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怪異をつくる
日本近世怪異文化史
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年3月1日
- 書店発売日
- 2020年3月26日
- 登録日
- 2020年1月27日
- 最終更新日
- 2020年3月27日
紹介
怪異はつくられた!?
「つくる」をキーワードに、江戸時代を生きた人びとと怪異のかかわりを歴史学から解き明かす書。
人がいなければ、怪異は怪異にはならない。では誰が何を「あやしい」と認定して怪異になったのか。つまり、怪異はどうつくられてきたのか。そこにある様々なありさまを、当時の「知」の体系に照らし描ききる。章立ては、近世の怪異をつくった第一人者、林羅山からはじまり、政治、本草学、語彙、民衆の怪異認識、化物絵、ウブメ、河童、大坂、古賀侗庵の全10章プラス補論3章。
全方向から怪異のあり方を突き詰める、これからの怪異学入門が遂に誕生。怪異ファン必携。
【ある物事を怪異だと認識するのは、人間です。たとえ石が宙に浮いた、山を越えるほどの大きな蛇がいた、夜の川辺で小豆を磨ぐような音がしたなどの出来事も、人がいなければ、人が認識しなければ怪異にはなりません。つまり、人がいて初めて怪異は成り立つのです。
こうした怪異に関わる人のいとなみを、本書では総じて「つくる」という言葉で表現してみたいと思います。
「つくる」いとなみは、多種多様です。怪異だと認識することも、当然「つくる」いとなみです。ある物事を誰がどのような理由で怪異だと決めたのか、その判断は、歴史性を帯びています。例えば、古代の律令国家では、国家つまり政権しか怪異の認定をすることができませんでした。もしも個人が勝手に「あれは怪異だ」と言いふらしてしまえば、その人は処罰を受けることが法で決められていたのです。誰(個人・共同体・国家など)がどのような理由で、特定の物事を怪異だと認識するのか、言い換えれば、誰が怪異を「つくる」のでしょうか。】......「序章」より
目次
序章
怪異をつくる
怪異とは
「つくる」いとなみ
[怪異を歴史学的に考える/怪異を記録した(つくった)意味/中世から近世へ/学問と怪異/表現される怪異]
本書の構成
第一章
林羅山
近世の怪異をつくった第一人者
はじめに
【一】林羅山と儒学における怪異
「子は、怪力乱神を語らず」─儒学における怪異
羅山が[怪異]を語る目的
[怪異]と結びつく世俗、そして仏教
【二】羅山の語る[怪異]
羅山の著した[怪異]
羅山の語る[怪異]と訓戒①──儒学の教化
羅山の語る[怪異]と訓戒②──仏教批判
【三】仏教側から見た羅山の[怪異]
『奇異雑談集』
『奇異雑談集』と羅山①──頭頂部に口がある男のはなし
『奇異雑談集』と羅山②──姑獲鳥
【四】後世への影響
出版されることの意義──出版による知の普及
文芸に与えた影響
学術・思想に与えた影響
おわりに
第二章
政治
政から見る怪異
はじめに
【一】政治性を持つ怪異
古代の恠異
中世の恠異
【二】近世の恠異
秀吉政権期の恠異
徳川政権と恠異
近世の朝廷と恠異
江戸の幕府と京都の朝廷の温度差
法度による恠異の統制
【三】近世の宗教と恠異
近世の寺社と恠異
吉田神道
キリシタンと流行神――恠異を語る人間を取締まる
【四】政治思想
天道思想と天譴論
天譴論の展開
天運論
西川如見の天運論
おわりに
補論一
フィクションとしての恠異
林羅山『本朝神社考』「僧正谷」を読み解く
はじめに
【一】『神社考』「僧正谷」について
【二】天狗の人攫い
【三】伊勢躍
①慶長九年(一六〇四)三月
②慶長一九年(一六一四)八月
③元和元年(一六一五)三月
④寛永元年(一六二四)二月
【四】大坂の陣にまつわる話の位置付け
おわりに
第三章
本草学
モノとしての怪異
はじめに
【一】林羅山
『本草綱目』の入手
『本草綱目』の怪異
和漢名対照辞典『多識編』
草稿本の思想──中国の朱子鬼神論と日本の怪異観
刊本の思想──理当心地神道
【二】貝原益軒(一六三〇~一七一四)
『多識編』の批判的継承
『大和本草』の妖獣
物理之学から見る[怪異]
【三】寺島良安(生没年未詳)
近世の本格的百科事典『和漢三才図会』
獣部怪類をめぐって
禽部山禽をめぐって
【四】小野蘭山(一七二九~一八一〇)
一八世紀以降の本草学の発展──全国物産調査という転機
『本草綱目啓蒙』
蘭山の『本草綱目』講義
『本草綱目草稿』
黒田斉清『本草啓蒙補遺』
おわりに
補論二
『日東本草図纂』
「怪説」巻から個性を見る
はじめに
【一】『日東本草図纂』について
編著者と編纂の経緯
構成と分類
【二】怪説をめぐって
巻之三の位置付け
怪異の理解
怪談集の利用
おわりに
第四章
語彙①
辞書に見る怪異
はじめに
【一】分類される妖怪・化物
節用集での分類
化生とは何か
妖怪と化物の関係
揺らぐ位置と意味
【二】固有名詞を持つ怪異の分類
ⅰ.鬼(おに・をに)
ⅱ.樹神(木魅 こだま)
ⅲ.河童(かはらう・かわらう)
ⅳ.天狗・魔・魔王・魔縁・天魔
ⅴ.魅(いえのかみ)・魎(いしのすだま)
ⅵ.ネコマタ
ⅶ.山の怪異
ⅷ.姑獲鳥
ⅸ.飛頭蛮・轆轤首
ⅹ.独特な分類①
ⅺ.独特な分類② 異形門
ⅻ.独特な分類③ 『本草綱目』
【三】節用集の怪異を考える視座
a ジェンダーの視角
b 附録
おわりに
第五章
語彙②
言葉の用法と新しい解釈
はじめに
【一】用いられる妖怪・化物
『太平記』の怪異
実害を及ぼす化物と予兆となる化物
「妖物」という表現
漢語表現への対応
「化生」であるという意識
生類の仕業という常識
中山三柳『飛鳥川』にみる物の奇怪
【二】古文辞学から見た怪異
荻生徂徠の古文辞学──言葉にこだわる儒者
『訳文筌蹄』に見る異・怪・妖
『論語』「子不語怪力乱神」をめぐって
虁の同定をめぐって
おわりに
第六章
民衆の怪異認識
はじめに
【一】恠異から怪異へ
政治的な恠異からの怪異の脱却
恠異と怪異が混在し拡散する近世
【二】怪異であるための条件
何を怪異と認識するのか──一五世紀の史料から
『奇異雑談集』の「奇異」とは
怪異であることの条件──神仏との関係性と負のイメージ
【三】経験論的怪異認識
『清水物語』の「ばけ物」「きどく」「ふしぎ」
『祇園物語』の「ふしぎ」「あやしみ」
山岡元隣の主張──世界に不思議なし、世界皆ふしぎなり
経験論的怪異認識とは
【四】唯心論的怪異認識
河内屋可正の唯心論的怪異認識
『性理字義』「妖由人興」
「妖由人興」の言説の広まり
唯心論的怪異認識の展開
【五】「妖怪的世界」と「妖怪革命」
通俗道徳と妖怪的世界──ひろたまさきの研究から
江戸の「妖怪革命」──香川雅信の研究から
おわりに
第七章
化物絵
描かれる怪異
はじめに
【一】化物絵のインフラ
子ども向き絵本の挿絵
図入り事典
絵巻と絵手本
【二】鳥山石燕の化物絵
鳥山石燕と化物絵
『画図百鬼夜行』の作成意図
絵入り事典と絵手本の系譜における石燕
知的遊戯としての化物絵
【三】源琦の化物絵
『妖怪絵巻』──円山派が描いた化物絵
『異魔話武可誌』
石燕との関係は
おわりに
第八章
ウブメ
歴史的産物としての怪異
はじめに
【一】ウブメとはなにか?
【二】ウブメという名
【三】出産で死んだ女性の変化
【四】夜の音声
【五】姑獲鳥
【六】ウブメ・コード―図像
産女
姑獲鳥
赤子
背景
炎
【七】民俗
おわりに
第九章
河童
人が怪異を記録するいとなみ
はじめに
【一】河童とはなにか?
辞書の類から──生類としての河童
化生して河童となる
【二】河童は水虎か?封か?─本草学をめぐって
林羅山の先駆的な同定
封か水虎かをめぐる主張
【三】河童を記す営為─本草学・儒学の視角から
①貝原益軒の思想
②新井白石の思想
③古賀侗庵の思想
【四】「名物」河童誕生
『日本山海名物図会』
豊後名物としての河童
おわりに
補論三
大坂
文化的な場と怪異
はじめに
【一】井原西鶴
井原西鶴と俳諧
西鶴の「ばけもの」へのまなざし
人はばけもの──『西鶴諸国はなし』序
西鶴の怪異譚
おそろしきは人間
『好色一代女』の視覚トリック
【二】都賀庭鐘と上田秋成
読本──中国白話小説を利用した新しい文芸ジャンル
都賀庭鐘とは
庭鐘の怪異観
上田秋成と『雨月物語』
『胆大小心録』の奇談
【三】懐徳堂
懐徳堂とは
五井蘭洲
中井竹山
中井履軒
山片蟠桃
並河寒泉と平野屋武兵衛
おわりに
第十章
古賀侗庵
江戸後期の[怪異]をつくった儒者
はじめに
【一】[怪異]を記す理由
侗庵の知のインフラ
[怪異]を記す理由──「叙事」の訓練
理由に対する疑問を考える
叙事を成立させるネットワーク──昌平黌という場
【二】侗庵の主張
政治論・道徳論
天変をめぐって
格致の一端
【三】[怪異]と世界認識
世界認識と窮理
[怪異]と異国
侗庵と西洋の「怪物」
おわりに
終章
怪異を「つくる」ことから見えること
【一】日本近世怪異研究史
【二】怪異から近世社会を観る―本書で明らかにしたこと
初出一覧
あとがき
上記内容は本書刊行時のものです。