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日本人の対難民意識 大茂矢 由佳(著) - 明石書店
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日本人の対難民意識 (ニホンジンノタイナンミンイシキ) メディアの表象・言説・作用 (メディアノヒョウショウゲンセツサヨウ)

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発行:明石書店
A5判
312ページ
上製
価格 4,200円+税
ISBN
978-4-7503-5777-5   COPY
ISBN 13
9784750357775   COPY
ISBN 10h
4-7503-5777-4   COPY
ISBN 10
4750357774   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2024年6月15日
書店発売日
登録日
2024年5月16日
最終更新日
2024年6月25日
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紹介

日本社会は難民をどのようにとらえてきたのか。新聞およびツイッターを対象とした定量的なテキスト分析、ウェブアンケート調査データにもとづく統計分析を行い、計量的・実証的に検証。日本を事例とした初めてのメディア・フレームを網羅的に分析する研究。

目次

 まえがき
 図表一覧

序章
 1.研究の背景と目的
 2.先行研究の検討
 3.研究課題の設定
 4.研究方法
 (1)メディア表象研究
 (2)メディア効果研究
 5.研究対象
 (1)本書が射程とする「難民」
 (2)分析対象とするメディアの選定
 (3)分析対象とする期間
 6.研究倫理上の配慮について
 7.本書の構成

第1章 先行研究のレビュー
 1.難民研究の系譜的整理
 (1)難民研究の登場
 (2)難民研究の学際性
 2.難民研究におけるメディア研究の視点
 (1)諸外国の知見
 (2)日本の知見
 3.難民の受入意識を規定するものは何か
 (1)マスメディア利用・接触との関連
 (2)ソーシャルメディア利用・接触との関連
 (3)その他の基礎的要因
 4.小括

第2章 理論的枠組み
 1.メディア・フレーム
 (1)メディア・フレーム研究登場の文脈
 (2)メディア・フレームの概念と類型
 (3)メディア・フレーム分析の手法
 2.外集団認知とステレオタイプ
 (1)社会的アイデンティティ理論
 (2)ステレオタイプ
 3.本書への示唆――「日本」という文脈

第3章 マスメディアのなかの難民――新聞
 1.データの収集とクリーニング
 2.分析方法
 (1)形態素解析
 (2)トピックモデル
 3.分析結果
 (1)第1期(2011年7月27日~2015年9月1日)
 (2)第2期(2015年9月2日~2018年1月11日)
 (3)第3期(2018年1月12日~2020年10月21日)
 4.知見の整理

第4章 ソーシャルメディアのなかの難民――ツイッター
 1.データの収集とクリーニング
 2.分析方法
 3.分析結果
 (1)第1期(2011年7月27日~2015年9月1日)
 (2)第2期(2015年9月2日~2018年1月11日)
 (3)第3期(2018年1月12日~2020年10月21日)
 4.知見の整理

第5章 メディア利用と対難民意識に関する調査
 1.仮説の設定
 2.調査の設計
 (1)調査項目と尺度
 (2)調査の手続き
 3.データの状況
 4.分析結果
 (1)人々は情報をどこから得ているか
 (2)メディア利用と難民に関する知識・関心の関連
 (3)難民イメージを規定する要因
 (4)難民の受入意識を規定する要因
 5.仮説の検証

第6章 メディア情報接触と意見変容に関するサーベイ実験
 1.仮説の設定
 2.調査の設計
 (1)調査項目と尺度
 (2)調査の手続き
 3.データの状況
 4.分析結果
 (1)メディア情報との接触による意見変容
 (2)意見変容における外国人との接点程度の影響
 (3)意見変容における難民に関する知識有無の影響
 5.仮説の検証

終章
 1.研究課題に対する回答
 (1)研究課題1
 (2)研究課題2
 (3)研究課題3
 (4)研究課題4
 2.結論
 3.本書の課題と今後の展望

 あとがき
 参考文献

 巻末資料
  〔資料1〕新聞記事の形態素解析結果(頻出名詞上位100語)
  〔資料2〕ツイッターの形態素解析結果(頻出名詞上位100語)
  〔資料3〕第5章ウェブ調査の度数分布表
  〔資料4〕第5章ウェブ調査のQ14のトピックモデル分析結果
  〔資料5〕第6章サーベイ実験の度数分布表
  〔資料6〕第6章サーベイ実験で使用した新聞記事
  〔資料7〕第6章サーベイ実験のQ1のトピックモデル分析結果

 索引

前書きなど

まえがき

 2023年、世界の難民数は1億人を超えた。この地球の人口の約1.4%に相当する人々をめぐる問題を、私たちはあまり深く考えることなく「難民問題」と呼んでいる。しかし、この言葉によって説明される現象はじつに多様で複雑である。大きく分ければ、「難民問題」という言葉に含意されるものとして(1)難民自身が直面する問題と、(2)難民が主としてホスト社会にもたらす問題の2つがあると考えられる。前者は避難そのものが危険をともなう旅となるだけでなく、家族の離散や死別、故郷を失ったことによる失望感、PTSDなどのメンタルヘルス上の問題、性暴力や人身取引、医療や公衆衛生上の問題など多岐にわたる。他方、後者である難民がホスト社会にもたらす問題には、大規模な難民の流入による政治的混乱、財政的負担の増加、反難民感情の高まりと世論の分断などが含まれる。また、治安悪化への懸念やナショナリズムの台頭も典型的である。
 こうした「難民問題」の多義性を、日本のメディアはどのように伝えてきたのだろうか。難民報道についてのよくみられる指摘は、マスメディアが難民のネガティブイメージを作ってきたというものである。前者の側面について報じるとき、マスメディアは難民を犠牲者としてあつかい、庇護や支援が与えられるべき「無力」な存在として表象する。一方、後者の側面についての報道においては、「無力」とは対照的に、難民は社会への「脅威」として表象される。つまり、いずれの側面を報じる場合においても、難民にはネガティブなラベルが貼られ、それが難民に対する否定的なイメージの固定化に寄与してきた。これが、欧米メディアを事例とする先行研究が報告してきた知見であり、日本の難民研究者の間でも一般的に受け入れられてきた見解と言えよう。筆者自身、こうした指摘を盲目的に信じ、そこに問題意識を見出したからこそ、大学院で日本のメディアにおける難民表象について研究したいと思ったのである。
 しかし、実際に研究を始めてみるとすぐに、こうした主張には科学的根拠に乏しいものも多く、とりわけ日本の難民報道については経験則にもとづく議論しかなされていないことに気づいた。本書の第1章で説明するように、日本の難民報道に関する文献は蓄積が少ない上、ジャーナリストによる論考や質的分析がその大半を占めていた。そこで、まずは「マスメディアが難民のネガティブイメージを作ってきた」という一般的見解を疑うところから始めることにした。日本のマスメディアは難民をどのように報じてきたのかという問いに対して、量的で再現可能な手法による研究に挑むことにしたのである。それと並行して、近年その影響力がますます高まっているソーシャルメディアにも焦点を当て、サイバー空間における難民言説についても検討してみることにした。これらの研究の成果は、それぞれ本書の第3章と第4章にまとめられている。
 しかし、ここでまた新たな問題に直面した。それは、メディアのなかで難民がどのように描かれてきたかということは、情報の受け手(オーディエンス)が難民をどのようにとらえているかということに直結しない、という点である。別言すれば、難民に対して抱くイメージや意識の形成において、人々はメディアから得た情報の影響をどの程度受けているのかという問いである。この問いを出発点とする実証研究として、本書第5章のウェブ調査、および第6章のサーベイ実験が実施された。
 以上のように、本書が追求しようとする問いは「日本社会は難民をどのようにとらえているか」である。日本の難民研究は長らく、難民に焦点を当てた質的な研究が主流となってきた。ホスト社会側に焦点を当て、日本人の対難民意識を量的に検討した本書のアプローチが、当該領域に新たな視座と知見を提供するものとなっていることを望んでいる。ただし、本書が分析対象としている期間は2021年までであるということにご留意いただきたい。2022年2月に始まったロシア=ウクライナ戦争は、シリア危機を超える規模とスピードで避難民を発生させ、より最近ではパレスチナ(ガザ)難民が日々のニュースを騒がせている。目まぐるしく変化する国際情勢を受けて、日本人の対難民意識も過渡期を迎えているが、筆者の力量不足ゆえに、本書ではこうした近年の政変の影響についてはほとんど考慮することができなかった。より最近の動向や対難民意識の変化については別稿(滝澤・大茂矢,2023)に譲るとともに、本書に残された課題として今後の研究活動のなかで分析と考察を深めていくつもりである。同時に、本書の知見やアプローチが、後続の研究の土台としてわずかばかりでも貢献することができれば大変に幸いである。

著者プロフィール

大茂矢 由佳  (オオモヤ ユカ)  (

埼玉大学学術院講師(大学院人文社会科学研究科、教養学部)。筑波大学人文社会科学研究群国際日本研究学位プログラム博士後期課程修了。博士(国際日本研究)。主な著作に、「転機を迎えた日本の難民政策と日本人の対難民意識の変遷――ミャンマー、アフガニスタン、ウクライナでの政変を経て」『政治社会論叢』8号、1-22頁、2023年(滝澤三郎との共著)、「『難民』という名の言説――脱北、シリア、ジェンダー」池直美・エドワード・ボイル編『日本の境界――国家と人びとの相克』北海道大学出版会、93-105頁、2022年(明石純一との共著)、「日本人の対難民意識とメディア報道接触に関する実証研究」『難民研究ジャーナル』11号、130-145頁、2022年(単著)など。第8回若手難民研究者奨励賞受賞。

上記内容は本書刊行時のものです。