すれちがった縁と縁が、4年後に結びつき実現した読み聞かせ
『されどオオカミ』(きむらゆういち 作・絵)。
これは、モンゴルのオオカミと人間の心と葛藤、肉体のぶつかりあいを題材にした絵本です。
現在、8月10日までの限定公開で、デーモン閣下が、本書の朗読映像をYouTubeに公開してくださっています。
『されどオオカミ』は、ある縁が元で企画が立ち上がり、2016年に完成しました。
作られたきっかけは、私の妻が編集者として手芸作家の寺西恵里子さんと仕事をしていたことにあります。
寺西さんのお知り合いに、内モンゴル出身で最先端のアプリ開発に携わっている布和賀什格(フワ ハシガ)さんという方がいます。その彼の「モンゴルには日本の絵本のような本があまりない」という話から、モンゴルをテーマにした絵本をつくりたいねという話が持ち上がりました。
そこから実現へ向けて手探りの絵本づくりが、ふたつの路で始まりました。
ひとつめの路は、連想ゲームでした。
モンゴルといえば、お相撲さん。お相撲さんといえば、デーモン閣下だね。
そう発想したのには、私が閣下と、ずいぶんと長いご縁をいただいていることがありました。その縁を頼って、ご相談させていただくことにしました。
「モンゴル出身のお相撲さん、あるいはその身内の方に協力いただきたいので、どなたかご紹介いただけないでしょうか」と。
閣下からは、ある方を引き合わせていただきまして、協力いただけるというお話まで取り付けたのです。
しかし、残念ながら、その方とその後うまく連絡がとれなくなり、縁がとだえてしまいました。
とても、残念でした。
もうひとつの路、こちらも連想ゲームでした。
同時並行で、絵本作家探しを進めていたのです。
モンゴルといえばオオカミ。モンゴル人の先祖はオオカミだったという話もあるくらいですから。ということで、モチーフの第一候補はオオカミにしようということになりました。
オオカミといえば、『あらしの夜に』をはじめ、数々のオオカミに関わる絵本をつくられている、きむらゆういち先生が最初に頭に浮かびました。
今度は、寺西さんのご縁から、きむらゆういち先生にご相談する機会をいただきました。
ダメもとでご相談することに。
すると、きむら先生は、その少し前に、モンゴルに旅されていたとのこと。その様子は、『地球の歩き方 モンゴル』にも掲載されていました。なんとよいタイミングか。
きむら先生に描いていただけることになったのです。
布和さんからも、モンゴルの現状などを聞きながら、なんども打ち合わせをさせていただき、内容を練りました。そして、モンゴルを舞台に、モンゴルの青年“バートル”と、宿敵であるオオカミのボス“タオ”の肉体の戦いと、心の葛藤を描いた物語ができあがりました。
モンゴルといえばオオカミ、とは言いながら、今や野生のものはほとんど見られなくなってしまったとのこと。
その事情の裏には、こんな物語があったのではないかと思わせてくれるお話です。
ふたつの路をたどり、できれば、ひとつに合流するのが目標でした。合流できていれば、閣下ときむら先生、お会いしているはずでした。が、それはかないませんでした。
そして4年。
この春は、すごく忙しかったはずの閣下、コロナ禍で時間ができ、何か発信することを考えておられました。
閣下の活動の一つには、純邦楽器の演奏とのコラボレーションで、文芸・文学作品を自ら脚本に仕上げて朗読をする、邦楽維新Collaborationというシリーズがあります。すでにその活動歴は20年です。
その閣下から、絵本の読み聞かせをYouTubeで発信したい。『されどオオカミ』はどうだろうというお話をいただきました。
きむら先生にご了承をいただいて、現在、『されどオオカミ』のデーモン閣下による朗読動画が公開されていますす。
デーモン閣下 You Tube
https://www.youtube.com/channel/UCN_uRsB2P2oHtj_3xYKlPhA
ふたつの路が、奇しくもこのコロナ禍の影響で結びつきました。
喜んでいい世の中の状況ではないですが、ふとしたことで、すれ違った縁がようやく結びつきました。
あるまじろ書房という会社名の命名にも、不思議な縁がありましたが、それはまた機会があればということにさせていただきます。
縁だけに助けられている、あるまじろ書房ですが、今度はこの本を通じて、読者の方との縁ができるとうれしいと思っています。
ちなみに、閣下が30年前に発表した最初のソロアルバム『好色萬聲男(こうしょくよろずごえおとこ)』の中に「縁(えにし)」という歌があり、往時から現在まで閣下ファンにとってたいへん大事にされて人気がある歌であることも、蛇足ながら、お伝えしておきたいと思います。
あるまじろ書房 https://www.arumajiro.co