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誰もが別れる一日
原書: 모두가 헤어지는 하루
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年8月30日
- 書店発売日
- 2024年9月9日
- 登録日
- 2024年7月31日
- 最終更新日
- 2024年9月13日
書評掲載情報
2024-12-22 |
読売新聞
朝刊 評者: 尾崎世界観(ミュージシャン・作家) |
2024-10-20 |
読売新聞
朝刊 評者: 尾崎世界観(ミュージシャン・作家) |
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紹介
韓国文学界で大きな存在感を放つ作家ソ・ユミによる小説6編をまとめた待望の短編集。6作品の主人公たちは貧困、失業、借金、離婚、夫の失踪、身近な死、母親との別れなどを経験し、以前とは違う状態に移る瞬間を経験する。変化は不可逆的で、人生は過去の自分との別れの蓄積だ。誰にでも訪れる不安と危機の断面を解剖し、時代と社会の病を敏感に捉え平凡な人間群像を暖かく包み込む、篤実なリアリズム小説。
目次
エートル
犬の日々
休暇
後ろ姿の発見
その後の人生
変わっていく
解説 ついに立ち上がる人々
作家のことば
訳者あとがきⅠ
訳者あとがきⅡ
前書きなど
訳者あとがきⅠ
ソ・ユミの世界の主人公たちはヒーローでもなければ、ヴィランでもなく、一日一日生きるだけで精一杯の人々である。いわば我々自身ともいえるだろう。家賃が上がったら安い賃貸を探して忙しく歩き回り(「エートル」)、夫が失踪しても子育てや経済活動は待ったなしで日常を営むしかなく(「後ろ姿の発見」)、もし家を失ったら二四時間営業のサウナで寝泊まりするしかない(「その後の人生」)、名もなき人々。セーフティネットはなく、何とか自分で解決しようと奮闘するが、うまくいくとは限らない。だけど、諦めることはできないのである。彼らの最後の砦は、周囲でゆるくつなっがている自分と同じような人々だ。貧しいからこそ強く連帯しようというものではなく、たまたま出会った同じ立場の人と少しの間苦楽を共にするだけが慰めになっている。「エートル」の私にとってジン、「犬の日々」の俺にとってチャン、「その後の人生」のヨンパルにとって葬儀屋など、相手のことはさほど知らず、相手が人生を救ってくれるわけでもないが、それでも心の拠り所となる存在だ。
本作は、二〇一八年に韓国で出版されたソ・ユミの二つ目の短編集だ。『女性中央』『今日の文学』『文学思想』などに掲載された作品を集めており、二〇一四年から二〇一七年までの三年間で書かれたものである。ソ・ユミは二〇〇七年「クールに一歩」で第一回チャンビ小説文学賞、「ファンタスティック蟻地獄」で第五回文学手帳作家賞を受賞し、華やかに作家デビューした。現代社会で極限の状態に置かれた人々の姿を鋭く描き、好評を得ている。
最初の短編集『当分人間』では、非現実的な極限の状態に置かれた人々を描いた。「スノーマン」は大雪の中で出勤しようとして夕方まで雪かきをしたが、会社を目の前にして死んでいく人の姿を、「当分人間」では硬くなって粉になってしまったり、どんどん膨れてはじけて水になってしまったりした人々の姿を描いている。そういう極限の状態でも人々は自分の体のことより出勤や仕事のことを気にする。ブラックユーモアのようだが、実際、登場人物の気持ちは読者がよくわかるものだ。台風の中でも出勤し、地元に震災にあっても出勤しなかればならない。それは資本主義社会における勤勉さと呼ばれるものかもしれない。一方、どんな状況においても明日のことを心配し、行動する人々の前向きさは健気でたくましく、希望にみえる。
『当分人間』に比べると、『誰もが別れる一日』の登場人物が目の当たりにしている問題はより現実的なものである。ソ・ユミは東亜日報のインタビューで「普通の人々の、平凡でどうでもいいと考えていた、だが歪んでしまった一日」を描いたと説明した。「希望でも挫折でもなく肯定でも否定でもない。そうやって流れていく生の瞬間を描きたい」と述べた。ソの言う通り、希望でも挫折でも肯定でも否定でもないが、それでも一生懸命に生きる人々が一歩を踏み出す、もしくはその覚悟を決めた一日のことが描かれている。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。