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「難民」とは誰か 小泉 康一(著) - 明石書店
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「難民」とは誰か (ナンミントハダレカ) 本質的理解のための34の論点 (ホンシツテキリカイノタメノサンジュウヨンノロンテン)

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発行:明石書店
四六判
264ページ
上製
価格 2,700円+税
ISBN
978-4-7503-5540-5   COPY
ISBN 13
9784750355405   COPY
ISBN 10h
4-7503-5540-2   COPY
ISBN 10
4750355402   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2023年3月30日
書店発売日
登録日
2023年2月1日
最終更新日
2023年4月3日
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紹介

個人は、移住を通じて自らの望みを追求する自由をもつ。一方、人口流入に対して国家が懸念を抱くことも避けがたい。では、両者の葛藤は克服しえないものなのか? 国際的視野から難民研究を牽引してきた第一人者が、人間経験の根幹をめぐる課題として考える。

目次

 はしがき

第1章 前提として何を押さえるべきか
 論点1 難民は子どもの顔で描かれる
 論点2 難民は戦士、反攻勢力にもなる
 論点3 難民の本当の数は誰にもわからない
 論点4 発表数の魔術、人数の政治的操作
 論点5 難民は難民キャンプにはいない
 論点6 帰ることくらい良いことはない、という神話
 論点7 拷問、ジェンダー、人身売買とのつながり
 論点8 「家族」という理想化された概念
 論点9 メディア報道と政治の背景にあるイデオロギー

第2章 難民はどう定義・分類されてきたか
 論点10 現代は紛争の性質に変化がある
 論点11 逃亡の原因と結果、影響は複雑化し多様化している
 論点12 逃亡の根本原因から、きっかけまで
 論点13 避難する人と避難せず残る人、事前に予測して避難する人
 論点14 先進国内の庇護経費は、UNHCRへの拠出額を圧倒
 論点15 移民と難民、カテゴリーで分ける危うさ
 論点16 「迫害された難民」とは呼べない避難民の人々
 論点17 政策的に定められた定義がかかえる問題
 論点18 難民条約は不要か?

第3章 難民はいかに支援されてきたか
 論点19 人道主義は、現代資本主義の補完物?
 論点20 UNHCR、栄光というよりは苦闘の歴史
 論点21 UNHCRの構造とグローバル難民政策
 論点22 難民キャンプで「ただ待つ」ことは人を病気にする
 論点23 虚偽の申告は生きるための戦略であることも
 論点24 歪んだ戦略を強いられる難民もいる
 論点25 難民全員が弱者か? その後のケアは?

第4章 当事者視点を軸に、いかに視野を広げて考えるか
 論点26 難民は安全保障上の脅威なのか?
 論点27 移住を阻止するための開発援助の是非
 論点28 「難民問題」ではなく、難民の問題を考える
 論点29 難民キャンプは、技能オリンピックにして争いの場
 論点30 援助活動と研究の違いと補完性
 論点31 多くの難民調査に欠けているもの
 論点32 研究者と難民の関係はどうあるべきか
 論点33 国際制度における新たな分担のルールを求めて
 論点34 難民の問題は、他のグローバルな諸課題とつながる

 参考文献
 あとがき
 索引

前書きなど

はしがき

 (…前略…)

 国際強制移動研究学会(IASFM)は、「強制移動」(forced migration)を広く一般用語として捉え、「難民や国内避難民(紛争により避難する人々)のほかに、自然災害もしくは環境災害、科学もしくは原子力による災害、飢饉や開発プロジェクトなどでの移動」と定義して、使用している。本書でも、この使用法を踏襲したい。
 強制移動する人々は、いわゆる難民条約上の難民(条約難民ともいう。国連の一九五一年「難民の地位に関する条約」、および同条約の地理的・時間的制約を取り除いた一九六七年「難民の地位に関する議定書」で、難民は「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人」と定義される)以外であっても、世上ではすべて「難民」と呼ばれることがあり、この用語の使い方と意味は実は曖昧である。
 同じような言葉で、本書では、強制移動する人については「避難民」の言葉を使っているが、その意味は、避難する人々のなかには、いわゆる条約難民以外の多様な人々をふくんでいることを示したいからである。
「難民」にしろ「避難民」にしろ、言葉上での違いは別にして、現場では両者の境界は曖昧であり、時の政治事情による判断で、援助への力点の置かれ方で、名称に違いが出ることが多い。難民の問題(国家等の視点から見た「難民問題」ではない)に対する最良の実践は、学術調査と、政策形成そして実施の間のギャップに橋をかける道を探すことである。そうしたやり方は、学際的調査がもつ利点であり、問題点を析出し、現場での倫理的な懸念に対応するものとなる。
 研究・調査に限って言えば、そうした活動は多様な学問分野の人が参加して行う形で、民族、人種主義、植民地主義、ナショナリズム、市民権、帰属、犯罪化、国境といった分野区分を通じて、グローバルな移住を検証することを可能にする。
 検証の目的は、人の強制移動の原因、結果、それへの反応を理解することである。歴史を通じ共通のテーマとなっているのは、難民がもつ力とその働きを探り、認めることにある。それは強制移動民の一カテゴリーである難民を、社会的、経済的、政治的行為者として見ることでもある。彼らの視点からのものの見方、その生き生きした経験と声を受け止めることが重要である。
 近年ではますます、難民の「回復力」や「自立」が重要視されている。しかしこの傾向が、難民の力やもてる役割への真の認識を表しているかには、まだ疑問符がつく。責任が単に、行政や国際機関から民間の援助者や難民自身に移されているだけかもしれないからである。
 したがって、難民や避難民自身によって行われる、強制的な移動への様々な応答を分析する必要がある。これらの応答に対しては、草の根の連帯イニシアチブから高次元の国際協力まで様々なプログラムがあり、それぞれが性質を異にしている。さらに難民側についていえば、難民として自身を認識する「程度」や「個人差」の問題もあり、配慮が必要である。
 本書の目的は、人のグローバルな移動(難民をふくむ)に関心をもつ、学生、若手の研究者や関心のある一般の方々に向けて、入門書的な役目を果たすことにある。関心を深められた方は、さらに末尾の参考文献等へと読み進めていっていただければと思う。
 本書の第1章は本書の前提認識を示すため、難民の可動性と希望のありよう、そして生活状況を扱う。第2章は政策的な定義や分類の弊害を扱い、第3章は社会的弱者ゆえの戦略と実践のあり方を紹介し、第4章は難民本位の視点の重要性を指摘し、難民研究の課題と広がりについて述べてみた。
 難民の問題は、関係・関連の事象や事柄が多岐にわたり、理解には深く広い知識が必要とされる。本書では理解が困難で複雑な内容をかみくだき、できるだけ端的に言い表すことに努めた。また、実情が理解いただけるよう、主たる論点を項目ごとに分けている。

著者プロフィール

小泉 康一  (コイズミ コウイチ)  (

大東文化大学名誉教授。専攻、難民・強制移動研究。1973年東京外国語大学卒業、1977年同大学院修士課程修了。その後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)タイ駐在プログラム・オフィサー、英オックスフォード大学難民研究所客員研究員、スイス・ジュネーヴ大学国際関係高等研究所客員研究員、大東文化大学国際関係学部教授などを経て、同大学名誉教授。著書に『彷徨するグローバル難民政策――「人道主義」の政治と倫理』(日本評論社)、『変貌する「難民」と崩壊する国際人道制度――21世紀における難民・強制移動研究の分析枠組み』(ナカニシヤ出版)ほか。編著に『「難民」をどう捉えるか――難民・強制移動研究の理論と方法』(慶應義塾大学出版会)ほか、がある。

上記内容は本書刊行時のものです。