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アイヌ語地名の研究 3
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 1995年6月
- 書店発売日
- 1995年6月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
手本となる科学研究の道を歩み
オノマスティックスの名にふさわしい(業績)
柴田 武
アイヌ語地名のすばらしい研究が四巻の著作集にまとまった。いままでのアイヌ語地名の研究は、しばしば好事家の手によって、日本全国の地名をアイヌ語で説こうという眉つば物が少なかった。しかし、山田秀三氏のアイヌ語地名の研究は、それらとは全く別のものである。一口に言って、オノマスティックス(地名・人名研究)の名にふさわしい、科学的なものである。
この著作集に収められている『東北と北海道のアイヌ語地名考―山河を愛する人々に捧ぐ』(1958年)という著書に寄せられた金田一京助氏の序によると、「前仙台鉱山監督局長山田秀三学士……」とある。山田氏はおそらく公務のために東北地方の山河を足で歩いているうちに、何とも不思議な地名の存在に気づき、これはアイヌ語ではないかと疑い出したことから研究が始まった。
これは、およそ科学的な研究にとって実にまともな出発点であった。ことがらの観察から疑問がわき、それを解決するために仮説をたて、現地に足を運んで地形とつき合わせると、という、お手本のような科学研究の道を歩んでおられる。鉱山学でも修められたのであろう。その自然科学の考え方が身についていたのが成功のもとだと思う。
山田氏の地名研究の方法は二つある。一つは、アイヌ語と思われる同形・類形の地名を集めて、その地名の場所へ自ら行って、実際の地形と照らし合わせて、その地名のコトバとしての意味を説明するというものである。もう一つは、同じ地名がどの地域に分布しているか、地理的分布図を作り、それからアイヌ語族の古い居住地を推定するというものである。第二の方法によって、東北地方の北半分は確かにアイヌ語を話す人々の居住地であることがわかった。山田氏はさらに東北地方南半分、白河関よりも南にもアイヌ語地名の存在を期待している。しかし、それについては書くことを控えている。わかったことだけしか書かない、というこの態度も真の科学者のものである。
ところで、著者がとりあげているアイヌ語地名はすでに地図の上に書かれたもの、あるいは文献で見出せるものに限られているようである。生きているアイヌ語話者に、あの山は何と言うか、この川は何と言うかと尋ねるようなフィールド・ワークの方法によって探し出された地名はあまりないようである。著者が研究を始めた40年前にすでにそういうことのできるアイヌ語話者が見つからなかったからであろう。(中略) ↓へ続く
(1983.7.11 日本読書新聞)
目次
第一部 東北地方のアイヌ語地名
東北と北海道のアイヌ語地名考
十三潟のアイヌ語系地名
下北の旅の記録
津軽半島の記藤
津軽の状村の記嶽
コンナイという地名
東北のアイヌ地名の旅
第二部 北海道南部のアイヌ語地名
北海道の旅と地名 函館一室蘭―札幌
登別、室蘭のアイヌ地名を尋ねて
前書きなど
(↑から続く)
山田氏はもともと地名研究のためにアイヌ語地名をとりあげたのではない。また、日本の古代文化を明らかにしようとしてアイヌ語地名にとりくんだのでもない。東北地方の不思議な地名に出会って、それを説くために、余暇の仕事として始められたことである。また、地名研究、古代史研究、言語学、民族学などの学問的、人脈的系列の外で仕事をして来られた。そのために、金田一京助、知里真志保というアイヌ語学の権威に対しても堂々と反論を展開している。ナイについても、知里の朝鮮語説を退けている。山田氏の研究が真に科学的な研究になりえたのはこういう環境が幸いしている。研究に、その文章にけれん味のないのもそのためである。
著作集に収められた著書や論文はいずれも特殊な出版社や小さな雑誌に発表されたものばかりである。「ぷやら新書」、「うとう」「深川市史」といったものに出た論文はもとのものに当たることなどはきわめて困難である。それがこうした一つの著作集としてまとまったことは、何としてもありがたいし、出版としても有意義なことだったと思う。
40年間の研究でとりあげられたアイヌ語地名はおびただしい数になろうが、そのうちの6,500ほどの地名が4巻の著作集に出て来て、それが第4巻に総索引としてまとまっているのは有益である。欲を言えば、逆引きも添えてあればと思う。ナイやペツのつく地名はこれではすぐに探せないからである。
自然科学を学んで、職を公務員に選んだ人が、好きで始めたことがりっぱに科学的研究として実を結んだ。人の一生の仕事として何ともすばらしいことではないか。
アイヌ語地名の研究は、北海道のアイヌ語が衰亡状態にあることから考えると、あまりにも遅く始まったが、それでも、その最後のチャンスがこういう形でとらえられた。
地名研究所から第2回地名研究賞がこの著作集全4巻に与えられたのは、当然すぎることであった。
上記内容は本書刊行時のものです。
