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三人の女
巻次:上
二〇世紀の春
原書: 세 여자 1
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年8月15日
- 書店発売日
- 2023年8月15日
- 登録日
- 2022年1月23日
- 最終更新日
- 2023年10月24日
紹介
韓国で4万部のベストセラー。
1920年代から50年代にかけての朝鮮独立運動・共産主義運動を女たちの視点から、女性作家が描き出す骨太の長編歴史小説を格調高い翻訳でお送りします。
植民地下の朝鮮で青春をともにした三人の女たち、許貞淑(ホ・ジョンスク)、朱世竹(チュ・セジュク)、高明子(コ・ミョンジャ)と、彼女たちの周辺の、朴憲永(パク・ホニョン)や呂運亨(ヨ・ウニョン)、金日成(キム・イルソン)など歴史に名を残した男たちがいきいきと描かれます。
戦時下のソウル、粛清の嵐吹き荒れる平壌、そして愛する娘が暮らすモスクワ――朝鮮共産主義運動史と生涯をともにし、それぞれの終着駅にたどり着いた三人の女たちの物語。
優れた文学作品にして東アジア近現代史、そしてフェミニズムの新たな必読書です。
佐藤優(作家・元外務省主任分析官)解説。
ソ連から持ち込まれた一枚の白黒写真。夏の日差しを受け、小川に足をひたしながらおしゃべりする三人の女――植民地朝鮮の「新女性」許貞淑、朱世竹、高明子は、共産主義運動に人生をかけ、世界をまたにかけて激動の時代を生ききった。
朝鮮共産主義運動史に埋もれた驚異の女性たちを女性作家があざやかによみがえらせた骨太の歴史小説!
目次
主な登場人物
日本の読者の皆さんへ
プロローグ 1991年ソウル
第1章 夫婦になって無産者階級の解放に生涯を捧げることを誓いますか …1920年 上海
第2章 手芸の時間にトルストイを読んでいました …1924年 京城
第3章 清料理店の共産党、新婚部屋の青年同盟 …1925年 京城
第4章 死の陰鬱な谷を越えるとき …1927年 京城
第5章 ついに革命の心臓に到着する …1928年 モスクワ
第6章 資本主義世界の終焉は遠くない …1929年 京城
第7章 一緒に暮らすしかない状況だった …1932年 上海、モスクワ
第8章 行くとて悲しむな、私の愛する韓半島よ …1935年 京城
第9章 ここがあなた方の終着駅だ …1936年 モスクワ、クズロルダ
10章 日本の兄弟たちよ、君の上官に銃口を向けよ …1938年 武漢、延安
上巻年表
前書きなど
日本の読者の皆さんへ
『三人の女』が日本の読者に会えることは、とても意義深いことです。『三人の女』は韓国現代史に実存した人物たちを扱っていますが、この小説の背景である一九二〇~一九五〇年代は韓国と日本、中国という極東三か国の運命が互いにからみあっていた時期です。日本はこの小説のもう一つの背景であり、日本の読者たちはこの小説を通して、日本の歴史に対する他者の視線に出会うことになるでしょう。そのような意味で、作者として一方では緊張し、また一方では興奮しています。
『三人の女』は、韓国の読者たちにとっても馴染みのない話でした。韓国は一九六〇年代から一九八〇年代まで軍事政権下で出版と表現の自由が抑圧され、理念でわかれて戦争までおこなった分断国家であるため、「反共」による思想統制が厳しく敷かれていました。その結果、韓国現代史における共産主義運動は、学問的な研究も自由にできないばかりか、芸術創作の対象にすることも難しい状況でした。韓国共産主義運動史で重要な役割を果たした『三人の女』の主人公たちは少数の人々にしか知られておらず、一般人は名前すら知りませんでした。『三人の女』は、いわば韓国史の隠された片側に光を当てる作品で、それは冷戦時代が終わった後だからこそ可能だったのです。
私は二〇〇四年頃にこの小説を構想したのですが、二〇一七年にやっと出版することができました。この小説を書き始めた後で二回、七年半にわたり公職に就いたため執筆を中断せざるをえなかったという事情もありますが、何よりもこの作品が膨大な歴史と人物を扱っているため、資料調査や歴史の勉強だけでなく、その時代と人々を理解するのに絶対的な時間が必要でした。
冷戦時代に徹底的な反共教育を受けた私自身にとっても、それはよく知らない歴史でした。私が大学に入学したのは朴正熙政権末期の一九七八年でしたが、大学街では「維新撤廃、独裁打倒」を叫ぶ反政府デモが繰り広げられ、私もデモ隊の末尾に連なりました。私の専攻はドイツ文学でしたが、キリスト教学生会というサークルで韓国史を学び、図書講読とセミナーを通して、高校の歴史の授業では学べなかった歴史に目覚めました。その時代に芽吹いた歴史への関心が本書を書く土台になっています。そして、この本を書くことによって、あの時代についてほとんど全面的に新しく知ったと言えます。一九二〇年代に一時的に現れて消えた「新女性」という名の「解放された女性たち」、分断以前に大陸を行き来していた革命家たちのことは、その存在自体が驚きでした。一九四五年の分断によって、朝鮮半島の南側は一つの島になり、その島で生まれた私は言うまでもなく陸路で国境を越えて外国に行ったことがありません。
『三人の女』には、実存した人物たちが実名で登場します。巻末の「作者あとがき」にも書いたように、登場人物に関する歴史記録に基づいて、隙間を想像力で埋め、歴史記録に反する想像力は自制しました。当時の記録から推し量り連想できる範囲内で文学的な想像力と歴史的な想像力を発動させたと言えます。
『三人の女』は、日本に強制占領された植民地時代を扱っているため日本人の悪役たちが登場しますが、古屋貞雄弁護士のような感動的なヒューマニストも登場します︒自由法曹団に所属する弁護士だった彼は一九二七年、朝鮮共産党事件で一〇一名の被疑者が裁判を受けることになったとき、労働農民党から派遣されて弁護団に参加しました。
『三人の女』は二〇〇四年に構想して一三年後に出版、さらに六年の歳月を経て日本語版に出会うことになりました。作家として改めて喜びを感じています。
日本の読者にとって、日本の歴史を外からの視点、しかも植民地支配を受けた韓国人の視点で見直すことが、居心地の悪さを越えて何らかの前向きな経験になることを期待してみたいと思いますこの本が韓国史の隠された片側を復元したように、日本で二重のフィルターによって隠されていた現代史のある部分を照らし出す役割ができたら、作家としてこれ以上光栄なことはないと思います。
翻訳をしてくださった梁澄子さんに感謝します。梁澄子さんは誠意を尽くして翻訳をしてくださり、当時の歴史的事実について記録が食い違ったり、日本での表記、または漢字表記が不確かな部分などについて一つ一つ筆者に確認を求めました。『三人の女』の日本語版を出版する勇気を出してくださったアジュマブックスの北原みのり代表に心から感謝いたします。
この本を手に取る読者のお一人お一人に、この紙面を借りて感謝を申し上げます。
二〇二三年六月 チョ・ソニ
版元から一言
「優れた歴史小説」佐藤優さんが解説で書かれたとおり、本書は読者の東アジア近現代史の理解度と、その歴史と地続きとなっている現代日本社会の解像度をグレードアップさせながら、文学的感動を与えてくれる名著です。
資本主義社会を生きる私たちに今必要な「教養としての共産主義運動史」を、格調高い翻訳をとおして身に着けられる優れた文学作品です。
本書はまた、男たちの歴史に埋もれた驚異の女性たちを発掘した小説でもあります。ベテラン女性ジャーナリストでもある作家による鋭い論評を交え、血肉のかよった女性運動史を学ぶことのできるフェミニズムの新たな必読書です。
上記内容は本書刊行時のものです。