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「教育輸出」を問う
日本型教育の海外展開(EDU-Port)の政治と倫理
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年9月12日
- 書店発売日
- 2024年9月9日
- 登録日
- 2024年8月5日
- 最終更新日
- 2024年9月13日
紹介
教育政策や実践が国境を越えて参照され、取引される時代の到来は何を意味するのか。官民連携による教育輸出事業の政策過程について、関係者への綿密な聞き取り調査と政策文書の分析をもとに実証的な検証をすすめ、グローバル教育移転研究の新たな地平を切り拓く。
目次
はじめに
第Ⅰ部 分析枠組みの設定――グローバルとナショナルの交差点へ
第1章 国家教育輸出の台頭と本書の研究アプローチ[興津妙子]
第1節 はじめに
第2節 教育借用論と教育輸出
第3節 拡大するグローバル教育市場とその背景
第4節 グローバル教育産業とネットワーク・ガバナンス論
第5節 グローバル教育市場における「国家」と「教育輸出」
第6節 教育の「国家ブランド化」による輸出と倫理
第7節 国家教育輸出の文脈性と多義性を捉える視点
第8節 まとめ
第2章 EDU-Portの先行研究レビューと本書の理論的立ち位置[高山敬太、米原あき、廖于晴]
第1節 はじめに
第2節 国際教育協力の倫理――「躊躇」「逡巡」「動揺」
第3節 国際教育協力における「現地化」
第4節 「現地化」の限界
第5節 「協働」の問い直し
第6節 まとめ
第3章 「EDU-Portニッポン」創設に至る背景――文部科学省による国際協力政策の歴史的変遷を中心に[高山敬太、興津妙子]
第1節 はじめに
第2節 戦後の国際教育協力と文部省
第3節 1970年代の「出来事」と表舞台からの撤退
第4節 「復活」への助走
第5節 表舞台へ復帰
第6節 インフラ輸出戦略の一環として
第7節 「EDU-Portニッポン」創設
第8節 文部科学省の意志
第9節 まとめ
第Ⅱ部 政策的仕組みの検討――行政文書分析を中心に
第4章 EDU-Port成果目標とパイロット事業の仕組みの検証[興津妙子]
第1節 はじめに
第2節 3つの成果目標
第3節 パイロット事業の選定・報告プロセスの検証
第4節 まとめ
第5章 EDU-Portパイロット事業の類型化と傾向分析[藤村達也]
第1節 はじめに
第2節 パイロット事業の基本情報
第3節 パイロット事業の類型化と類型別の特徴
第4節 「日本型教育としての特徴」に関する事業者の認識
第5節 成果目標に関する事業者の認識
第6節 まとめ
第Ⅲ部 倫理性を「掘り起こす」――パイロット事業のケーススタディ
第6章 ケーススタディの方針[高山敬太]
第1節 はじめに
第2節 聞き取り調査の方針――省察の伴走者として
第3節 聞き取り調査の方針――規範的検討
第4節 「われわれ」の動揺・変容
第7章 ケーススタディ類型A――大学等による初等中等教育段階の教職開発支援事業[興津妙子、高山敬太]
第1節 事例A1:地方国立大学教職大学院
第2節 事例A2:私立体育専門大学
第3節 まとめ
第8章 ケーススタディ類型B――大学による高等教育段階の専門・工学教育事業[興津妙子、高山敬太]
第1節 事例B1:地方国立大学工学部
第2節 事例B2:私立工学系専門大学
第3節 まとめ
第9章 ケーススタディ類型C――非営利団体による学校・地域における課程外教育事業[高山敬太、興津妙子]
第1節 事例C1:運動会を専門にする非営利活動法人(NPO)
第2節 事例C2:「公民館」を運営するNPO法人
第3節 まとめ
第10章 ケーススタディ類型D――民間企業による教育商品・サービス輸出型事業[高山敬太、興津妙子]
第1節 事例D1:楽器販売を専門にする民間企業
第2節 D1社共同研究者S氏
第3節 まとめ
第11章 ケーススタディ類型E――民間企業・専門学校による外国人労働者養成事業[高山敬太、興津妙子]
第1節 事例E1:自動車整備専門学校
第2節 E1派遣教員I氏
第3節 まとめ
第12章 ケーススタディ5類型の総評――逡巡・動揺・問い直しの視点から[高山敬太]
第1節 はじめに
第2節 共通点と相違点
第3節 「EDU-Portニッポン」へのレッスン
第4節 まとめ
第Ⅳ部 世界の教育輸出事例――国際比較からみえるEDU-Portの特徴
第13章 フィンランドの教育輸出戦略――モデル化・ブランド化・商品化[西村サヒ教]
第1節 はじめに
第2節 教育輸出事業の展開
第3節 教育のフィンランドモデルについての一考察
第4節 教育輸出事業のマーケティング戦略
第5節 教育輸出事業の課題点
第6節 「ミッショナリー」という自己認識が内包する倫理的問題
第7節 フィンランドの教育輸出戦略のまとめ
第8節 「EDU-Portニッポン」との比較考察
第14章 シンガポールの教育輸出戦略――国際化を目指す高性能教育システム[ハン・レ、D.ブレント・エドワーズ・ジュニア(翻訳:西村サヒ教)]
第1節 はじめに
第2節 シンガポールの国情概要
第3節 シンガポール型教育モデル
第4節 教育輸出の経路
第5節 シンガポールモデルについての国内における議論
第6節 シンガポールの教育輸出戦略のまとめ
第7節 「EDU-Portニッポン」との比較考察
第Ⅴ部 「日本型」国際教育協力に向けて
第15章 教育輸出の政治と倫理――「EDU-Portニッポン」からのレッスン[高山敬太、米原あき、興津妙子]
第1節 はじめに
第2節 浮かび上がったEDU-Portの特徴
第3節 教育行政としてのEDU-Portへ
第4節 「伝統」を取り戻す
第5節 EDU-Portを「学びの事業」に
第6節 研究蓄積・議論への示唆
あとがき
インタビュー一覧
EDU-Portパイロット事業
索引
前書きなど
はじめに
「国を挙げて教育を輸出する」という考え方は、いつ頃から、どのような状況下において、ごく「普通のこと」として語られるようになったのだろうか。よく考えてみると、教育輸出を「普通のこと」として受け入れるには、教育にまつわるいくつかの前提を受け入れる必要があることに気がつく。たとえば、農作物や工業製品と同じように、教育が輸出入可能な「もの」という前提である。さらに、教育が国家の枠を超えて商品やサービスとして売買できるということは、それが他国の異なる状況下においても問題なく機能するという前提に基づく。そしてこの前提が成立するには、教育の類似性、すなわち、教育とは国の文化や伝統といった差異から切り離せるもの、またはそれらを超越した普遍的な営みである、という前提も必要だろう。加えて、そもそも教育輸出という発想は、他国にあるものよりも、われわれの教育のほうが優れているという前提があって初めて成立するものである。こうした諸前提を、教育を商品やサービスとして提供する私企業だけでなく、公共性や公正性を体現すべき国が受け入れて、自国の教育や制度を積極的に海外に輸出するということは、これまでの、そしてこれからの教育の在り方、語られ方に対して何を示唆するのだろうか。
本書は、2020年に京都大学が文部科学省より受託した「日本型教育の海外展開の在り方に関する調査研究事業」(研究代表:高山敬太、京都大学)の最終成果報告書に大幅な加筆修正を施して書籍化したものである。ここで言う「日本型教育の海外展開」とは、2016年に同省が日本の教育を海外に広めるための官民協働型のプラットフォームとして立ち上げた「EDU-Portニッポン」を指す。この事業の成果目標は3つあり、(1)日本の教育の国際化、(2)親日層の拡大、(3)日本の経済成長への還元(貢献)である。この3つの目標を、官民連携に加えて、文部科学省が経済産業省と外務省と協力することで達成することが謳われている。同事業は、多少の事業方針の変更を経て今なお継続中である。本書では、EDU-Portニッポンを世界規模で進行する教育輸出という現象の一事例とみなし、それに関連する研究蓄積に位置づけて学術的検証を試みている。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。