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ボスニア・ヘルツェゴヴィナを知るための60章
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年6月15日
- 書店発売日
- 2019年6月15日
- 登録日
- 2019年6月7日
- 最終更新日
- 2019年6月19日
紹介
旧ユーゴ諸国の中で特に内戦のイメージが強い地域だが、かつてはユーゴのスローガン「友愛と統一」を体現するかのような、異なる民族・宗教・文化が混在する多様性に満ちた共和国だった。紛争を乗り越え、新たな共存のあり方の摸索を続ける国の魅力を活写。
目次
はじめに
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ基礎データ
Ⅰ ボスニア・ヘルツェゴヴィナという国
第1章 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ――特殊な地域
第2章 「ユーゴスラヴィアの縮図」ボスニア――多民族、多文化の共存と対立
第3章 自然環境――山、川、そして海
第4章 国のシンボル――国旗、国章、国歌
【コラム1】分断されるシンボル――2種類のマルク紙幣
Ⅱ 歴史
第5章 中世のボスニア――激動の時代
【コラム2】ステチャク
第6章 オスマン帝国時代――異文化混淆を自文化とした緩やかな生活の営み
【コラム3】メフメト・パシャ・ソコロヴィチ――400年先を見た国際人
第7章 ハプスブルク帝国の統治――占領から併合へ
第8章 サラエヴォ事件と第一次世界大戦――プリンツィプ評価の変遷
第9章 戦間期のボスニア――ムスリム政党の実利追求
第10章 第二次世界大戦とパルチザン戦争――内戦の舞台となったボスニア
第11章 社会主義期のボスニア――多民族の共和国
第12章 連邦解体とボスニア紛争――秩序の崩壊、民族に基づく再編成
第13章 ボスニア紛争における暴力――民族浄化とジェノサイド、性暴力
第14章 紛争後のボスニア――進まない統一への歩み
Ⅲ 多様な地域、多様な人々
第15章 サラエヴォ――多様性と寛容の都市
第16章 モスタルとスタリ・モスト――都市のシンボルとしての橋
第17章 川と緑の街、バニャ・ルカ――居心地の良い土地を求めて
第18章 ボスニア・クライナ――ボスニア西部の「荒れる辺境」
【コラム4】ヤイツェ――革命の聖地の昔と今
第19章 東部ボスニア――その多様性と波乱の歴史
第20章 ヴィシェグラード――『ドリナの橋』とアンドリッチ
第21章 ヘルツェゴヴィナ――その歴史と地理
【コラム5】ブルチュコ
第22章 構成三民族――進む相互の分断
第23章 マイノリティ――「ユーゴスラヴィア人」、ロマ、ユダヤ人
第24章 民族間関係――「その他の人々」
第25章 ボスニアの海――ネウムとペリェシャツ橋
Ⅳ 政治・経済・国際関係
第26章 政治の概観――民族間バランスと民族的権利の保障のための政治制度
第27章 デイトン体制をめぐって――民主国家建設を阻む要因
第28章 「第三エンティティ」問題――クロアチア人の自治要求
第29章 国際社会とボスニア――上級代表とその権限
第30章 経済の概観――これからの成長に向けて
【コラム6】アグロコメルツとフィクレト・アブディチ――地方ボス支配
第31章 観光業――活かしきれないポテンシャル
第32章 国際関係――バルカン諸国との微妙な関係
第33章 EU統合の道――ボスニアとEUとの関わり
第34章 戦争犯罪人を裁く――旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)とボスニア
【コラム7】スレブレニツァ今昔
第35章 環境問題――サラエヴォのスモッグ
【コラム8】ボスニア・ヘルツェゴヴィナとの橋渡し役30年
Ⅴ 社会・生活
第36章 宗教の概要――「ボスニア的なるもの」は存在するか
【コラム9】ボゴミルをめぐって
第37章 修道生活――修道組織の過去と現在
【コラム10】メジュゴーリェの「奇蹟」
第38章 饒舌な食文化――ボスニア鍋を囲んで
第39章 メディア――公共「政府広報」対「中立」民間放送
第40章 教育――民族による分断を超えられるか
第41章 命がけで笑い、笑いがたましいを救う――ボスニアの人々とユーモア
第42章 移民・難民とディアスポラ――世界に広がるボスニア社会
第43章 『サラエボの花』たち――ボスニア・ヘルツェゴヴィナの心理社会的支援について
第44章 2014年「ボスニアの春」――格差社会への不満、民族主義への異議
第45章 ナショナリズムに抗する人々――ボスニアの市民運動の成果と課題
Ⅵ 文化
第46章 言語――三つの言語? 一つの言語?
第47章 ボスニア・ヘルツェゴヴィナと文学①――中世文学から近代文学
第48章 ボスニア・ヘルツェゴヴィナと文学②――20世紀以降の文学
第49章 ボスニア映画――サラエヴォの銃弾からボスニア紛争まで
【コラム11】『ヴァルテルはサラエヴォを守る』――パルチザン映画とボスニア
第50章 近代美術――よそ者との関わり合いから生まれる美術
第51章 建築・土木――色濃く残るオスマンの痕跡
【コラム12】「スポメニク」の世界――巨大なパルチザン記念碑の今
第52章 伝統音楽セヴダリンカ――古の都市の音風景
第53章 ポピュラー音楽――ユーゴスラヴィア・ロックの中心
第54章 ボスニアのニュー・プリミティヴ――ユーモアの中の批判精神
第55章 サッカー――対立の触媒、和解の契機
【コラム13】その他のスポーツ
第56章 サラエヴォ五輪とその遺産――「1984」をめぐる光と影
Ⅷ 日本との関係
第57章 ヤドランカ――「私たち」の宝になったバルカンの歌姫
第58章 オシムと日本サッカー――代表通訳の目から見た「恩人」の背中
第59章 JICAによる支援――国際協力の現場から
第60章 経済交流――日本企業の関心を集め始める
【コラム14】植民地ボスニアと植民地台湾
【コラム15】サラエヴォ事件から100年、冬季オリンピックから30年
おわりに
ボスニア・ヘルツェゴヴィナについてさらに知りたい人のための文献案内
前書きなど
はじめに
ボスニア・ヘルツェゴヴィナは旧ユーゴスラヴィアの縮図であった。多民族、多宗教、多文化が共存する共和国で、社会主義ユーゴスラヴィアのスローガン「友愛と統一」を最も体現する地域だったからである。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの多様性を保障する基礎は言語の共通性(セルビア・クロアチア語)にあったと言える。言語の共通性をもちながら、相互の紛争が始まってしまうと、取り返しのつかない状況が生み出された。そうした状況は、現在もなお続いている。
私たちがボスニア・ヘルツェゴヴィナを見るとき、どうしても紛争地域のイメージがつきまとってしまう。しかし、本書の歴史、社会、文化の各章を読んでくださると、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの多様な社会のあり方や豊かな文化を理解することができると思う。紛争という側面だけに目をとらわれるのではなく、ヨーロッパでもまれな興味深い地理的・歴史的な環境のもとに置かれたこの地域の深層に入り込んでほしいと願っている。アンドリッチの小説を読んだり、ベルベルの絵を見たり、クストリツァの初期の映画を観たり、ヤドランカの歌を聴いたりしながら、サラエヴォの町の景観を思い描いてほしい。現地に足を延ばして自分の目でボスニアを見ることができれば、それに越したことはない。
(…後略…)
追記
【執筆者一覧】
阿部俊哉(あべ・としや)
独立行政法人国際協力機構(JICA)パレスチナ事務所長
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)勤務、バルカン事務所長等を経て現職。
専門:国際政治学、開発援助、中東、バルカン
主な著作:『パレスチナ――紛争と最終的地位問題の歴史』(ミネルヴァ書房、2004年)、『セルビアを知るための60章』(共著、明石書店、2015年)。
石田信一(いしだ・しんいち)
跡見学園女子大学文学部教授
専門:東欧地域研究、旧ユーゴスラヴィア・クロアチア近現代史
主な著作:「クロアチア共和国」(月村太郎編『解体後のユーゴスラヴィア』晃洋書房、2017年)、『クロアチアを知るための60章』(共編著、明石書店、2013年)、『ダルマチアにおける国民統合過程の研究』(刀水書房、2004年)。
上畑史(うえはた・ふみ)
日本学術振興会特別研究員PD(国立民族学博物館)
専門:ユーゴスラヴィア・セルビアの音楽史・文化史・民俗音楽研究
主な著作:「セルビアのポピュラー音楽『ターボフォーク』の発展と音楽産業の展開」(『フィロカリア』35号、2018年)、「クラシック音楽と大衆音楽――オリエントの受容と拒絶」(『セルビアを知るための60章』明石書店、2015年)、「セルビアにおけるロマのブラス――民俗文化からの逸脱」(『民族藝術』27号、2011年)。
江川ひかり(えがわ・ひかり)
明治大学文学部教授
専門:オスマン帝国史
主な著作:「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ研究案内」(『明大アジア史論集』第20号記念号、2016年)、『世紀末イスタンブルの演劇空間――都市社会史の視点から』(共著、白帝社、2015年)、「タンズィマート改革期のボスニア・ヘルツェゴヴィナ」(『岩波講座世界歴史21』岩波書店、1998年)。
遠藤嘉広(えんどう・よしひろ)
愛知教育大学等非常勤講師
専門:ユーゴスラヴィア現代史
主な著作:「ユーゴスラヴィア解体と人民軍――1980年代後半以降の国内政治の関わりを中心に」(『年報地域文化研究』12号、2008年)、「教科書の中の地域史――アルバニアの事例」(翻訳、柴宜弘編『バルカン史と歴史教育』明石書店、2008年)、“Some Characteristics of the Research on the War in Croatia in Croatian and Serbian Literature,” in Zarko Lazarevic, Nobuhiro Shiba, Kenta Suzuki (eds.), The 20th century through historiographies and textbooks: chapters from Japan, East Asia, Slovenia and Southeast Europe, Ljubljana, 2018。
大塚真彦(おおつか・まさひこ)
通訳、フリージャーナリスト、YouTube「セルビアちゃんねる」共同運営者。1989年よりベオグラード在住。
奥彩子(おく・あやこ)
共立女子大学文芸学部教授
専門:ユーゴスラヴィア文学
主な著作:『東欧地域研究の現在』(共編著、山川出版社、2012年)、『境界の作家ダニロ・キシュ』(松籟社、2010年)、ダニロ・キシュ『砂時計』(翻訳、松籟社、2007年)。
長有紀枝(おさ・ゆきえ)
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科・同社会学部教授、特定非営利活動法人難民を助ける会理事長
専門:国際人道法、移行期正義、ジェノサイド予防
主な著作:『入門人間の安全保障――恐怖と欠乏からの自由を求めて』(中央公論新社、2012年)、『スレブレニツァ――あるジェノサイドをめぐる考察』(東信堂、2009年)。ホームページ:https://osayukie.com「人道問題の研究者が明け暮れに考えたこと」
角田光代(かくた・みつよ)
作家
主な著作:『八日目の蝉』(中公文庫、2011年)、『対岸の彼女』(文春文庫、2007年)など。
唐澤晃一(からさわ・こういち)
香川大学教育学部准教授
専門:中世バルカン半島史、ビザンツと南スラヴ人の交流史
主な著作:『セルビアを知るための60章』(共著、明石書店、2015年)、『中世後期のセルビアとボスニアにおける君主と社会――王冠と政治集会』(刀水書房、2013年)、S・ノヴァコヴィチ『セロ――中世セルビアの村と家』(越村勲との共訳、刀水書房、2003年)。
齋藤厚(さいとう・あつし)
外務省在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本国大使館一等書記官
専門:政治社会学、言語社会学、バルカン地域研究
主な著作:「スロヴェニア共和国」(月村太郎編『解体後のユーゴスラヴィア』晃洋書房、2017年)、『クロアチアを知るための60章』(共著、明石書店、2013年)、「ボスニア語の形成」(『スラヴ研究』第48号、2001年)。
柴宜弘(しば・のぶひろ)※編著者紹介を参照。
清水美穂(しみず・みほ)
岐阜県関市迫間不動の門前茶屋を経営。以前からかかわってきた旧ユーゴスラヴィア、とりわけボスニアのよき伴走者でありたいと願っている。
鈴木健太(すずき・けんた)
東京外国語大学大学院総合国際学研究院特別研究員
専門:ユーゴスラヴィア現代史、東欧・バルカン地域研究
主な著作:『アイラブユーゴ』(全3巻、共著、社会評論社、2014~15年)、「結合と分離の力学――社会主義ユーゴスラヴィアにおけるナショナリズム」(柴宜弘・木村真・奥彩子編『東欧地域研究の現在』山川出版社、2012年)、「ユーゴスラヴィア解体期のセルビア共和国――政治勢力の差異化とナショナリズム」(百瀬亮司編『旧ユーゴ研究の最前線』溪水社、2012年)。
千田善(ちだ・ぜん)
国際ジャーナリスト。元サッカー日本代表オシム監督通訳、立教大学等非常勤講師
主な著作:『オシムのトレーニング』(池田書店、2012年)、『オシムの伝言』(みすず書房、2009年)、『ユーゴ紛争はなぜ長期化したか』(勁草書房、1999年)、『ユーゴ紛争』(講談社現代新書、1993年)、『ぼくたちは戦場で育ったサラエボ 1992-1995』(監修、集英社インターナショナル、2015年)、『スロヴェニア』『クロアチア』(翻訳、ともに白水社クセジュ文庫、2000年)。
長島大輔(ながしま・だいすけ)
東京経済大学・東京都市大学非常勤講師
専門:ユーゴスラヴィア地域研究(ナショナリズムと宗教)
主な著作:「人口調査の政治性――ボスニア・ヘルツェゴヴィナのムスリム人をめぐって」(柴宜弘・木村真・奥彩子編『東欧地域研究の現在』山川出版社、2012年)、「ボスニア社会におけるイスラーム――1945年から1970年代まで」(百瀬亮司編『旧ユーゴ研究の最前線』溪水社、2012年)。
中島由美(なかじま・ゆみ)
一橋大学名誉教授
専門:言語学・スラヴ語学
主な著作:『ニューエクスプレス セルビア語・クロアチア語』(共著、白水社、2010年)、『バルカンをフィールドワークする』(大修館書店、1997年)。
西浜滋彦(にしはま・しげひこ)
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ外国投資促進庁駐日代表
主な著作:「こちらボスニア・ヘルツェゴヴィナ国営放送」(『世界』〔岩波書店〕にて1997年1月号から12回連載)。
橋本敬市(はしもと・けいいち)
独立行政法人国際協力機構(JICA)国際協力専門員
新聞記者、在オーストリア日本大使館専門調査員(ボスニア政務担当)、上級代表事務所(OHR)政治アドバイザーを経て現職。
主な著作:『平和構築における治安分野改革』(共著、国際書院、2012年)、『紛争と復興支援――平和構築に向けた国際社会の対応』(共著、有斐閣、2004年)。
林佳世子(はやし・かよこ)
東京外国語大学教授
専門:オスマン朝史、西アジア史
主な著作:『オスマン帝国――500年の平和』(講談社学術文庫、2016年)、『オスマン帝国の時代』(山川出版社、1997年)、『イスラーム――書物の歴史』(共編著、名古屋大学出版会、2014年)、『イスラーム世界研究ハンドブック』(共編著、名古屋大学出版会、2008年)。
平野共余子(ひらの・きょうこ)
明治学院大学大学院非常勤講師
専門:映画史
主な著作:『日本の映画史――10のテーマ』(くろしお出版、2014年)、『天皇と接吻――アメリカ占領下の日本映画検閲』(草思社、1998年)、Mr. Smith Goes To Tokyo: Japanese Cinema Under the American Occupation, 1945-1952, Smithsonian Institution Press, 1992.
松永知恵子(まつなが・ちえこ)
NPO法人ACC・希望理事
1997年より認定NPO法人難民を助ける会で、また2001年からはNPO法人ACC・希望で、旧ユーゴスラヴィア圏において心理社会的支援活動を実施し、現在に至る。
村上亮(むらかみ・りょう)
福山大学人間文化学部専任講師
専門:近代ハプスブルク帝国史
主な著作:『ハプスブルクの「植民地」統治――ボスニア支配にみる王朝帝国の諸相』(多賀出版、2017年)、「第一次世界大戦をめぐる開戦責任問題の現在――クリストファー・クラーク『夢遊病者たち』によせて」(『ゲシヒテ』2019年)、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合問題の再検討――共通財務相I・ブリアーンによる二つの『建白書』を手がかりに」(『史林』2016年)。
百瀬亮司(ももせ・りょうじ)
早稲田大学招聘研究員
専門:バルカン地域研究、ユーゴスラヴィア近現代史
主な著作:「クロアチア多民族社会におけるセルビア人の自決権――領域的自治の限界と文化的自治のジレンマ」(山本明代、パプ・ノルベルト編『移動がつくる東中欧・バルカン史』刀水書房、2017年)、「ヴコヴァルの反キリル文字運動と「記憶」の双極化」(『ことばと社会』2014年)、「1980年代セルビアにおける歴史認識とコソヴォ――イリュリア人起源論をめぐって」(『歴史研究』2013年)。
山崎佳夏子(やまさき・かなこ)
ベオグラード大学哲学部美術史学科博士課程
専門:近代美術史
主な著作:「近代美術――19世紀末から第二次世界大戦後まで」(『スロヴェニアを知るための60章』明石書店、2017年)。
山崎信一(やまざき・しんいち)※編著者紹介を参照。
山崎日出男(やまざき・ひでお)
1979年総理府(現内閣府)入府、1984年ロンドン経済大学(L.S.E.)に留学、1990~93年在米日本国大使館一等書記官(議会担当)、その後総務省官房秘書課長、内閣官房内閣審議官などを歴任し、2011~15年在ボスニア・ヘルツェゴヴィナ日本国大使、現在は昭和女子大学監事。
上記内容は本書刊行時のものです。