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「共に生きる教育」宣言
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年7月25日
- 書店発売日
- 2022年7月27日
- 登録日
- 2022年6月3日
- 最終更新日
- 2022年7月25日
書評掲載情報
2022-07-25 |
月刊「同和教育」であい
No.724(2022年7月25日) 評者: 【本の紹介】 |
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紹介
インクルーシブ教育を取り巻く状況が厳しいなか、今一度、原点に戻って、反差別の視点に立つ「共に生きる教育」の大切さを訴える。
2014年に日本は障害者権利条約を批准し、条約が求めるインクルーシブ教育の実施は日本政府の義務となった。そこで政府は「インクルーシブ教育システム」なる方針を提示したが、そこでは特別支援教育が必要不可欠なものとされ、「インクルーシブ教育」という名称とは裏腹に、分離教育の原則が維持されている。しかも、「障害の状態や教育的ニーズに応じた指導や支援が必要」として、教室から発達障害とされる子どもたちを析出し、特別支援教室や特別支援学校に送り込む動きが強まり、分離教育が促進されている状況にある。
これに対して著者は、「共に生きる教育」を提起する。すべての人が一緒に生きることは当たり前で、その当たり前を教育で実現するのが「共に生きる教育」である。障害者が教育において排除・分離されていくのは、その教育が能力主義・競争主義にもとづいているからで、「共に生きる教育」は、この能力主義・競争主義による差別を否定し、すべての子どもたちが共に学ぶなかで、人間の尊厳を認め合い支え合える社会をめざす教育をつくりだしていく。
目次
はじめに
序章 「共に生きる教育」宣言
1 だれの側に立つのか
2 「生きる場のインクルージョン」
3 「関係のインクルージョン」を基盤とした「活動のインクルージョン」
4 「有縁の知識」との出会い
5 「共に生きる関係」を取り戻す
6 ラディカルな思想と現実的な実践を
第Ⅰ部 人間の本質としての「共に生きること」
第一章 人間の「本源的共同性」に根ざして
1 解放の原理としての共生
2 共生の根源とは
3 障害の価値
4 パラリンピックが問いかけたもの
5 ダイアログ・イン・ザ・ダーク
6 障害の表記と社会モデル
7 障害児者への差別とは
8 楠敏雄さんの遺志を引き継ごう
9 人間の「本源的共同性」に根ざして
第二章 「共に生きる社会」とは
1 共感と個の尊重
2 共生と自立の間
3 インクルーシブ社会とは何か
4 「生きる権利」を保障する社会を
5 生きることの意味
6 原田正純先生の遺志を引き継いで
7 「悲しみの山並み」の裾野に立って
第三章 障害児と共に生きる
1 子どもとおとなの共生とは
2 当事者としての子ども
3 子ども参加と共生
4 障害児の無力さの意味
5 「障害児の権利」とは
6 子どもアドボカシー事務所から学ぶ
7 コーンウォールアドボカシーから学ぶ
8 障害児の声が政治を変える
第四章 「共に生きる教育」とは
1 共に生きることは渾沌としたこと
2 ディスアビリティ現象を超えて
3 インクルーシブ教育とはどういうことか
4 インクルーシブ教育の光と影
5 インクルーシブ教育のための合理的配慮とは
第Ⅱ部 「共に生きる教育」をすべての学校で
第一章 「分ける教育」はどのように生まれ、どこへ進んでいくのか
1 「分ける教育」の誕生と完成――養護学校義務化
2 「分ける教育」の拡張――特別支援教育
3 「分ける教育」の徹底――「インクルーシブ教育システム」
4 「分ける教育」はどこに向かうのか
第二章 「共に生きる教育」をすべての学校で
1 人間の根源的な願いとしての「共に生きること」
2 あたりまえの関係を取り戻す
3 「共に生きる教育」のはじまり
4 「共に生きる教育」を拒むもの
5 「共に生きる教育」による学校の変化
6 教育の変革を求めて
7 無条件の存在の肯定
第三章 人権教育としての「共に生きる教育」
1 インクルーシブ教育の二つの側面
2 特別支援教育ではなく、共生教育を
3 人権教育としての共生教育
4 人権教育の基本的視点
第四章 教育における質と平等の統一的追求――フィンランドの教育から学ぶもの
1 フィンランドの教育への関心
2 フィンランドの教育制度と教育行政
3 フィンランド教育の特徴
4 フィンランドの教育から学ぶもの
5 フィンランドの特別教育
6 日本への示唆
おわりに
前書きなど
私は「障害児を普通学校へ・全国連絡会」(以下、全国連とします)の世話人です。全国連は、一九七九年の養護学校義務化により障害児の普通学校への就学が困難になるなかで、「地域の学校で共に生きる」ことを求める子ども・保護者・支援者により一九八一年に結成されました。私が「障害児を普通学校へ」の運動に出会ったのはちょうどこのころでした。当時大学院生だった私は、自立生活や障害者解放運動を進める当事者と出会い、彼(女)らの生き方に心を揺さぶられました。障害児者差別の本質は「排除と隔離である」ことや「共に生きる教育」の大切さを教えられました。これは私の生き方を変える出会いでした。
「序章『共に生きる教育』宣言」では、障害者運動との出会いにいたる自分自身の経験を振り返りながら、「共に生きる教育」の原理を記しています。これは「障害児を普通学校へ・全国連絡会全国交流集会in金沢」(一九九八年)で記念講演をさせていただいたときの記録をもとにしたものです。
全国連が結成された四〇年前には、厳しい現実のなかにも、「いつか『共に生きる教育』が実現できるのではないか」という将来への希望がありました。しかし、四〇年にわたって運動が展開されてきたにもかかわらず、「共に生きる教育」は実現しておらず、分離がますます強まっている現状があります。特別支援学校・学級に在籍する子どもが増加し、特別支援学校の増設が続いています。現状は「共に生きる教育」の展望が見通せない厳しい状況にあります。
こうしたなかで就学相談という名の親子への振り分けの圧力も強まっています。振り分けによって辛い思いをしている子どもと保護者、そして「共に生きる教育」を進めたいと願っている教員や支援者などすべての人に、「共に生きる」ことは人間の根源的な願いであり、「共に生きる教育」はあたりまえの教育だというメッセージを届けたいという思いで、本書の出版を決意しました。本書が「共に生きる教育」を求めて格闘している方々にとって、励ましになることを祈っています。また厳しい状況のなかで、各地域での「共に生きる教育」の前進、ひいては教育制度の転換にむけて微力ながら後押しとなることを願っています。
上記内容は本書刊行時のものです。