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妖怪民話―聞き歩き
- 初版年月日
- 2021年11月25日
- 書店発売日
- 2021年11月25日
- 登録日
- 2021年10月15日
- 最終更新日
- 2022年1月7日
書評掲載情報
2022-02-07 | 長崎新聞 |
2022-01-21 | 読売新聞 北海道 |
2021-12-12 | 奈良新聞 |
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紹介
「口から出る昔話は、語りの本人が亡くなったとき、消えてしまう、早く記録しなくては」
20年余の歳月をかけて、全国各地の語り部を訪ね歩き、消えゆく昔話をまとめた1冊。すべてオリジナルの語り下ろし、全41話収録。
何百年もれんめんと語り継がれてきた語りを、イキイキと再現した力作。
web版「妖怪通信」待望の書籍化!
http://www.rg-youkai.com
目次
第一章 妖怪解体新書
雪鬼/妻有の鬼昔/猿鬼伝説/古寺の化け物/
道人房むかし/岳山の化け蜘蛛/猫股/
三角山の天狗/河童の瓶
第二章 昔話の中の祟り
首無し山法師/砂子明神七代たたり物語/
オオカメの宮
第三章 ローカルな妖怪
べこを連れた雪女/当願暮当/七尋女房/
キジムナー
第四章 昔話の中の恩返し
蟹の恩返し/鮒の恩返し/猫の恩返し/
福田寺に残るオオカミの報恩譚/犬の墓
第五章 異次元の婆さま、異界へ行った男
寒戸の婆さま/くっちゃご/蝶ねえ/エイ女房
第六章 人の心にうごめく妖怪
伝承 三作石子詰め/伝承 ガゴゼという鬼/
「ぶよも」の幽霊/飴買い幽霊/粟福、米福物語/
通り池の継子岩/いわざらこざら/サル昔
番外編 耳で聞いた不思議な話
わたしは木の精の妖怪〝ヒーノモン〟と遊んだ/
カリコボーズ/深い山の不思議/幻影の犬
巻末
付喪神と百鬼夜行 /継子いじめ譚(韓国・中国)
前書きなど
まえがき
終戦直前、まだテレビのない時代であった。祖母と布団を並べて寝ていたが、祖母は寝しなに昔話を聞かせてくれた。例えば、小豆島に伝わる「ぶよもの幽霊」のこと。乳飲み子を残して亡くなった若い母親が、ゆうれん(幽霊)となって墓に現れるという地元に伝わる享保時代(一七一六~三六年)の話であった。丑三つ時の漆黒の闇に朦朧と現れる白い幽霊、すうっと消えてゆく不思議さ。想像力をかき立てられ、幽霊話は迫力をもって、幼い頭に刷り込まれた。昔話の魅力に揺り動かされ、昔話の扉が目の前で開いた瞬間であった。三歳児の頭に論語が深く刷り込まれるというように、この話は、今なお、いつでもどこでもスラスラ口をついて出てくる。
幼い頃に聞いた不思議な話は、頭のどこかに深く潜んでいたようだ。祖母が亡くなったとき、「口から出る昔話は、語りの本人が亡くなったとき、消えてしまう、早く昔話というものを記録しなくては」と思った。
多忙な日々の中、なかなか実行出来なかった。二十五、六年も経って、時間の余裕が出来たとき、「全国にもこういう話があるが、同じようにいずれ消える運命だろう」と思い、広く各地の昔話を取材することにした。
一九九五年頃から、ひまひまに取材を始め、原稿をweb上に掲載、「妖怪通信」 http://www.rg-youkai.com を主宰してきた。ボランティアで現在一三五話を発信している。時間に余裕のある人は、ぜひこのサイトに遊びにきて頂きたい。
昔話は何百年もれんめんと語り継がれてきただけに、いつ聞いてもその面白い世界に入ってゆける魅力がある。飾り気のない人間の思い、良いことと悪いことを説教ではなく子ども自身が知ってゆくように作られた話の構成など、長い間の人々の知恵が込められている。
本書では、妖怪を「生身の人間のように、話したり、動いたり、呑んだり食べたりする者」として扱ったが、あくまで「生命のないもの」と考えて取材した。
在職中、アメリカ西部のワイオミング州立大学で文化人類学を中心に学び、二年間を過ごした。一九七〇年代前半、日本人留学生は少なく女性はまれであった。各国からきた学友は、毎日のように寮に遊びにやって来た。いつも楽譜片手にアリアを聞かせてくれた香港の数学専攻の学生、アフリカの民俗舞踊を踊ってくれたナイジェリアのエリート学生、エープリルフールにしこたま騙してやったコロンビアの学生など生きた文化人類学の見本であった。文化人類学で得た柔軟な発想、物の見方は、昔話のフィールドに立ち、取材をする時に知らず知らずの内に生かされたと思う。
日経新聞の和歌山章彦記者は日経紙面(二〇一一年十一月六日)に、「消えゆく昔話の最後の落ち穂拾い」として取り上げてくれた。それから十年、今となっては新たに語り部を探すのは難しくなった。
終わりに、秋田県内の取材に毎回付き合ってくれた地元の民話収集、語り部、詩人の黒沢せいこ氏、豊富な民話収集体験から助言と応援を常に頂いた酒井董美氏(山陰民俗学会前会長)、パソコン回りのことを指導して頂いた三甁徹氏(JEPA顧問、電子工博)、オオカミの記述をチェックして頂いた丸山直樹氏(東京農工大名誉教授、農博、(日本オオカミ協会会長)、小豆島高校の上級生で今は超多忙の草壁焔太氏(五行歌創始者)には、一部に目を通して頂き、「ドキドキするような面白い内容」という評価を得た。
本書を書き通すのは困難な中、さまざまの方々にお世話になった。
深く感謝の意を捧げたい。
三月十八日 東京にて
藤井 和子
関連リンク
http://www.rg-youkai.com/
上記内容は本書刊行時のものです。