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出版者情報
自由の国と感染症
法制度が映すアメリカのイデオロギー
- 初版年月日
- 2021年12月10日
- 書店発売日
- 2021年12月14日
- 登録日
- 2021年10月25日
- 最終更新日
- 2021年12月3日
書評掲載情報
2022-03-05 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 渡辺靖(慶應義塾大学教授) |
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紹介
「この分析で重要な点は、政治制度の質と公衆衛生の成果の間に単純な相関関係はないことである。望ましい政治的・経済的成果をもたらすと考えられている政治制度の中には、公衆衛生を妨げるものもあれば、逆に促すものもある」(序文)
ワクチン接種義務や検疫のように個人や商業の自由を大きく制限する措置は、合衆国憲法の規定のもとではさまざまな軋轢を生んだ。一方、上下水道システムが充実して公衆衛生が大きく改善されたのは、合衆国憲法が私有財産権を保障して信用市場の安定を促したためだった。公衆衛生とはこのように、国家構造を規定するイデオロギーや市民の選好が互いに影響を及ぼしあった結果である。
本書では、天然痘・腸チフス・黄熱病という三つの感染症の事例について、アメリカの法制度との関係を中心に精緻に考察する。ハミルトンら合衆国憲法の起草者たちが各条項に込めたイデオロギーはどのようなものであったか。トクヴィルはアメリカ社会をどのように観察したか。諸外国ではどうか。そして実際に何が起こったのか。
本書の洞察は現今のアメリカ社会だけでなく、日本をふくむ世界各国の国家構造と公衆衛生との関係を考える手がかりとなるだろう。
目次
序文
謝辞
第一章 はじめに
アメリカにおける感染対策の起源
アメリカの憲法秩序と死亡率転換
現代に生かす なぜ歴史が重要なのか
第二章 タウンシップのイデオロギーから細菌説の福音へ
正の外部性と公衆衛生
トクヴィルとタウンシップのイデオロギー
天然痘ワクチンとタウンシップのイデオロギー――事例研究
商業のイデオロギーと連邦権力のアイロニー
都市化と公衆衛生におけるタウンシップ・アプローチの終焉
細菌説のイデオロギー的要請
細菌説で推進された政策と事業の歴史
細菌説による個人の権利の侵害
この章のまとめ
第三章 健康と繁栄の憲法的基盤
多数の暴政と司法の独立性
公衆衛生における多数の暴政の一例――サンフランシスコでのペスト対策と中国人
連邦制、経済的繁栄、公衆衛生
連邦制、裁判所、公衆衛生
派閥の問題の憲法による解決と公衆衛生および経済への影響
この章のまとめ
第四章 自由という伝染病
天然痘の歴史
天然痘とアメリカの憲法秩序
アメリカの経験の国際比較
この章のまとめ
第五章 財産権保護による信用回復
腸チフスの原因、症状、感染経路
細菌説からミルズ=ラインケ現象まで
都市上水道の制度的基盤
この章のまとめ
第六章 帝国、連邦制、そして黄熱病の突然の終焉
アメリカにおける黄熱病の歴史
黄熱病と国際貿易
黄熱病、関税、合衆国憲法
黄熱病とアメリカ帝国主義の探求
連邦政府の国内外の不一致――簡略な比較
検疫の政治経済学
不完全情報とニューオーリンズへの過剰な検疫
黄熱病と、公衆衛生の商業的起源――二つの事例研究
この章のまとめ
第七章 結論
原注
索引
上記内容は本書刊行時のものです。