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日本社会の移民第二世代
エスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年7月25日
- 書店発売日
- 2021年7月26日
- 登録日
- 2021年6月1日
- 最終更新日
- 2021年10月4日
紹介
1990年代前後に来日した、移民第二世代の若者たち。その人生を振り返り紡いでくれた170名のひとりひとりの歴史、悩み、将来の夢から、直線的でも一様でもないホスト国日本への適応過程とその要因、世代間にまたがる文化変容の型がみえてくる。
目次
はじめに
序章 移民第二世代研究を考える[清水睦美]
序‐1 教育学研究におけるニューカマー研究
序‐2 ニューカマー研究から「移民と教育」研究へ
序‐3 本書の目的と構成
序‐4 調査内容と対象者
コラム 本書が対象とするエスニックグループの概要
第Ⅰ部 移民第二世代のエスニック・アイデンティティ
第1章 イントロダクション――多様化する移民第二世代のエスニック・アイデンティティ[額賀美紗子]
1‐1 移民第二世代の日本社会への適応
1‐2 移民第二世代のエスニック・アイデンティティの類型
1‐3 本調査における移民第二世代のアイデンティティの全体像
1‐4 エスニック・アイデンティティ分岐の過程と要因――エスニック集団間の比較から
1‐5 小括――日本社会における移民第二世代の分節的同化
第2章 想像のエスニシティ――ベトナム系・カンボジア系のエスニック・アイデンティティ[清水睦美]
2‐1 はじめに
2‐2 インドシナ難民(親世代)の日本への社会移動
2‐3 第二世代のエスニック・アイデンティティ
2‐4 小括――エスニック・アイデンティティの分岐要因
第3章 親族コミュニティとの狭間で――中国帰国者三世のエスニック・アイデンティティ[坪田光平]
3‐1 はじめに
3‐2 中国帰国者家族と永住帰国政策
3‐3 親族コミュニティとの関係のなかで
3‐4 小括――中国系移民第二世代の適応過程と準拠集団の重要性
第4章 「帰国の物語」のもとでの模索――ブラジル系のエスニック・アイデンティティ[児島明]
4‐1 はじめに
4‐2 調査の対象と方法
4‐3 ブラジル系第一世代の移動の特徴
4‐4 ブラジル系第二世代のエスニック・アイデンティティ
4‐5 エスニック・アイデンティティの分岐要因
4‐6 小括――エスニック・コミュニティへの帰属と「帰国の物語」の受容
第5章 日系という表明の消失――ペルー系のエスニック・アイデンティティ[角替弘規]
5‐1 はじめに
5‐2 ペルー系移民第一世代の移動の特徴
5‐3 ペルー系第二世代のエスニック・アイデンティティ
5‐4 エスニック・アイデンティティの分岐要因
5‐5 小括――「日系人」と表明しないことの背景
第6章 二国の狭間で揺れ動く――フィリピン系のエスニック・アイデンティティ[額賀美紗子・三浦綾希子]
6‐1 はじめに
6‐2 フィリピン系第二世代が育つ家族の構造と編入様式
6‐3 第二世代のエスニック・アイデンティティ形成と学業達成
6‐4 アイデンティティ分岐を促す構造的要因――若者たちのネットワークと家族の資本
6‐5 小括――多様なアクターを含むハイブリッドな文化空間がもつ意義
第Ⅱ部 移民第二世代の学校経験
第7章 イントロダクション――生きられた経験としての排除[児島明]
7‐1 移民第二世代と日本の学校文化
7‐2 排除のとらえ方
7‐3 知見のまとめ
7‐4 小括――移民第二世代が学校における排除に抗する道筋
第8章 同化のなかの疎外感――ベトナム系・カンボジア系の学校経験[清水睦美]
8‐1 はじめに
8‐2 子世代の不安定さ
8‐3 いじめ経験の語り
8‐4 いじめ経験におけるヴァルネラビリティ
8‐5 いじめの様相に違いをもたらす要因
8‐6 小括――学校と家族の間をどう埋められるのか
第9章 困難経験の異同と階層性――中国系の学校経験[坪田光平]
9‐1 はじめに
9‐2 中国系移民第二世代における困難経験
9‐3 困難経験の形成過程
9‐4 困難経験の克服の方途
9‐5 小括――中国系移民家族の理解に向けて
第10章 同化/差異化によるいじめの回避とその陥穽――ブラジル系の学校経験[児島明]
10‐1 はじめに
10‐2 ブラジル系第二世代のいじめの諸相――三つの事例
10‐3 いじめはどのように生じるのか
10‐4 いじめによる困難に影響を及ぼす要因
10‐5 小括――ブラジル系第二世代にいじめ回避戦略を強いる学校の構造的要因
第11章 個人化した対処と自発的周辺化の背景――ペルー系の学校経験[角替弘規]
11‐1 問題設定
11‐2 ペルー系第二世代のいじめ経験
11‐3 個人化するいじめへの対処
11‐4 自発的周辺化
11‐5 エスニック・コミュニティとの距離、孤立した家族
11‐6 小括――いじめ経験をめぐる別の可能性
第12章 疎外感の形成と克服の方途――フィリピン系の学校経験[三浦綾希子・額賀美紗子]
12‐1 問題設定
12‐2 フィリピン系第二世代が直面する困難経験――疎外感の形成過程
12‐3 疎外感を克服する道筋
12‐4 小括――差異を認めあう学校づくりと多様な居場所の確保
第Ⅲ部 移民第二世代のジェンダー
第13章 イントロダクション――出身国のジェンダー規範の世代間継承[坪田光平]
13‐1 出身国のジェンダー規範と移民家族への影響
13‐2 出身国のジェンダー規範からの解放と本章の課題
13‐3 出身国のジェンダー規範継承をめぐる親子関係の様相
13‐4 小括――三つのエスニック集団間比較
第14章 親子の協和的関係の維持――「働き者」に向かうベトナム系第二世代の女性たち[清水睦美]
14‐1 親子の協和的関係を保持する女性たち――儒教の影響
14‐2 役割逆転への向きあい方――母親の権威保持の様相
14‐3 小括――ジェンダー規範の継承のゆく先としての「働き者」
第15章 農村家族の教育期待と第二世代の進路形成――中国系の女性たち[坪田光平]
15‐1 中国系移民家族におけるジェンダーと階層
15‐2 第二世代女性の進路形成――ジェンダー規範の継承をめぐる三つの世代間関係
15‐3 小括――移民第二世代女性のエンパワーメントに向けて
第16章 ジェンダー規範の世代間再構築――フィリピン系の女性たち[額賀美紗子]
16‐1 フィリピン人女性に課された「トランスナショナルな家族ケア」
16‐2 親子間のエスニック文化継承とジェンダー規範の再構築――三つのパターン
16‐3 小括――エスニシティとジェンダーの交差性
第Ⅳ部 移民第二世代のトランスナショナリズム
第17章 イントロダクション――トランスナショナルな社会空間の世代間継承[三浦綾希子]
17‐1 はじめに
17‐2 第一世代のトランスナショナリズム
17‐3 トランスナショナルな社会空間の世代間継承
17‐4 トランスナショナルな社会空間の世代間継承の分岐を促す要因
第18章 構築される社会空間――ベトナム系第二世代のトランスナショナリズム[清水睦美]
18‐1 「難民」としての親世代のトランスナショナリズム
18‐2 子世代のトランスナショナル実践
18‐3 小括――子世代のトランスナショナル実践に影響を及ぼす要因
第19章 国境を越えるキャリア志向――中国系のトランスナショナリズム[坪田光平]
19‐1 トランスナショナルな家族の教育戦略
19‐2 中国系移民家族におけるトランスナショナルな教育戦略
19‐3 中国系移民第二世代のキャリア志向
19‐4 小括――若者たちのキャリア志向を支えるもの
第20章 国を越える家族関係の創造――フィリピン系のトランスナショナリズム[三浦綾希子]
20‐1 トランスナショナルな家族で育つフィリピン系第二世代
20‐2 第一世代によるトランスナショナルな社会空間の形成
20‐3 第二世代のトランスナショナリズム
20‐4 トランスナショナルな社会空間の世代間継承の分岐要因
終章 移民親子の文化変容が照らし出す日本の教育課題[児島明]
終‐1 移民親子の文化変容
終‐2 エスニック集団間比較――ハイブリッド志向型アイデンティティの形成過程に注目して
終‐3 学校における「つながり」形成の意味
補章 量的データからみた移民第二世代
補‐1 問題設定[角替弘規]
補‐2 親子の衝突[坪田光平]
補‐3 言語獲得[清水睦美]
補‐4 学校経験[角替弘規]
補‐5 大学進学[額賀美紗子]
補‐6 職業観[児島明]
補‐7 第二世代の海外就労志向[三浦綾希子]
移民第二世代インタビューリスト
参考文献
索引
執筆者紹介
前書きなど
序章 移民第二世代研究を考える[清水睦美]
(…前略…)
序‐3 本書の目的と構成
日本社会の移民第二世代の姿をとらえつつ、エスニシティ間比較を通じて、かれらの多様性をとらえようという目的を設定したとき、モデルとなったのが、ポルテスとルンバウトの二〇〇一年出版のLegacies: The story of the immigrant second generation であった。同書は、私たちが研究に着手した二〇一四年には村井忠政ほかによって、『現代アメリカ移民第二世代の研究――移民排斥と同化主義に代わる「第三の道」』として翻訳されて刊行された(Portes and Rumbaut 2001=2014)。とくに刺激を受けたのは、「分節化された同化」(segmented assimilation)という移民のホスト国での適応プロセスに関する新たな分析枠組である。古典的同化理論では、移民のホスト国への適応は、一様かつ直線的に進むとする直線的同化(linear assimilation)プロセスが採用されてきている(Gordon 1964=2000)。しかしながら、ポルテスとルンバウトは、そうした直線的同化は、移民第二世代の適応の一つにすぎないとし、同化を分節化する三つの側面を指摘する。第一の側面は、いわゆる人的資本と呼ばれるもので、年齢、学歴、職業スキル、富、言語などの移民の個人的属性で、これらは移民の経済的適応に決定的な役割を果たすとされる。しかしながら、移民が経済的にどれだけのものを手に入れるかは、人的資本に全面的に依存するわけではないとし、第二の側面として、移民を受け入れる編入様式(modes of incorporation)の重要性を指摘する。具体的には、ホスト国政府の移民政策、一般の人々の移民受け入れに対する態度、移民と同じエスニックグループからなるコミュニティの存在とその規模といったものを基本的要素とするものである。そして、第三の側面として、移民家族の構造への注目の必要性を指摘し、とりわけ両親がそろっていることが重要とされている。
これら人的資本、編入様式、家族構造を背景要因として、ポルテスとルンバウトが同化のプロセスの分岐要因として提示するのが、世代間にまたがる文化変容の型である(Portes and Rumbaut 2001=2014:49-69)。そこでは四つの型が示されている。「協和的文化変容」は、アメリカの主流社会への統合を親子ともに探求するのに対し、親子がともにアメリカ社会への統合に抵抗し、母国への帰還の可能性が高くなる「文化変容への協和的抵抗」があるとされる。他方で、子どもが親の言語を喪失し、世代間葛藤の状態に陥る「不協和的文化変容」があるのに対し、親の権威が維持され世代間葛藤もなく、子どもが流暢なバイリンガルになる「選択的文化変容」の型もある。
このような複数の文脈を考慮しつつ世代間にまたがる文化変容の分岐をとらえた「分節的同化理論」は、日本の移民第二世代を対象とした場合でも有効であることは、私たち研究グループの予測とも重なるものであった。なぜならば、私たちは個別のフィールドワークをとおして、「ニューカマー」とひとくくりにしながらも、エスニック・グループによるアイデンティティの形成過程や学校適応に違いがあることを経験的にとらえてきていたからである。
こうして私たちは、移民第二世代のエスニシティ間比較を行うにあたり、まずは図序‐3に示すような分節化された同化のプロセスを分析の基底におき、四つのテーマ(第Ⅰ部エスニック・アイデンティティ、第Ⅱ部学校適応、第Ⅲ部ジェンダー、第Ⅳ部トランスナショナリズム)について探究を試みることとした(なお、第Ⅲ・Ⅳ部で対象となるエスニシティは、第Ⅰ・Ⅱ部のような比較検討が難しく、カンボジアとブラジル、ペルーを除いたエスニシティ間比較となっている)。それぞれの部の構成は、冒頭の章でエスニシティ間比較の分析枠組と総括を提示し、その後の各章でエスニックグループごとに詳細を描き出している。さらに、補章では、量的なエスニシティ間比較への挑戦として、エスニックグループごとに一六~四九ケース、合計一七〇ケースのインタビューを量的データとして整理した分析を試みている。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。