書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
近代アジアのユダヤ人社会
共同体の興隆、終焉、そして復活
原書: Jewish Communities in Modern Asia: Their Rise, Demise and Resurgence
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2024年11月20日
- 書店発売日
- 2024年11月20日
- 登録日
- 2024年10月21日
- 最終更新日
- 2024年11月15日
紹介
現在、アジアに居住するユダヤ人は、アジアの数10ヶ国、100ヶ所以上に分散しており、極めて多様性のある共同体を形成している。
本書は、19世紀以降のアジア地域のユダヤ人共同体がどのように形成、衰退、再生してきたかを、主に5つの地域に分け、ユダヤ人共同体の起源、成長、人口構成、文化的社会的側面、衰退、復活、ネットワーク、非ユダヤ人との関係といったテーマに基づき分析する。
目次
近代アジアのユダヤ人社会
謝辞
日本の読者へ
第1章 近代アジアのユダヤ人社会――共同体成立の背景、特徴そして主な問題[ロテム・コーネル]
主な問題と調査手法
構成と中心テーマ
第1部 中央および北アジア――移動と文化生活
第2部 南アジア――英領および独立後のインドにおけるアイデンティティと文化
第3部 東南アジア――歴史上のさまざまな遺産と共同体の芽生え
第4部 東アジア――中華圏における共同体と政治活動
第5部 仮想のアジア――見えざる共同体と失われた部族
第1部 中央および北アジア――ロシアの影響圏内の新旧ユダヤ人共同体
第2章 “ユダヤトライアングル”の終焉――中央アジアの地理と流動性[トーマス・ロイ]
ジュディオ・ペルシア系共同体――帝国と国民国家
ユダヤトライアングル内外の行き来
中央アジアに生まれた新しい共同体――シェラバードの事例
ユダヤトライアングルの終焉
ソビエト中央アジアにおける生活
第3章 ソビエト中央アジアへの戦時疎開とユダヤ人――文化的出会いと文学[アンナ・P・ロネル]
疎開と中央アジアへの移動問題
都市の生活――都市部での共存モデルとしてのタシケント
農村地帯の経験――中央アジアの農場における厳しい生活
移動の結末
第4章 フロンティアのユダヤ人――シベリアの共同体とその建築[アンナ・ベレジン、ウラジミル・レヴィン]
帝政時代のシベリアにおけるユダヤ人の入植
シベリアのユダヤ人とその自画像
シベリアのシナゴーグとその建築様式
ソビエト時代とその余波
結び
第2部 南アジア――英領および独立後のインドにおけるアイデンティティと文化
第5章 インド亜大陸のユダヤ人共同体――インド民族主義とシオニズムの狭間[ナタン・カッツ、ジョアン・G・ローランド、イタマール・テオドル]
ユダヤ人共同体とインド民族主義運動
シオニズムのインパクト
インド・ユダヤ人の貢献
アイデンティティ紛争の帰結
第6章 インド亜大陸のユダヤ人軍人――アジアの特異な伝統[ラン・アミタイ]
イギリス東インド会社とそのユダヤ人セポイ
セポイの反乱(一八五七~五八年)とその後の改革
総力戦の時代と徴募の拡大――一九一四~四七年
独立インド国軍内のユダヤ人――一九四七年~現在
結び
第7章 アラビア海沿岸の文化交流と宗教指導者――インドとイエメンのユダヤ人[メナシェ・アンジー]
イエメンからインドへ
イエメンのベネ・イスラエル
インドのシャダリム――教宣募金の使節
結び
第3部 東南アジア――植民地主義の遺産と新興の共同体
第8章 シンガポールのユダヤ人――阿片取引のうえに築かれた共同体[ヨナタン・ゴールドシュタイン]
シンガポール・ユダヤ人共同体の起源
阿片取引に対する共同体の態度
日本の占領のトラウマ
共同体の戦後再建
第9章 植民地居住から新しい共同体認識へ――在インドネシア共同体の興亡と再建[レナード・クリソストモス・エパフラス、ロテム・コーネル]
共同体の誕生
崩壊――日本の占領とインドネシアの独立
アイデンティティを求めて――新しいユダヤ人集団の出現
結び
第10章 非植民地化とその余波――英領アジアにおけるバグダディ系離散民の運命[アモス・ウェイ・ワン・リム]
バグダディ系ユダヤ人ディアスポラ共同体
インド
ビルマ
シンガポール
非植民地化とバグダディのアジア・ディアスポラ共同体に与えた影響
結び
第4部 東アジア――中華圏の共同体と反目
第11章 上海のユダヤ人――東アジア最大のユダヤ人共同体の興亡と再生[ロテム・コーネル、シュ・シン]
共同体の出現――一八四〇年代~一九三〇年代
短い全盛期そして終焉――一九三八~四九年
ユダヤ人共同体の再生――一九八〇年代
結び
第12章 ハルビンのユダヤ人共同体――三帝国下でのはかなき興亡[ヨシュア・フォーゲル]
ハルビン市の創建
ハルビンにおけるユダヤ人の信仰と共同体生活
日本の占領と反ユダヤ主義の台頭
日本支配の全盛期と極東ユダヤ人会議
共同体の消滅
第13章 台湾――ルーツなき戦後のユダヤ人共同体[ドン・シャピロ]
合衆国軍の役割
共同体の正式発足
黄金時代
イスラエルの進出とハバッド派の来島
活性化する共同体
第14章 日本のユダヤ人――ビジネスコミュニティがたどる紆余曲折の道[ロテム・コーネル、ウィリアム・ジャーヴェイス・クラレンス=スミス]
戦前日本におけるユダヤ人共同体の生活
全面戦争時代の動静
戦後期の回復と成長
第5部 仮想のアジア――失われた十部族と隠れた共同体
第15章 アジアと失われた十部族――回復された事実の検証とシオニスト史の書き直し[ギデオン・エラザール]
一九世紀におけるユダヤ人のアジア探訪
シオニズムとメシアヨセフの息子
アジアで発見された失われたユダヤ人――ブネイ・メナシェ
イスラエルとアジアのユダヤ人
結び
総括
第16章 近代アジアのユダヤ人社会――共同体共通の性質、人口上の特徴と独自性[ロテム・コーネル]
起源と分離
共同体間の関係
初期の拡大
人口構成上の特徴
主要共同体
共同体間のネットワーク
文化と社会的側面
非ユダヤ人との接触と貢献
衰退
近年の復活
近代ユダヤ史に占めるアジアの位置
脚注
文献
索引
前書きなど
日本の読者へ
(…前略…)
(……)近代アジアでユダヤ人の居住数が極めて少ないことから、三つの重要な疑問が提起される。これは本書が追究する課題であるが、第一、東方を指向するユダヤ人がこれほど少なく、ヨーロッパや中東の場合と違って、継続性を有する大きい共同体をひとつも確立できなかったのはなぜか。第二、非常に限られた人数であったことを前提として考えると、アジア特に東アジアに対するユダヤ人の文化的・経済的貢献があったのか。あったとすればそれは何か。そして第三が、アジア特に上海、ハルビンそして香港にあった極めて小さい共同体が、戦前戦後注目されたのはなぜかである。
この一連の問題は、確かに興味ある課題ではあるが、本書は別の理由で草分け的な面も有する。つまり本書は、近代アジア全域におけるユダヤ人の存在とその動静を総合的に追究した、最初の学術的試みなのである。これまで、特定の共同体に関する研究書は、個々にたくさん出版されている。例えばインドのコチ(コーチン)とムンバイ(ボンベイ)のユダヤ人共同体、中央アジアではブハラとサマルカンドの共同体、東南アジア関連ではシンガポールとマニラの共同体、中国では上海と開封の共同体、そして中国東北部ハルビン共同体の研究がある。各共同体間の相違は相当なものがあり、距離的にも離れすぎているので、互いの連絡もなく、個々に存在していたような印象を与えるかもしれない。しかしながら、本書は、一連の小さい共同体の間に緊密な結びつきがあり、歴史を共有していた事実を明らかにし、アジアのユダヤ人が、基本的にはひとつの大きい共同体(社会)に所属していたことを示唆する。この文脈のなかで、本書は、ユダヤ人が一方においてイギリスとオランダの植民地主義、他方においてはロシアの植民地主義を手がかりにしつつ共同体を広げた点を考察し、そのいくつかのルートを確認する。もっと近年については、つまり一九一七年のボルシェビキ革命から一九四一年のドイツの対ソ侵攻直前までをみると、この間にユダヤ人が難民となり群れをなしてアジアへ逃れたわけであるが、通説と違って、圧倒的大多数は上海ではなく中央アジアに到達したのである。それから数年、タシケントが大陸最大のユダヤ人共同体のホームになった。
本書は、日本本土と日本帝国内におけるユダヤ人と日本人の間にみられた相互作用に、特に焦点をあてている。ユダヤ人の短いアジア居住史について、認識を高めることを期待するものである。私は、本書が認識を高めると共に、アジアにおけるユダヤ人の活動とその動機を検討することによって、偏見と長い間もち続けられてきた固定観念を一掃することを期待している。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。