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調査報道記者 日野 行介(著) - 明石書店
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調査報道記者 (チョウサホウドウキシャ) 国策の闇を暴く仕事 (コクサクノヤミヲアバクシゴト)

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発行:明石書店
四六判
320ページ
上製
価格 2,000円+税
ISBN
978-4-7503-5420-0   COPY
ISBN 13
9784750354200   COPY
ISBN 10h
4-7503-5420-1   COPY
ISBN 10
4750354201   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2022年7月7日
書店発売日
登録日
2022年5月20日
最終更新日
2022年7月1日
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紹介

原発事故後、数多くのスクープを通じて隠蔽国家・日本の正体を暴き続けた職業ジャーナリストの、狂気と執念。陰湿な権力に対峙し民主主義を守るために報道してきた事例と方法論を、傍観者でありたくない全ての人におくる。10年をかけた原発戦記の集大成。

目次

はじめに
 調査報道とは何か
 国策とジャーナリズム
 国策のフクシマ処理を追う

第1章 「秘密会」で被曝の証拠隠滅――福島の県民健康管理調査
 有識者会議の「秘密会」を報道
 隠されたテーゼは「被曝の証拠隠滅」
 「甲状腺検査」の真の目的は?

第2章 年間二〇ミリシーベルトに引き上げられた避難基準
 復興庁幹部の「暴言ツイッター」
 被曝を低く見せる個人線量計
 経産官僚が「チェルノブイリ法」否定で暗躍

第3章 避難者の住まいを奪う「棄民政策」
 「復興の加速化」の正体は「避難の早期終了」
 孤立無援の知事選
 彼女たちは間違っていない
 「みなし仮設」からの退去を促す国と福島県
 東電への家賃求償には及び腰
 ついに打ち切りを発表
 復興公営住宅の本当の役割は
 副復興相「自主避難は支援しない約束だった」

第4章 放射能汚染を不可視化せよ――除染の真実
 被曝低減策の中心となった「除染」
 「御用学者」のつぶやき
 除染先進地・伊達市のウソを暴く
 「短期保管」の虚構
 汚染土再利用は「ただの廃棄」
 再利用基準緩和の密議を暴く
 中間貯蔵施設と辛酸

第5章 新生を装った原発規制
 規制委の「独立性」と「透明性」は真実か
 密室で委員長が話したこと
 火山学者の憤慨
 関電原発の火山灰問題
 規制委に従わなかった関電
 バックフィット命令
 「透明性」をアピールしてきた規制委
 「廃棄済み」文書が一転開示
 更田委員長がウソ連発
 フクシマ以前と変わらない安全規制

第6章 「絵に描いた餅」の避難計画
 福島第一原発事故と避難計画
 九四万人の避難計画
 「一人二平方メートル」で収容人数を算定
 茨城県担当者のウソ
 判明した二回の避難所面積調査
 茨城県は問題を放置?
 不開示の資料
 「避難所不足」を認める
 茨城県の激しい抵抗
 過大算定に「先祖返り」も
 「絵に描いた餅」を国も黙認

第7章 結論しか発表しない日本型の「行政不開示システム」
 役所の意思決定過程は「ブラックボックス」
 表の会議と裏の会議の違い
 検討段階の選択肢は公開しない
 「結論ありき」を正当化する根拠作り
 「温情的スローガン」の陰に隠された「冷酷なテーゼ」
 日本型行政の「情報不開示システム」
 意思決定過程の解明には調査報道が不可欠
 民主主義の基盤となる二つの制度
 情報公開制度を報道利用すべき
 公文書管理の焦点は意思決定過程
 公文書ガイドライン改定後も続く恣意的な運用

第8章 記録と聞き取りで意思決定過程を解明
 意思決定過程を解明する手順
 公表資料の網羅で意思決定過程の不明点を特定
 非公開の調査や会議の資料を情報公開請求
 隠蔽したい範囲を特定
 秘密資料は「トロイの木馬」
 三層の資料を基に意思決定過程を解明
 役所の担当者への問い合わせ取材
 信頼できる専門家をアドバイザーに
 入手資料から「事務方キーマン」を選定
 「事務方キーマン」への取材は直接面会で
 事前に質問案と原稿まで作成
 良好な関係構築ではなく説明責任を追及する姿勢で
 「突破口」となった聞き取り取材

第9章 「国策のテーゼ」を伝える
 隠された「国策のテーゼ」を言語化
 「国策のテーゼ」が真実と示すファクトをニュースに
 ニュースの連発でストーリーの輪郭を描く
 「廃棄」「黒塗り」……恣意的な隠蔽もニュースに
 調査報道のプロセスを「ストーリー」に
 記者が探偵となるミステリー

おわりに――調査報道に関する一考察

 註
 参考文献

前書きなど

はじめに

 (…前略…)

国策のフクシマ処理を追う

 二〇一一年三月一一日、東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、広く国民に流布されていた「原発安全神話」を破綻に追いやり、安全安心を前提に行ってきた原発推進の国策を虚構と断じた。
 事故を引き起こした大津波は前から懸念されていたにもかかわらず、東電は対策工事を先延ばしにしたまま運転を継続。規制当局も黙認していた。事故が起きない前提だったため、周辺住民の避難計画などないに等しい。病弱な高齢者の死亡が相次ぐなど避難は混乱を極めた。
 政府は強制的な退去を命じる避難指示区域を拡大していき、その範囲は福島県沿岸部を中心に計一二市町村に及んだ。避難指示区域から逃れた人々は「強制避難者」と呼ばれており、その数は約一五万人に上った。主に福島県内の区域外にあたるいわき市や福島市、会津若松市などで避難生活を送ることになった。
 だが、放射能は区域外にも拡散した。被曝による健康被害を懸念し、自らの判断で山形や新潟、関東地方、そして遠く関西や九州に逃れる人々も相次いだ。避難指示区域外から遠方に避難した人々は「自主避難者」と呼ばれる。最も多い時期は一〇万人を超えていたと考えられるが、正確な人数は把握されていない。賠償は避難指示と連動しているため、自主避難者にはわずかな一時金しかない。役所がアパートやマンション、公営住宅の空き部屋を借り上げて避難者に提供した「みなし仮設住宅」がほぼ唯一の公的な支援だった。
 事故発生一カ月後、政府は「緊急事態」を理由に避難指示基準を年間一ミリシーベルトから年間二〇ミリシーベルトに引き上げた。その後は避難指示区域を拡大せず、放射能がたまった地表面を剥ぎ取る「除染」を被曝対策としてアピールし始めた。そして仮置場に積み上げられていた汚染土は二〇一五年三月以降、福島第一原発を囲むように作られた「中間貯蔵施設」に運び込まれていった。汚染を完全に消すことができない一方、事故による被曝や汚染を可視化する存在は次々と消されていく。
 中間貯蔵施設に運び込まれた汚染土は三〇年後、県外のどこかで最終処分されることになっているが、その約束を信じている人はほとんどいない。なぜならば、中間貯蔵施設の役割は汚染の不可視化であり、既にその目的は達せられているからだ。
 大惨事は原発に囚われた日本社会を解放する好機となるかに思われた。だが、懺悔の時間はあっという間に終わった。野田佳彦首相が二〇一一年一二月、事故直後の緊急事態に区切りを付ける「収束宣言」を出すと、事故以前への回帰を目指すかのように国策は再び動き出した。二〇一二年一二月に民主党から自民・公明に政権が戻ると、「復興の加速化」のスローガンの下、さらに国策復権が進んでいくことになる。
 その柱となったのは、事故に伴う被災者政策の幕引きと、原発再稼働を可能にする安全規制の模様替えだった。放射線が五感で認知できないのを良いことに事故の不可視化を進めることによって、被害を一方的に矮小化し、安全規制のハードルを緩和することで再稼働を容易にしていった。
 原発事故の被害をめぐっては、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(一九八六年)による住民の健康被害として、国際機関も唯一認めた小児甲状腺がん患者の急増など、放射線被曝による健康被害の有無に最大の関心が寄せられてきた。一方で、役所が強引に進める被災者政策と、それに対する国民の反発といった社会的な紛争は、原発事故をめぐる議論の周縁であり続けた。国民の無関心、あるいは関心のズレを良いことに、役所は密かに「国策」を再興し、強引に進めていった。こうして今振り返ると改めて痛感する。役所は原発事故と正面から向き合ってなどいない。国民の目を欺くのに躍起になっていただけなのだと。
 本書は、「原発」をフィールドに続けてきた調査報道の実例を題材として、調査報道の考え方や方法論を抽出するとともに、その仕事の意義を再構築するのが狙いである。報道を職業とする人や、報道を志す人のみならず、目の前で進む強権的な政治に対して傍観者でありたくないと考える人にも読んでもらえればありがたい。
 第1~6章では一〇年間にわたって続けてきた原発事故の被災者政策と、原発再稼働の裏を暴く調査報道の六事例を紹介する。第7章以降は事例の横断的分析を通じて得られた調査報道の考え方と方法論を提示していきたい。なお登場人物の肩書きは、取材当時のものを用いている。

著者プロフィール

日野 行介  (ヒノ コウスケ)  (

ジャーナリスト・作家。1975年生まれ。元毎日新聞記者。社会部や特別報道部で福島第一原発事故の被災者政策や、原発再稼働をめぐる安全規制や避難計画の実相を暴く調査報道に従事。著書に『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書)、『除染と国家――21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)など。

上記内容は本書刊行時のものです。