書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
アメリカ奴隷主国家の興亡
植民地建設から南北戦争まで
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年9月20日
- 書店発売日
- 2024年9月13日
- 登録日
- 2024年8月20日
- 最終更新日
- 2024年10月17日
紹介
超大国アメリカの礎はどのように築かれたのか? 新大陸発見によるモザイクな植民地時代から、独立革命を経て民主国家の建設、そして資本主義体制への道をひらく、壮絶な南北戦争までアメリカ創世の物語を骨太かつ、わかりやすく描き出したアメリカ史入門書。
アメリカ合衆国はどのように拡大・発展したのか。植民地建設から南北戦争までの初期アメリカ史をこれまでになくわかりやすく概説し、多様な労働者や産業の発展、経済等に焦点を当てながら、アメリカ創世の物語を描き出した名著が復刊!
目次
序章
第一章 植民地建設
1 南部植民地
2 ニューイングランド植民地
3 中部植民地
4 原住アメリカ人と西インド
第二章 アメリカ独立革命
1 英仏戦争から本国・植民地間抗争へ
2 独立宣言から憲法制定へ
3 合衆国憲法体制
第三章 世界革命の中の国家建設
1 ハミルトン体制下の南北対立
2 ナポレオン戦争の中での共和派政権
第四章 大陸国家の建設と工業化
1 領土拡大
2 運輸革命
3 工業化と労働者階級の形成
4 南部奴隷制社会の発展
第五章 アメリカ社会の形成
1 家父長的権威の衰退と近代家族の形成
2 第二次大覚醒運動
3 政党制度の出現
第六章 南北戦争と奴隷解放
1 奴隷解放運動と一八四〇年代の政治
2 政党再編成
3 南北戦争
おわりに
刊行によせて
年表
索引
前書きなど
刊行によせて
本書の初版は、三巻からなる「新書アメリカ合衆国史」の第一巻として、一九八八年一二月に講談社から出版された。各巻の著者、タイトル、そして網羅する時代は以下の通りであった。
第一巻 安武秀岳『大陸国家の夢』(一六〇七~一八六五年、植民地時代~南北戦争)
第二巻 野村達朗『フロンティアと摩天楼』(一八六五~一九二九年、再建期~大恐慌)
第三巻 上杉忍『パクス・アメリカーナの光と陰』(一九二九~一九八八年、大恐慌~レーガン政権)
(…中略…)
新書三巻には、一般読者を想定したものであったからでもあるが、大学で採用されていたテキストとは異なり、物語が目の前で展開されるような面白さがあった。図表が数多く盛り込まれていて、とにかく新鮮であった。その後、残念ながら絶版となってしまったが、初学者向けのテキストとして惜しむ声をしばしば耳にした。この度、第一巻『大陸国家の夢』が改訂版として出版されることとなり、多くのアメリカ史関係者が喜ばれているに違いない。
改訂版を読み直して改めて感じる魅力は、達意の文章で紐解かれた一つ一つの出来事が、最終的には大きな時代の流れとして読者に提示されている点である。周知の通り、安武先生は、ジャクソン期の都市民衆労働史を中心に、十八世紀末に北米大西洋岸に誕生した弱小の共和国であったアメリカが、大陸国家へと急成長を遂げた十九世紀前半について、政治経済史の観点から、長年にわたって研究されてきた。政治経済を軸とした通史は、ともすれば難しいと学生や一般読者に敬遠されがちである。そうした一般的な通史とは対照的に、本書では、連邦派と共和派の政争や、あらゆる人びとの暮らしを激変させた市場革命などが、講談のように語られる。読者は、臨場感を持ってページをめくることだろう。初期アメリカ史を志す研究者が先細りする昨今であるからこそ、こうした入門書の持つ意義は大きい。
安武先生は改訂版を出された理由を、「植民地時代から南北戦争までの時代の歴史で、単独の著者によって書かれたものは他に存在しない」からであると、改訂版の「おわりに」に淡々と書かれている。他方で、新書版の「あとがき」によれば、「独立革命から南北戦争までの時代を一つの連続した歴史過程として描」き、「イギリスを中心にした資本主義的世界体制の発展史」の枠組みの中で、初期アメリカ史を概観するという問題関心があった、と書かれている。安武先生のこの問題関心にまさに沿う形で、過去三十年の間にアメリカ史研究は深化を遂げてきた。中でも特筆すべきは、南北戦争時代までのアメリカは「奴隷主国家」であり、その礎は、人種資本主義(非白人に対する人種差別的な搾取を前提とした西欧発の近代資本主義)とともに築かれたという認識の下で、アメリカ国家像の再構築が進んでいることである。この歴史学における探求は、なぜ人種主義がアメリカ社会の構造にこうも組み込まれているか、なぜその解決は国を分断するほどに難しいのか、という極めて現代的な問題と直結する。安武先生のご労作『自由の帝国と奴隷制―建国から南北戦争まで』(ミネルヴァ書房、二〇一一年)も、アメリカ国家像の再構築に迫る一冊である。より専門的な切り口からの歴史探求となるが、ぜひとも一読されたい。
この度の出版にあたり、本文の大幅な改訂はあえてされなかったという。それは、「日米の研究者たちの歴史意識の変化を読み取って」ほしいという願いからであるという。確かに、こんにち入門書を新たに書くのであれば、先住アメリカ人の一万年以上にも及ぶ営みが、第一章となるかもしれない。ヨーロッパ人による初期の北米大陸の開拓にしても、スペイン人による南西部開拓の記述が、多くなるかもしれない。さらには、黒人による奴隷制即時廃止運動や、第一波フェミニズムと言われる女性参政権運動など、人種やジェンダーの視点に重点を置けば、登場する人々や出来事はより多岐にわたることになるだろう。しかしながら、そうした研究の成果を余すところなく取り入れようとすると、人種資本主義とともに発展した南北戦争期までのアメリカ史を通観するという、本書の目的がぼやけてしまいかねず、ジレンマに陥る。いずれにせよ、大幅な修正を施さなかったことは、安武先生ご自身としては勇断であっただろうし、後進としては、大きな宿題をいただいたと感じている。歴史研究は、考察対象となる時代との対話から生まれるものであるが、そうした対話は、研究者から研究者へとバトンをつなぎつつ継続することで、より豊かになるからである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。