書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
二代目市川團十郎の日記にみる享保期江戸歌舞伎
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年2月20日
- 書店発売日
- 2019年2月28日
- 登録日
- 2019年1月16日
- 最終更新日
- 2019年3月1日
紹介
江戸の歌舞伎劇場という一大商業圏は、こうして成立した。
役者と観客が文学、信仰、風俗を共有し、茶屋や商人を巻き込む要となった江戸歌舞伎劇場。歌舞伎の転換期といわれる享保期(1716~1736年)、二代目市川團十郎はそこでなにを演じ、どのように劇場を切り盛りしたのか? 遺された日記「老のたのしみ」「柿表紙」「柏莚日記」「病中日記」「市川團十郎日記発句集」の写本をはじめとした膨大な資料を駆使し、第一部「享保期の江戸歌舞伎」で二代目團十郎の演技・演出について、第二部「享保期歌舞伎の興行」で江戸歌舞伎劇場経営の役割について実態を解明する。欧米演劇研究の文脈で歌舞伎をとらえる端緒となる画期的研究書。江戸歌舞伎の「転換期」に何が起こっていたのか。そこには、役者・二代目團十郎が身分を超えて観客と、歌舞伎劇場は業種を超えて近隣商業を巻き込み、それぞれ発展していく姿があった。
【公共圏としての江戸歌舞伎劇場が、なぜ享保期に発生したのだろうか。それは、この時期に江戸歌舞伎劇場をめぐって形成された商業圏と関連しているのではないか。
江戸の歌舞伎興行と寺社の開帳興行は互いに影響し合いながら、両者とも集客に努めた。芝居茶屋は歌舞伎劇場の桟敷席を管理し、飲食のサービスを提供するようになった。歌舞伎役者はもぐさなどの商品を宣伝し、せりふ正本や番付など出版物を制作した。このように歌舞伎劇場はさまざまな業者を巻き込み、大きな商業圏を形成していた。江戸歌舞伎劇場はその要だった。】...おわりにより
目次
カラー口絵
はじめに
享保期江戸歌舞伎/二代目團十郎の日記/本書の概要/日記諸本について
第一部 享保期の江戸歌舞伎─二代目團十郎と演出の種々相
二代目團十郎の生いたち
第1章 二代目團十郎の読書体験と演技・演出
第1節 日記に登場する書物
第2節 『曾我物語』の記録と演技
日記中の『曾我物語』/曾我ものの演技
第3節 唐物の演出
第2章 江戸の開帳興行─不動明王の演技・演出を中心に
第1節 初代および二代目團十郎と不動信仰
第2節 元禄歌舞伎における不動信仰
不動明王の演出の由来/初代團十郎の不動明王の演技・演出/
初代團十郎と新勝寺の開帳興行
第3節 二代目團十郎の開帳興行の演出
二代目團十郎の開帳に関わる演出/歌舞伎と寺社との関わり/
二代目團十郎と寺社との関係
第4節 不動明王の演技の定型化
第3章 宣伝の演出と印刷物の制作─もぐさ売りを中心に
第1節 もぐさ売りの初演まで
第2節 もぐさ売りとそれ以外の商品、小道具
もぐさ以外の商品の宣伝
第3節 せりふ正本と番付
第4章 「助六」と喫煙の演出
第1節 煙草の伝来と流布
第2節 享保期歌舞伎における喫煙場面
第3節 「助六」と吸い付け煙草
二代目團十郎の煙草好み/助六のモデルとその来歴/
吸い付け煙草の場面/「助六」と市川家「歌舞伎十八番」
第二部 享保期江戸歌舞伎の興行
享保の改革と歌舞伎界
第5章 享保期江戸歌舞伎の劇場経営
第1節 享保期江戸歌舞伎劇場の経営構造
歌舞伎劇場の収容人数/入場料の変化/役者の出演料/金主について
第2節 歌舞伎興行における座頭の役割
盆狂言「根源今川状」の経緯/役者および作者の管理/桟敷席の料金/桟敷席の予約方法
第6章 森田座の休座と控櫓による河原崎座の旗揚げ
第1節 江戸三座の成立
江戸前期の歌舞伎劇場/享保期の森田座
第2節 控櫓の成立
新規歌舞伎劇場開業の試み/控櫓の成立/控櫓の性質
第7章 享保期の芝居茶屋
第1節 芝居茶屋の由来
中世から延宝期まで/茶屋での売色/芝居茶屋の飲食のサービス/元禄期の芝居茶屋
第2節 元禄期以降の芝居茶屋
茶屋の組織化/芝居茶屋と絵島生島事件/享保期の芝居茶屋/役者の管理
第8章 江戸歌舞伎の観客
第1節 劇場図にみる客層
時期ごとの劇場図の特徴/時代による変遷
第2節 桟敷席の観客
武家/僧侶/町人/上流の女性/女中
おわりに
あとがき
初出一覧
索引(人名・役名/書名・作品名・事項)
前書きなど
【推薦文】
武井協三[国文学研究資料館名誉教授]
ビュールク・トーヴェさんの著書『二代目市川團十郎の日記にみる享保期江戸歌舞伎』は、画期的な本である。本書は、歌舞伎を世界の演劇の中に置いて考える。日本の芸能を、世界的視野で考察する端緒が、本書によってもたらされているのである。
そういった大きな視点もさることながら、トーヴェさんの研究は「煙草」「茶屋」「観客」といった、従来の研究では見逃されがちであった側面に着目し、当時の歌舞伎の細部にまで綿密な検討を加えている。『二代目團十郎日記』や劇場内図など、江戸時代の文献や絵画の資料に直接あたり、享保期を中心とする18世紀歌舞伎の、演技や興行の実態に肉迫する。その方法は堅実にして大胆。本書は歌舞伎研究に新たな視野を切り拓(ひら)くものとなった。
ロバート キャンベル[国文学研究資料館館長]
一人の俳優が書き残した何種類もの日記を繋ぎ合わせ、精読する。シンプルに見えて、実に精妙な読解を必要とする。手ほどきの師匠との四〇年ぶりの再会から書き起こす著者は、二代目團十郎が読書を通して演技や舞台演出をどう花開させたかを冒頭で述べ、その上で信仰の軌跡、不動明王の演技と演出、同時代の芸能と寺社との関わり等へと半径を着実に広げていく。
日記を中心に据えながら、当時から後世の記録を引き合わせ、劇場運営と「個」としての嗜みとの間を何度も往還し、時代の空気と動きと芝居の面白さを読者の眼前に運び込んでくれる。一冊に外連味のない、清々しい佇まいがある。
上記内容は本書刊行時のものです。