「売れないかもしれない本」をつくるワケ
アスパラ社は2021年7月7日に誕生、社名はアスパラガスからとりました。筆先のような穂先をもつアスパラガスは大地から天に向かってまっすぐに伸びていて、自然界の力強さを感じます。そのような力強い作品が生まれていったらいいなと思い、アスパラ社と命名しました。
私は料理教室も主宰しています。子どものころから料理を作ることが好きでしたが、同時に文章を書くことにも興味がありました。料理することと文章を書くことは似ているのです。キュウリやトマトをただ皿に並べても味覚や視覚は刺激されません。一つひとつの素材の個性を大事にしながらどのように料理したら食べ手は感動するのだろうか、という料理の作業は文章を書くことと同じだと思うのです。
社会人になってから料理を習い、しばらくしてから小説教室に通いました。数年後、料理教室をはじめました。それを機に小説教室をやめようと思ったのですが、先生が本づくりの仕事をやってみないかと誘ってくれました。料理教室なんて儲からないだろうから副業にしたらいいと思ったそうです。先生は山梨で出版社をしていたので、そのお手伝いをさせていただけることになりました。そんなこんなで二十数年、料理教室の主宰と並行して出版社のお手伝いをしてきましたが、2021年に独立をさせていただきました。
山梨の小さな出版社に持ち込まれる原稿は郷土史に関するものが非常に多く、著者もご高齢で初めて本を出される方が多いです。ですが、それらの作品からは、よくぞそこまで調べ上げたという著者の執念を感じます。文章もぎこちないかもしれないし、興味関心を持つ人は少ないかもしれない。たくさんは売れないことも分かっている。でも後世に残しておかなければ消えてなくなってしまう、そんな思いで本をつくっています。
今は「甲斐古代豪族(仮題)」の本をつくっています。著者は八十三歳です。博物館を退職後、山梨の特産品・シャインマスカットを作りながら書き上げた作品です。縄文、弥生時代の資料、古事記、日本書紀、地元の古文書、古墳の発掘資料などをもとに甲斐の豪族がどういう人物であったのかを推察しています。ブドウ棚の下で粒をそろえるためにひと房ずつ剪定をし、その傍ら鉛筆で文字を起こしていく。お宅に伺うと、首に巻いた手拭いで汗を拭きながら書斎に案内をしてくれます。書斎には膨大な資料が山に積まれていて、それを見ると「売れないかもしれない本」だけど作らせていただきたいと大いに心は動かされます。
弊社では誤字脱字のチェックだけではなく、文章のご提案などもさせていただいていますし、書き直しをお願いすることもあります。従業員のいない出版社であり、料理教室の仕事もあるから仕事はスイスイとは進みません。ご高齢の著者からは、「早くしないと死んでしまう」とおしりをたたかれながら仕事をしています。けれども、高齢だから早く……、という著者の方々の仕事はていねいで、その根気には負けそうです。それは文章にも表れています。何十年もかけて書き続けた原稿は早書きのものとは比べものにはならないほどの熱量があります。その熱量が「売れないかもしれない本」をつくるエネルギーとなっています。
抱負は、山梨の郷土史に限らずいろいろな分野の本を出していきたいこと、若手の著者を掘り起こしていきたいことです。私の好きな作家は松本清張です。作品はしっかりした文章があってこそ、と思っていて、松本清張の文章にあこがれています。小説教室に何年通おうがあんな文章はとうてい書けそうにありませんが、自身の本もいつか出版して「売れないかもしれない本」の仲間入りを果たそうと夢見ています。
○アスパラ社 新刊
『ドキュメント 富士山の御師三浦吉郷の生涯―将軍家御祈願所御師の誇りと悲哀―付 中村星湖『少年行』モデル考』
著者;中村章彦(1941年生)
三浦家に残る古文書を調べ上げた著者は、三浦家が徳川将軍家とかかわりをもった御師であったことを突き止め、その後の生涯を中村星湖が『少年行』の作品に書き上げたのであろうと推察をした。
『ハカセのこうしゃっぺえ話』
山本博士(1965年生)
ヒーローはただかっこいいだけじゃない。ご当地ヒーローサクライザーの活動記録。仮面の下の熱き物語。サクライザースーツを開発した山本博士だから今伝えたいコト。ファンから学んだ生命の尊さ。災害と心の復興とヒーローの役割。もっと伝われ、世界自閉症啓発デー。