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ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド(1821~1910)とツルゲーネフ(1818~83) と小林緑さん

最近は、地元の佐久市望月図書館に行くことが多い。「新装世界の文学セレクション36」(中央公論社1994年)の中に『ツルゲーネフ ルージン』 があるのを見つけ借りだした。金子幸彦氏の解説に次の1節を見つけた。

「1843年にツルゲーネフはロシアに来たフランスのオペラ歌手ポリーヌ・ヴィアルド―・ガルシヤとモスクワで知り合いになった。この出会いはその後の彼の運命を決定する」

何と、いるではないか。ツルゲーネフにとってのポリーヌの存在の重さを見逃さなかった日本人が。「ポリーヌ・ヴィアルド―・ガルシヤ」 いま、小林緑さん(国立音楽大学名誉教授)が1冊にまとめようとしているその人だ。金子氏はさらに続ける。

「ヴィアルド―夫人に対する彼の恋の真相は今日にいたるまで多くのなぞにつつまれている。おそらくこの恋のゆえに、彼は一生を独身で過ごし、その後の彼の生活は夫と子供のあるこの婦人の家庭と結びついている」

緑さんの表記だと、ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド(1821~1910)となる。緑さんはこの女性に、ツルゲーネフ同様に入れ込んでいる。この20年間知られざる女性音楽家を紹介することに献身してきた(日本のジェンダー社会への世直しとして)緑さんが、ことに力を入れてきたのがポリーヌ・ガルシア=ヴィアルドその人だ。
 「ポリーヌ生誕」200年に向けて、準備を続けてこられた。昨年の2021年7月18日がその日で、記念コンサートが王子ホール(銀座)で開かれた。お誘いいただき、繰り出される音楽に時を忘れた。その時のチラシがある。
♪ ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド生誕200年記念に際して

ポリーヌの歌唱と演技と人間性と知性の豊かさに魅了された人は数多いという。
ジョルジュ・サンド、ショパン、リスト、ベルリオーズ、シューマン夫妻、そしてツルゲーネフなどなど。『父と子』の著者であるツルゲーネフは、ポリーヌに出会ってから、ポリーヌの近くに住み、彼女がしばらく暮らしたドイツの保養地バーデンバーデンにも滞在した。

2017年秋、友人の水野博子さんのベルリンにあるお墓参りに行くことになり、バーデンバーデンに回り道した。中村ふじゑさんと一緒の旅だった。博子さんは日本に来るとき必ず梨の木舎に寄られた。「ベルリンの女たちの会」の話をしてくださった。美味しいチーズ、ゴルゴンゾーラといろいろな実が入ったドイツの酸味のあるパン(何と言うんだろう)のお土産も持参され、食事会はいつも活気に溢れた。
10月1日日本を発ち、フランクフルトに降り立った。友人の家に2泊、そこからバーデンまでは列車の旅だった。緑の中にたたずむ美しい街だった。
ポリーヌが住んでいたという屋敷を探して、街の外れまでを歩いた。庭仕事をしている女性を見つけ、
「ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルドの家はどこですか?」とたずねた。「ああ、ポリーヌ!」と親しみをこめた返事が返ってきた。この地でいまも愛されている。愛される理由が今は少しわかる。ポリーヌの家はもう残っていないようだったが、近くに「VILLA  Turgenev」と書かれた石の門柱を見つけた。
翌日、バーデンのミュージアムで、一枚の絵に出あった。それは、ポリーヌのサロンで行われた午後の音楽会・マチネーの光景だった。ピアノの前に座るポリーヌと、ピアノを囲む何人かの人たちがいた。立っている長身の男性が、ツルゲーネフだった。同じ絵にビスマルクの名前も見つけた。わたしの発見!と日本に帰って、誇らしげに緑さんに話したのだが、実は有名な絵だったらしい。

「あなたは音楽の理想を体現する女司祭です」とジョルジュ・サンドから称賛されたポリーヌの実際の声はどうだったのか?残念ながらまだ録音技術は発達してなく、音源は残っていない。緑さんが、ポリーヌの再来と紹介された人がいる。チェチリア・バルトリ、YouTubeで観て聴くことができる。『ポリーヌ』(タイトルは未定)、わたしもドキドキしながら発刊を待っている。

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