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ポスト資本主義時代の地域主義
草の根の価値創造の実践
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年5月10日
- 書店発売日
- 2024年4月30日
- 登録日
- 2024年3月28日
- 最終更新日
- 2024年5月27日
紹介
ポスト資本主義を構想する鍵は地域主義にある。どのように地域の経済を振興し、生活のレジリエンスを高め、子どもを守り育て、将来世代の教育を進めればよいのか。これらの課題に取り組む世界各地の人々の営みをもとに、地域の価値創造の手がかりをさぐる。
目次
序文[真崎克彦・藍澤淑雄]
はじめに
第1章 ポスト資本主義時代における地域主義[真崎克彦]
Ⅰ.ポスト資本主義――「対抗」と「構想」のバランス
Ⅱ.地域主義の概要――「複合的かつ重層的な動き」の重視
1 地域を包摂する「ふくらみ」
2 近代による「裁断」の超克
Ⅲ.地域主義の推進――「関係論的な発想」の発揚
1 従来型からシステム思考への転換
2 多様な経済論による「主従」関係の超克
Ⅳ.まとめ――ポスト資本主義に向けた価値創造
第2章 「公共」の再審と地域社会――「私」を開き「共」を通じて「公」と向き合う地域社会の実践に向けて[中西典子]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.地域コミュニティへの着目と「新たな公共」
1 「自助・共助・公助」にみる「日本版補完性原理」
2 政策的に奨励される「新たな公共」と「分権型社会」
Ⅲ.地域社会と「公共」をめぐる問題
1 「コミュニティの再発見」にみる地域社会の位相
2 「公共」の名の下で不可視化される排除と「閉じるコミュニティ」
Ⅳ.地域社会の公共的課題への対応可能性
1 日本における「公(おおやけ)」の伝統と「公=官/私=民」の二元論を越えて
2 「官」と「民」がともに支える多元的な「公共」へ
3 「私」が開く「公」と等身大の時空間から生み出される地域社会
第一部 協同性に根差したローカル経済
第3章 地域から掘り起こす新しい「豊かさ」――東日本大震災を経験した福島県二本松市の取り組みから[斎藤文彦]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.福島県二本松市の取り組み
1 背景と東日本大震災を乗り越える努力
2 地域おこしの諸活動
3 オーガニックビレッジ(OV)構想の宣言と今後
Ⅲ.オーガニックビレッジ(OV)構想が突きつける諸課題
Ⅳ.地域に根差しつつも開かれた関係性を
Ⅴ.結びに代えて
第4章 社会的連帯経済における互酬性の役割――パキスタンのイスラム金融マイクロファイナンス機関・アフワット[高須直子]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.パキスタンとイスラム金融マイクロファイナンスについて
1 パキスタンについて
2 イスラム金融について
Ⅲ.アフワットのケース
1 アフワットの特徴
2 なぜ無利子融資でも拡大しているのか
3 カスール県での取り組み
Ⅳ.考察:アフワットにみる社会的連帯経済の互酬性と地域主義
Ⅴ.おわりに
第5章 加工業者・グループの発展とローカル経済の関わり――タンザニア・モロゴロ州における「混合粥の素」の生産[加藤(山内)珠比]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.在来粥「リシェ」の発展
Ⅲ.「リシェ」の製造と基準、販売
Ⅳ.「リシェ」に対する栄養専門家からの懸念と加工業者の素早い対応
Ⅴ.モロゴロ加工業者クラスターイニシアティブの発展
Ⅵ.「リシェ」加工業者の事例
1 加工グループ
2 個人
Ⅶ.本事例から見えてくること
Ⅷ.むすびに――「リシェ」加工を通じたコミュニティ経済の振興
第6章 地域と「共にある」コミュニティ経済振興――ブータン山村の乳業協同組合[真崎克彦]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.コミュニティ経済研究
Ⅲ.ブータン中部の乳業協同組合
1 対象地域
2 乳業協同組合
3 組合運営の進展:「共にある」原理
Ⅳ.まとめ
第二部 ローカリゼーションとレジリエンス
第7章 依存的自立を高めるしなやかなローカリゼーション――国内外のエコビレッジとトランジション運動[平山恵]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.エコビレッジとトランジション運動
Ⅲ.ローカリゼーション運動の歴史と動向
1 エコビレッジ
2 トランジション・タウン(TT)
Ⅳ.ローカリゼーションの実際
Ⅴ.事例の考察
1 本音が言える関係が作る「しなやかな」依存関係
2 「ノン・ヒューマン」との対話で中庸な依存
3 自発的な学びと創造の生活空間
4 芸術の存在
Ⅵ.ローカリゼーションの共鳴拡大「レゾナンス」
Ⅶ.おわりに
第8章 さまよう地域、漂う地域――太平洋島嶼における地域主義の多層性と戦略的依存[関根久雄]
Ⅰ.地域に向き合う
1 単純な近代化からの「埋め戻し」
2 脱・脱成長と地域主義
Ⅱ.サブシステンスを生きる
1 太平洋島嶼地域における経済的要素
2 セーフティネットとしてのサブシステンス・アフルエンス
Ⅲ.開発的公共圏を生きる――村落社会から州社会へ
Ⅳ.レントとともに生きる――国際社会における地域主義
1 レントに依存する太平洋島嶼国
2 国家=開発的公共圏としての「地域」
Ⅴ.現代に漂う地域
第9章 「取り残された地域」にとっての持続可能な開発目標――インドネシア・西ティモールの事例[堀江正伸・森田良成]
Ⅰ.序論
Ⅱ.SDGsの成り立ち
Ⅲ.インドネシア開発政策におけるSDGsの導入と地域の位置づけ
Ⅳ.村落開発の現状
1 クパン県B村
2 TTS県N村
Ⅴ.結論
第三部 地域のつながりで育つ子ども
第10章 地域主義の視点から見た子ども食堂――コロナ禍の青森県における事例からの考察[平井華代]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.地域における子ども食堂の取り組み
Ⅲ.子ども食堂の葛藤
Ⅳ.青森県八戸こども宅食おすそわけ便の事例
Ⅴ.調査結果
1 参加者世帯の生活困難
2 支援の多面的な効果
3 ポスト・コロナでの支援
4 課題
Ⅵ.事例から導き出される示唆
1 地域における新たな関わりの創出
2 食を通じた親子支援とネットワーク形成
3 共感を通じた地域発展:子ども食堂の役割
Ⅶ.まとめ
第11章 子どもが紡ぐ社会的結束――ヨルダンの取り組みから[松田裕美]
Ⅰ.序論
Ⅱ.社会的結束と地域について
Ⅲ.社会的結束への取り組み――ヨルダンの事例から
1 ヨルダンの難民問題
2 受け入れ側の負担
3 難民支援とともに社会的結束を育む取り組み
4 地域で子どもを繋ぐ
Ⅳ.結論 多文化共生のその先へ
第四部 地域と関わり合う教育
第12章 持続可能な地域づくりへの大学の関わり――茨木中山間地域における取り組みから[秋吉恵]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.大学と地域の連携事業
1 茨木市北部地域の特徴
2 立命館大学教養教育科目茨木火起こしプロジェクト
3 2018年度火起こしプロジェクトで起きたこと
Ⅲ.地域外の人への期待の転換――受益者から行為主体へ
1 なぜ北部地域の魅力を南部の子どもたちに伝えようとしたのか
2 2018年の災害がもたらした被害と疑念
Ⅳ.大字Sを基盤に開発事業後に展開された7つの住民組織
1 大字Sの生活課題に対応した2つの住民組織
2 北部地域の持続的な地域づくりへの起点となった住民組織
3 地域を超えた社会の課題に取り組もうとした組織
Ⅴ.変化を起こす地域と地域外の人々の関わり方
1 地域に変化を起こす人と人の相互作用
2 大学と地域の二者間における変容的関係性への前進
3 関係性の前進と後退による関係性のゆらぎ
4 関係性のゆらぎが生み出すもの
Ⅵ.終わりに
第13章 地域の価値創造への大学のかかわり――館ヶ丘団地における取り組みから[藍澤淑雄]
Ⅰ.はじめに――地域で暮らす者と地域にかかわりたい者
Ⅱ.館ヶ丘団地
1 館ヶ丘団地の現状
2 館ヶ丘自治会
Ⅲ.大学の地域へのかかわり――「館ヶ丘団地暮らし向上プロジェクト」
1 「館ヶ丘団地暮らし向上プロジェクト」(館プロ)
2 館プロの活動における自治会・学生の関係変化と地域の公共性の萌芽
Ⅳ.館ヶ丘団地の事例から見えてきたこと
Ⅴ.まとめ
おわりに
第14章 あいだの開発学の可能性――秋田と南アフリカの起業家たちの学び合い[工藤尚悟]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.あいだの概念
1 あいだの定義
2 差異を認めてあいだを拓く
3 どのようにあいだをつなぐのか
Ⅲ.「学び」であいだをつなぐ
1 通域的な学びの実践:Africa-Asia Business Forum
2 通域的な学びを通じて何を学んだのか
Ⅳ.考察とまとめ
第15章 地域主義の意義と可能性――課題を考察する[藍澤淑雄]
Ⅰ.地域主義の意義――「対抗」を包摂する「構想」
Ⅱ.地域主義の可能性
1 地域の実質的な「豊かさ」
2 地域を再構築する「潜在力」
3 地域を未来につなげる「ケア力」
4 「差異」を手がかりとした地域の価値創造
Ⅲ.おわりに――ポスト資本主義時代における関係論的な発想と地域主義
1 ポスト資本主義時代における関係論的発想
2 地域の可能性を手繰り寄せる
前書きなど
序文
本書の刊行間近の2024年初頭、能登半島地震後の処置が問題になっています。政府対応の初動の遅れ、支援物資やマンパワーの不行き届き、被災者の生命や健康や安全を守れない避難施設、先行きの見えない生活再建計画、などです。これまで経済「大」国たろうとするあまり、生活保障の取組みが二の次にされてきたツケではないか、とまで一部メディアで報じられています。
経済「大」国志向の問題は、政治資金パーティーをめぐる裏金問題でも白日のもとにさらされました。「パーティー券」という名目の実質的な「献金」制度で、高度経済成長期の旧弊に他なりません。政治家が企業の意をくむことで経済を循環させ、規模を拡大した「成功」体験から離脱できません。
その旧弊が「目も当てられない」現況に行き着いたことは、大阪・関西万博(2025年4月開幕予定、世論調査で「開催の必要なし」の回答が大半)をめぐる悶着からも明白です。被災地復興からカネ・モノ・ヒトを奪うことが懸念されるのに、政府は決行予定を見直そうともしません(執筆時点)。
こうした中、「公(おおやけ、「皆」にとって善いこと)」とは何なのかが、ますます問われています(本書の第2章参照)。これまで政府首脳や企業幹部などの権力者が「公」の決定を牽引してきましたが、今後はその過程で声が顧みられにくかった人たちや集団の福利にも資する、「皆」のためになる「公」観念を構想し直し、その実現の方途を検討しなくてはなりません。
本書ではその手がかりを探るべく、「ポスト資本主義」(非資本主義的な原理による体制への移行)時代の「地域主義」のあり方を考察します(第1章)。国内外を問わず昨今、生活困窮や環境破壊、紛争や人権侵害が収まる気配を見せません。その背景には、利潤追求やその元手たる資本の増殖を際限なく進めようとする資本主義のグローバルな広まり、という背景事情があります。その結果、人の暮らしや生命への危機が世界各地で高まりました。
こうした現況に抗うべく、国内外で非資本主義的なローカル経済の振興が活性化してきました(第3、4、5、6章)。資本主義では建前上、経済活動を「自由」市場に委ねることで「豊かな」社会づくりが実現することになっています。しかし、現実には政治と企業の癒着が示す通り、市場経済は権力者の過剰な「自由」に行き着きます。対するローカル経済ではそうならないよう、人どうしのつながりや自然との共生を大事にしながら、人の生存・生活に資する「豊かさ」という、万人のための「自由」を推進します。
そうした「豊かさ」が地域住民主体で希求されるようになれば、社会のレジリエンスを高めることにもなります(第7、8、9章)。レジリエンスとは、従来の暮らしを守り、危機に応じて適宜、暮らし方を変えていく社会の力です。地域主義に即して、自然や文化などを背景としながら地域の人たちが一体感を持って政治的・経済的な自主独立を追求すれば、環境破壊や生活困窮化などのグローバル課題の広まりから暮らしを守り、草の根から課題対処を進める土台としてのレジリエンスが地域社会に備わってきます。
以上のような地域づくりは、子どもの成育に好ましい環境を整える意味も持ちます(第10、11章)。子どもや保護者にとって、日々暮らす地域で他者と信頼関係を築くことが大切です。そうしたつながりがあることで、子どもたちは居場所を見つけて伸び伸びと過ごせますし、地域で子どもたちを見守れる下地ができます。困難を抱える親子の孤立やその背景にある社会の分断が目立つ今日、地域でいかに信頼や絆を育められるのかが、ますます問われます。
大学教育においても、地域と関わる活動が注目されるようになりました(第12、13章)。学生や大学関係者は地域に関わる機会を通して市民感覚を養うことができます。生活圏のローカリゼーションを進め、地元の経済振興や社会づくりを地域住民の手で行うことが求められる中、地域の関係者も学生の学習意欲やアイデアを寛大に受け入れ、立場や考え方が違うからこそ従来はなかった着想を得て、それに基づく新たな活動につながることがあります。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。