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インド北東部を知るための45章
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年8月30日
- 書店発売日
- 2024年9月9日
- 登録日
- 2024年8月16日
- 最終更新日
- 2024年9月13日
紹介
アッサム州はじめ8つの州からなるインド北東部は、民族的・文化的・宗教的に際だった特徴を持つとともに、近年開発の重点地域となり、日本とも縁深い。本書は地理から政治までを網羅し、この地域の多様性と複雑な歴史が織りなす魅力を紐解き、インド北東部の独自性を深く探る。
目次
はじめに
インド北東部地図
Ⅰ インド北東部という地域
第1章 インドとインド北東部――奇妙な関係
第2章 北東部8州のなりたち――アイデンティティと州再編
第3章 地理と気候――山と川と雨
第4章 多様な言語――複数の語族の交差点
第5章 文字――インド系文字とローマ字の相剋
第6章 少数言語の文字化と識字教育――メガラヤ州のカーシ(カーシー)語の場合
第7章 イギリス官僚が見たインド北東部の多様性――学術的な視点の起源として
【コラム1】中根千枝が見たインド北東部の母系制
Ⅱ 歴史
第8章 前近代インド北東部史概観――カーマルーパからアホム王国まで
第9章 ヒンドゥイズム――女神信仰とヴィシュヌ信仰
第10章 インド北東部とイスラーム――スーフィーの活動を中心に
第11章 チベット世界とのつながり――交易、仏教、医療のネットワーク
第12章 植民地統治のはじまり――茶園の開拓と移民、山岳地での間接統治
第13章 アッサム平野におけるムスリム開拓民の移住――移民をめぐる政治的対立とインド・パキスタン分離独立時の影響
第14章 山岳地域における植民地支配の影響――軍事制圧と間接統治、キリスト教の布教を中心に
第15章 キリスト教がインド北東部にもたらしたもの――新たな世界観と近代化(あるいは、西洋化?)の波
【コラム2】インド北東部のクリスマス
Ⅲ 8州の特色
第16章 アッサム州――移民問題と独立運動に揺れる紅茶の産地
第17章 ナガランド州――山並みに鳴り響く「リサイクル」爆弾の鐘の音
第18章 マニプル州――紛争に翻弄され続けてきた「宝石の地」
第19章 メガラヤ州――雲のすみか いのち溢れる豊かな大地
第20章 トリプラ州――東ベンガルと関係の深い州
第21章 ミゾラム州――「平和な例外州」の光と影
第22章 アルナーチャル・プラデーシュ――インドで最初に朝日が昇る州
第23章 シッキム州――ヒマラヤを臨む「聖なる秘境」
【コラム3】国際スポーツ大会で活躍する北東部出身アスリートたち
Ⅳ 文化
第24章 稲作と人々の暮らし――ブラフマプトラ渓谷の豊かな文化
第25章 伝統とキリスト教信仰のはざまで――ホーンビル祭りで問われるナガの「伝統」文化
第26章 芸能――仮面と祭礼
第27章 ナガの特殊な音楽世界――伝統ポリフォニー・教会音楽・ポピュラー音楽
第28章 宗教と屠畜実践――インドでウシを屠り、食べる人々
Ⅴ 社会
第29章 変化の中の市民活動とNGO――多文化社会における課題と可能性
第30章 女性による平和活動――「母」としてコミュニティを守る女性たち
第31章 相互扶助と排斥――ミゾラム州における生涯参加型の市民社会
第32章 第2次世界大戦の亡霊を追って――北東インドにおける戦争観光
第33章 インド北東部のドキュメンタリー映画特集――植民地思想を骨抜きにできないか?
第34章 新型コロナウイルスの感染拡大――恐怖とロックダウン後の反動
【コラム4】ヒンディー語映画の中の北東部
【コラム5】インド本土における北東部出身者
Ⅵ 政治と開発
第35章 州政治の特徴――せめぎあう地域政党と全国政党
第36章 武装紛争と和平交渉のゆくえ――人権侵害と民族間衝突を乗り越えられるか
第37章 北東部の経済開発とコネクティビティ――地理的制約を克服するための取り組み
第38章 アジアのなかのインド北東部――閉ざされたハブ
第39章 幻のコネクティビティ――インド北東部とミャンマー
第40章 バングラデシュとの関係――人とモノの移動をめぐる複雑な関係
第41章 解決しないインド・中国国境問題――アルナーチャル・プラデーシュの場合
【コラム6】ミャンマーからの避難民問題
Ⅶ 日本との関係
第42章 「ジャパン・ラーン(日本戦争)」としてのインパール作戦――第2次世界大戦の戦場となったインド北東部
第43章 北東部への日本の経済協力――経済開発基盤整備から知的対話促進へ
第44章 アジア学院と北東インド――一線を乗り越え
第45章 日本文化への関心――日本文化イベント「ジャパン・キャラバン」を実施して
【コラム7】友情と和解の物語
おわりに
参考文献
前書きなど
はじめに
「知られざる地域」「秘境」――インド北東部はしばしばこういった言葉とともに紹介される。たしかに、中心に位置するアッサム州を除けば、この地域について聞いたことのある地名はあまりないだろう。ブータンとチベット、ミャンマー、そしてバングラデシュに囲まれ、細い回廊でインドの他地域とつながっている北東部は、周囲のほとんどを山岳地に囲まれている。州の境界は98%が国境線であり、他のインドとは異なる魅力にあふれた地域である。
この地域は東アジア、東南アジア、南アジアが文字通りつながる場所であり、多様な民族と文化の出会う場所である。山岳地には東南アジアのタイやミャンマー、ベトナムなどの山岳民族と多くの共通点をもつ人々が住み、また北部はチベット文化や仏教の影響を色濃く受けた文化を垣間見ることもできる。平野部のアッサムは、こうした山岳地出自の先住民と隣接するベンガル地域からの人々が互いの文化を維持しつつも交流や通婚を重ね、独自の文化を育んできた。植民地時代以降、茶園の労働者や開拓民として多くのネパール系住民や他州出身の先住民、そしてベンガル地域からのムスリム移民も迎え、インドの中でも文字通りモザイクのような多様な民族が共存する地域となった。
この地域があまり知られていない理由として、1990年代半ばまで、ほとんどの州は外国人が訪問する際、内務省の特別許可が必要であり、容易に訪問できなかったことがある。その背景には、主に山岳地を中心としてインドから独立や自治を求める運動が展開され、時にインド連邦政府と武装紛争に発展することも多かった。1950年代にナガの民族組織とインド政府の間で武装紛争がはじまると、外国人の入域は厳しく制限されるようになった。1970年代まで、紛争はマニプルやミゾラム、トリプラなど、外国と国境を接する山岳地に限られていたが、1980年代後半になるとアッサム州の平野部やその他の地域にも飛び火し、武装組織の数は大小あわせて100以上を数えた。
1990年代後半以降、徐々に政府との間に停戦合意が締結され、部分的に外国人の入域制限も解除となってきた。2011年にはそれまで入域が制限されていた州でも、観光を目的とすればかなり簡単な手続きで訪問することができるようになった。これをきっかけに、北東部を訪問する外国人も増え、この地域を対象とする若手研究者も増えてきた。特に文化人類学の分野でこの地域の独特な文化に興味を持つ若い研究者が増え、本書で紹介されているようなさまざまな側面が日本語で研究されるようになってきたことは非常に喜ばしいことである。まだまだ調査や取材などではビザを取得することが厳しい地域だが、本書をきっかけに一人でも多くの人に北東部の魅力を知ってもらえればと思う。
追記
【執筆者一覧】
浅田晴久(あさだ・はるひさ)
地理学、南アジア地域研究。奈良女子大学文学部准教授。著作に「タイ系民族アホムの稲作体系――インド・アッサム州の村落における事例研究」『人文地理』一般社団法人人文地理学会、2011年など。
アルオイ・セコセ・シャイザ
元小学校教員、ナガランド州教育局公務員。コヒマ村出身。
石坂晋哉(いしざか・しんや)
愛媛大学法文学部教授。専門は南アジア地域研究、社会学。著作に佐藤史郎・石坂晋哉(編)『現代アジアをつかむ――社会・経済・政治・文化 35のイシュー』(明石書店、2022年)、石坂晋哉・宇根義己・舟橋健太(編)『ようこそ南アジア世界へ』(昭和堂、2020年)など。
石丸葵(いしまる・あおい)
国際交流基金ニューデリー日本文化センター ディレクター。大学卒業後、民間企業に勤めた後2016年に国際交流基金入職。文化事業部勤務を経て、2018年よりニューデリー日本文化センターにて文化芸術交流事業を担当。
岡田恵美(おかだ・えみ)
国立民族学博物館 人類基礎理論研究部および総合研究大学院大学 准教授。専門は音楽民族学。著作に『インド鍵盤楽器考――ハルモニウムと電子キーボードの普及にみる楽器のグローカル化とローカル文化の再編』(渓水社、2016年)など。
長田紀之(おさだ・のりゆき)
アジア経済研究所研究員。専門はミャンマー地域研究、歴史学。ミャンマーの現状分析に携わりながら、植民地期ミャンマーのインドとの関係を社会史的な視点から研究してきた。最近は脱植民地化の時期にも関心を寄せている。単著に『胎動する国境:英領ビルマの移民問題と都市統治』(山川出版社、2016年)がある。
笠井亮平(かさい・りょうへい) ※編著者紹介を参照。
亀山仁(かめやま・ひとし)
写真家。ミャンマーの平和を創る会共同代表。写真集『Thanaka』(冬青社、2013年)、『Myanmar2005-2017』(冬青社、2018年)を出版。
木村真希子(きむら・まきこ) ※編著者紹介を参照。
佐々木結(ささき・ゆう)
京都大学学術研究展開センター(インドデスク)リサーチ・アドミニストレーター。大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部インド・パキスタン語科ヒンディー語専攻 卒業。神戸大学大学院国際協力研究科博士課程修了 博士(政治学)。2006年から2015年まで国際協力機構(JICA)インド事務所で草の根技術協力・技術協力・無償/有償資金協力等案件管理、安全対策などを担当し、北東部各州へも渡航。
サンジーブ・バルア
アジア女性大学(バングラデシュ)、アンディ松井特別教授、政治学。主要著書:In the Name of the Nation: India and its Northeast (Stanford University Press, 2020)、ほかインディアン・エクスプレス紙、タイムズ・オブ・インディア紙などに多数寄稿。
シン・ジェウン
東京大学東洋文化研究所研究協力者。専門は南アジア前近代史、特に東インド中世史。著作にChange, Continuity and Complexity: The Mahāvidyās in East Indian Śākta Traditions (Manohar/Routledge, 2018) など。
高倉嘉男(たかくら・よしお)
インド映画研究家。ジャワーハルラール・ネルー大学よりヒンディー語博士号取得。インド映画専門サイトFilmsaagar 管理人。豊橋中央高等学校校長。共著に『新たなるインド映画の世界』(Pick Up Press、2021年)。
溜和敏(たまり・かずとし)
中京大学総合政策学部 教授。著書:『なぜアメリカはインドに譲歩したのか――印米原子力協力協定への道』(勁草書房、2024年)。
ディーパク・ナオレム
デリー大学ダウラトラム・カレッジ、助教、歴史学。主要著書・論文: “Japanese invasion, War preparation, Relief, Rehabilitation, Compensation and ʻState-Makingʼ in an Imperial Frontier (1939-1955)” , in Asian Ethnicity, Volume 21, 2020- Issue 1, pp. 96- 121; Doi: https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/14631369.2019.1581985. “ʻWar and the deadʼ: Funerary rites, Mourning and Commemorating Second World War deaths in Northeastern India”, in Anup S. Chakraborty and Parjanya Sen ed. Death, Commemoration and Afterlife in Northeast India: Towards a Thanatological Indigeneity, Routledge India.
長岡慶(ながおか・けい)
東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会特別研究員(CPD)、カリフォルニア大学バークレー校人類学研究科客員研究員。専門は医療人類学、南アジア地域研究。主な著書は『病いと薬のコスモロジー――ヒマーラヤ東部タワンにおけるチベット医学、憑依、妖術の民族誌』(春風社、2021年)、『チベット・ヒマラヤ文明の歴史的展開』(共著、京都大学人文科学研究所、2018年)、Ruptures and Repairs in South Asia: Historical Perspectives(共著、Martin Chautari、2013年)など。
中村唯(なかむら・ゆい)
笹川平和財団主任研究員。インド北東部をはじめ、南アジアの地域開発や人材育成、ジェンダー、気候変動分野の事業などに携わる。著作は、監修『そして私たちの物語は世界の物語の一部となる――インド北東部女性作家アンソロジー』(国書刊行会、2023年)、「終戦記念日特別寄稿 インパール作戦前編・後編」(講談社『クーリエ・ジャポン』)、「途上国開発におけるジェンダーと女性のエンパワーメント概念の構築――インドにおけるマイクロファイナンスの取り組みを事例に」『国際政治』日本国際政治学会、2010年など。
二宮文子(にのみや・あやこ)
青山学院大学文学部教授。専門は南アジア史、インド・イスラーム文化史。近年の著作は「南アジアにおけるムスリムの活動とイスラームの展開」『岩波講座世界歴史 第4巻』(岩波書店、2022年)、「インドのイスラーム化とスーフィー」『アジア人物史5 モンゴル帝国のユーラシア統一』(集英社、2023年)ほか。
延江由美子(のぶえ・ゆみこ)
ローマ・カトリック女子修道会、メディカル・ミッション・シスターズ会員。獣医師、看護師、鍼灸師。著書にMoving Cloud Flowing Water: A Journey into North East India. Medical Mission Sisters, 2014.『いのち綾なす――インド北東部への旅 Weaving of Spirit: A Journey into North East India 』オリエンス宗教研究所、2021年。
プラビール・デー
インド国立「途上国研究情報システム」(RIS)教授。国際経済学専攻。著作・論文多数。Journal of Asian Economic Integration 創設。編集者。
藤岡朝子(ふじおか・あさこ)
山形国際ドキュメンタリー映画祭理事、ドキュメンタリー・ドリームセンター(https://ddcenter.org)代表。共著書:『Asian Documentary Today』(釜山国際映画祭、2012)
三瀬利之(みせ・としゆき)
専攻は文化人類学。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。インド社会科学学術研究会議(ICSSR)北東地域センターの客員研究員としてメガラヤ州で調査した。
宮本万里(みやもと・まり)
慶應義塾大学商学部准教授。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程修了。博士(地域研究)。専門は南アジア地域研究、ブータン研究、政治人類学。主な業績に「ネップ関係からみるブータンの高地牧畜民社会とその変容:北部国境防衛と定住化の狭間で」『地域研究』(単著、20巻1号、2020年)、『自然保護をめぐる文化の政治:ブータン牧畜民の生活・信仰・環境政策』(単著、風響社、2009年)などがある。
村上武則(むらかみ・たけのり)
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 ジュニア・フェロー。専門は言語学、言語人類学、言語政策論。2013年東京大学文学部卒。著作に「ナガミーズ語の名詞修飾」『言語記述論集』13、言語記述研究会、2021年。「ヴァイペイ語とティディム・チン語の混成変種テクスト:Douthianpau 氏の話」『アジア・アフリカの言語と言語学』17、アジア・アフリカ言語文化研究所、2023年など。共編訳書にワッカス・チョーラク、アブドゥルラッハマン・ギュルベヤズ著『クルド語文法(クルマンジー方言)』Nubihar、2019年。
村山真弓(むらやま・まゆみ)
日本貿易振興機構アジア経済研究所理事。関連著作にNortheast India and Japan: Engagement through Connectivity, Routledge, 2022(Sanjoy Hazarika , Preeti Gill と共編)、ʻBorders, Migration and Sub-regional Cooperation in Eastern South Asiaʼ , Economic and Political Weekly, Vol. 41, No.14, 2006、Sub-Regional Relations in the Eastern South Asia: With Special Focus on India’s Northeast Regions, JRP Series No.133, Institute of Developing Economies, 2005 (Kyoko Inoue, Sanjoy Hazarika と共編)。
山岸哲也(やまぎし・てつや)
東京都立大学大学院人文科学研究科社会人類学教室博士後期課程。専門は社会人類学。インド・シッキム州のNamgyal Institute of Tibetology に在籍して長期調査を実施。論文に「シンクレティズム再定位――インド・シッキム州における民俗宗教の事例から」『宗教と社会』「宗教と社会」学会、26号(2020年)など。
山口能子(やまぐち・よしこ)
栃木県在住。学校法人アジア学院でボランティア1年、職員として約8年間在籍。1994年ナガ・タンクル族の男性と結婚。マニプル州ウクルルとインパールで約4年半過ごす。現在はタンクル族、ソムダル村を中心に保育、教育、障がい児に関わる活動を行っている。
山田真美(やまだ・まみ)
インド工科大学ハイデラバード校教養学部、客員准教授。博士(人文科学)。主要著書:『吉祥天と行くインドの旅』(インド政府観光局、1993年)、『インド大魔法団』(清流出版、1997年)、『マンゴーの木』(幻冬舎、1998年)、『死との対話』(スパイス、2004年)、『運が99%戦略は1% インド人の超発想法』(講談社、2016年)。
吉沢加奈子(よしざわ・かなこ)
日本学術振興会特別研究員RPD。専門は南アジア地域研究。
脇田道子(わきた・みちこ)
日本ブータン研究所研究員。専門は、アルナーチャル・プラデーシュおよびブータン東部の文化人類学的研究。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学、博士(社会学)。著書に『モンパ――インド・ブータン国境の民』(法藏館、2019年)、「民族衣装を読む――インド、アルナーチャル・プラデーシュのモンパの事例から」(鈴木正崇編『森羅万象のささやき――民俗宗教研究の諸相』風響社、2015年)他。
渡部春奈(わたべ・はるな)
インド、デリー大学(DSE)社会学研究科博士課程に在籍中。専門は社会学。主な論文に、「ナガランドにおける第二次世界大戦の記憶と記念式典の一考察:ナガランド州政府とナガの視点から」(2023), Prime Occasional Papers, No.8:50-72など。
上記内容は本書刊行時のものです。