
(2)地域および国際的な人権保護枠組みとLGBT
(3)宗教とセクシュアリティの政治的争点化
3.「性とジェンダーの多様性」がもつ含意
4.日本への示唆と総括
索引
前書きなど
謝辞
「ラテンアメリカにおけるLGBTの権利保障」に関する共同研究を初めて立ち上げたのは2018年4月のことであった。奇しくもこの年にある国会議員による「LGBTには生産性がない」と題する記事が雑誌に掲載された。それを機に、LGBTという総称が広く知られ、LGBTの人々を取り巻く環境や権利についての議論がマスコミを賑わせることになった。
2018年度は早稲田大学特定課題Bの研究助成を得て、すでに同性婚が認められていた3か国(アルゼンチン、ブラジル、メキシコ)を対象として、LGBT運動と法整備の実態解明を始めた。なぜ、これらのラテンアメリカ諸国では国際的にみても「先進的」といえるほどに権利保障が進んだのか、という素朴な疑問から始めた研究であった。だがその過程で、日本ではジェンダー・セクシュアリティ研究者の間でも実際に運動に関わる人たちの間でも、この地域の実態について関心がもたれていないことに鑑みて、ラテンアメリカ地域研究に携わる者として、この研究がもつ意味を考えるようになった。
2019年度~21年度には日本学術振興会・科学研究費(基盤研究B[一般]課題番号19H04371)を得て、「LGBTの権利保障に関するラテンアメリカ主要6カ国の比較研究」を継続した。
対象国を6か国に広げ、LGBT権利保障の進捗度によってもっとも進んだアルゼンチン、ブラジル、ある程度進んだメキシコ、コスタリカ、遅れているペルー、ニカラグアとグループ化することにより、促進要因と阻害要因、地域としての特徴を明らかにできると考えた。こうして7人による共同研究が始まったが、本格的な現地調査を予定していた2019年度末から新型コロナ感染が拡大し、海外調査ができなくなったことは予期せぬ事態であった。だがオンラインを活用して、現地研究者ともネット等で連絡を取り合い、痛手の補填に努めた。さらにパンデミックを理由として2022年度まで科研費研究が1年間の延長を認められたことにより、2019年度末から途絶えていた海外調査を2022年度後半に行うことが可能となり、政情不安定なニカラグアを除く5か国で、7人全員が現地調査を実施した。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。